「イチョウ?」
幸村は、歩き出してしばらくすると、イチョウと同じかもしれないと言った。
「イチョウは落葉する時に、徐々に葉を落とすんじゃなくて一斉に落ちるんだ。何故だか原因はわかっていないんだけれどね。」
「へー。そうなんだ。」
「ふふ、そうなんだよ。それで、もしかしたら今回見つけられた花って言うのは、イチョウと同じ性質を持つのかもしれない。」
「一斉に葉を落とすということか?」
「葉というより、花びらかな。一斉に落弁するタイプかもしれないと思ったんだ。」
「何故そう思う?」
「ううん・・・まあ、ひとつはさっき散歩の時に見かけた花びら。」
「あれで分かるわけ?」
「いや、あれだけじゃわからないんだけれどね。ただ、見た事がない花びらだったから、一斉落弁する花は聞いたことがないけれど、俺の知らない性質を持つかもしれないと思って。」
(精市が知らない花って、相当珍しいな。)
幸村は花が好きで、大抵の花のことは知っているのだが。
「それから、裏付けというわけじゃないけど、そろそろ・・・ああ、思ってた通りだ。」
「うわ。」
カーブを曲がり、宝物がある地点の前ー--真田が見つけた丸石の道まで来ると、フェンスの向こうに花びらが溜まりだしていた。
「なるほど。一斉かどうかは抜きにして、散り始めているのは確かなようですね。」
「だな。間に合って良かっ・・・」
桑原は、今まさに自分が背負っている、眠りっぱなしの紀伊梨のことを思い出して言葉を切った。
「zzzzz・・・」
「五十嵐さんは、間に合うかどうか微妙なところですね。」
「五十嵐、起きろよ?せっかくお前と真田が見つけてくれたのに、お前が見逃してどうするんだ。おいってば、なあ・・・」
「んんんん・・・・」
「さきほどから身じろぎの回数は多くなっていますから。もう少しで起きるのではないですか?」
「そうか?なら良いんだが・・・」
そう言っている間にフェンスの所まで辿り着き、昨日と同様に扉は開けられた。
フェンスの内側になると、そこかしこにふわふわと白い花びらが舞っていた。
「わあ・・・何か、今の段階でも幻想的で綺麗ですね。」
「何も起こらんと良いがの。」
「え?」
「何が起こるんだよ?」
「ああでも、こういう時は神隠しが起こるみたいな気はすんねw」
「えええ・・・」
昨日の今日でそんなこと言われると、不安になる。
と顔に書いてあるような紫希の手を、丸井は当たり前のように繋いだ。
「え?」
「何してるのおたくはw」
「だから、どこへも行かないようにだよ。」
「昨日先にどこかへ行ったのはお前さんの方じゃろ?」
「もうしねえの!」
なんて3人は会話しているが、紫希はひとり、繋いだ手をどうしたら良いのか迷っていた。
昨日までだったら、自分は手がかかる存在だと思われてるんだなあ、とばかり思う場面だけど。
でも、そうじゃないって昨日説明してもらったし。
だから、それなら許されるかな、と思って、そうっとそうっと握り返した。
そしたらもっと強い力で繋ぎ返されて、紫希は何だか気持ちが暖かくなった。
安心する。
「む・・・おい!そろそろ着く頃だ、盆地の様になっているから、足下に気を付けろ!昨日五十嵐は転げ落ちたからな。」
「・・・んにゅ?紀伊梨ちゃん呼ばれた・・・あれ?え?ここどこ?」
「ようやっと起きたか、長かったの。」
「ここは宝のある場所ですよ。昨日、五十嵐さんが探し当ててくださった所です。」
「????」
「おい、本当に起きているのか!」
「わけがわかっていないんでしょう。」
「起き抜けの顔じゃき。」
「結構花びら増えてきたな・・・」
「まあな。これだけでも珍しい景色っていったらそうだけど。」
「・・・・・」
「春日、どうしたんだ?」
「あ、ごめんなさい・・・ちょっとその、滑りそうで怖くて、」
「大丈夫だって、転んだら捕まえてやっから。」
「でも、」
「それより、そっちの手つかないようにしろよ?」
「ああそっか、左手を怪我したんだったな。」
「は、はい・・・」
「なんかちょっと寒さマシになってきたねw」
「日が出るのも近いな。」
「・・・・・」
「・・・どうしたの精市。危ないよ。」
幸村は上空を見上げていた。
しばらくいつもの顔で見上げていたが、やがてふっと笑った。
「きれいな薄紫だなあと思って。」
「・・・?うん、まあ。」
「なんだか良いことがありそうな気がする。」
「?薄紫が?・・・ああ、」
そういえば、喫茶店で占いした時に出てたっけ。ラッキーカラーは薄紫、って。
思い返しながら歩いていると、一同はとうとう、昨日真田と紀伊梨が到達した花畑に出た。
「・・・・わー--!すごーい!」
紀伊梨の声に隠れたが、それぞれが感嘆の声を漏らした。
白い花が辺り一面に咲き誇っていて、風に乗って花びらが時折舞い散る。
それは美しい景色だった。
ほぼ全員が見とれながら奥へ進む中、幸村は振り返る。
「精市?」
「・・・くるよ。」
「え?何が?」
「夜明けだ。」
まるでライトの様に、太陽がとうとう山の影から姿を表した。
眩しい。
綺麗。
と一同が思った、次の瞬間。
・・・ヒュウ・・・ヒュウ・・・・ビュウ!
「え!?わ、え!?何何!?」
「おい、何だこの風は!」
「対流だ!」
「対流だと!?」
「そうだ!冷たい空気が、夜明けによって温められることによって、空気に流れが生まれているんだ!」
珍しく柳が大声を張り上げる。こうでもしないと、風の音に遮られて聞こえないのだ。
「ちょっと待って!何がどう、何も見えない、」
「千百合、こっちに!皆、納まるまで目を開けない方が良い!」
「目がどうの以前に、ここまでくると息がしづらいんじゃが、」
「ぐっ、けほ!けほ、けほ!」
「平気か、なっちん。」
「大丈夫、けほ、ちょっと花びらが口に、」
「きゃあっ!」
「春日!おい、大丈夫か?」
「す、すいませ、」
「下手に立ち上がらない方が、楽かもしれませんよ、」
「確かに、座ってる方がこの場合良いのかもな・・・」
まさに暴風とでも呼ばれるような強い風に煽られて、一同は各々その場に座り込んだ。
四方から殴りつけてくるような風。花びら。
一体自分達は早朝に起きて苦労して此処まで来て、何しているんだろうかと多かれ少なかれ思い始めた頃、風はやっと納まった。
「・・・・納まりましたね。」
「多分な・・・」
「おい。大丈夫なのかよ?怪我してねえ?」
「だ、大丈夫です・・・ありがとうございます。」
「・・・急に静かになられても、それはそれで気味が悪いっていうか。」
「本当だね。不思議なくらい静かだ。」
「ちょっと待って、けほ、今のうちにコンディションを整えたい、」
「またいつ同じことになるかわからんからのう。」
「あー!」
「今度は何だ!」
「お花散ってるー!」
「む!・・・これはどうしたことだ!」
「幸村の推測は正しかったな。」
本当に花畑は、一斉に落弁した。
全部全部風に巻き上げられて、さっきまで白い絨毯の上に居るようだった景色は、今はもうすっかり花びらが落ちて葉の緑色が残るだけだった。
「えー--!もっと見たかったー!」
「うむ。惜しい景色だったな。」
「まあ、仕方がない。むしろ。幸村のおかげで、一瞬ではあるが全員で見られたんだ。それで良しとしよう。」
「ふぇーい・・・」
しょうがないと思いつつ、どうしても溜息を吐いてしまう紀伊梨。
はあ~・・・と深く嘆息すると、何かが鼻をくすぐった。
「ふぇくちっ!え、何?・・・あれ、お花?」
「何?」
紀伊梨につられて、全員が朝焼けに彩られた上空を見上げた。
すると。
「・・・・わああああ・・・・!すごいすごい、きれー--!」
巻き上げられた花びらは、全て上空に浮かんで、そして今ひらひらと元の所に落ちていた。