皆が薄紫の空から花降る光景に目を奪われる中、真田はひとり、背後を振り返った。
「・・・・・・」
「ほ、ほ、ほ、ほ・・・あうわっ!」
「ぐ!」
いきなり背後からぶつかってきた紀伊梨に、真田は押されて2人して倒れた。
衝撃で、地面に積もっていた花びらがふわっと舞い上がって、えらく可愛らしい光景に何人か笑った。
「絵面がwファンシーw」
「ああいうのこそ撮っておいたら。」
「それは俺の役じゃないだろう。」
「ああ・・・」
「プリッ。」
「え、嘘!紀伊梨ちゃん可愛い?撮って撮ってー!」
「~~~~!撮って、ではない!下りんか!まったくお前というやつは、昨日と言い今日と良い!」
「ごめんごめーん!ちょーっと上見てただけなんだよう!そしたらちょっとこう、足下フラッと来ちゃっ・・・ん?」
「どうした?」
「・・・今何か聞こえた?」
「何?」
「何か、ガサッて。」
行こうとした紀伊梨の腕を、真田は掴んで引き留めた。
「行くな。」
「およ?」
「行かずとも良い。ここに居ろ。」
「え、なんで?」
「・・・いろいろと事情があるのだ。」
「???ふうん?」
まあ、真田が行くなと言ってるのだから。そこまで行きたいわけじゃないし、良いかな。
とりあえず納得した紀伊梨は、また上を向き始めた。
「やー・・・すごいねー、真田っちありがとー!」
「なんだ急に。」
「えー、だってさー。真田っちの家に巻物がなかったら、これは見られなかったっしょ?あとあと、間違って捨てられちゃってたりとか、汚れてたりとか!」
「・・・いや。おそらく、捨てられも汚されもせんだろう。」
「えー、でも倉庫?みたいなとこにあったんっしょ?」
「たわけが!きちんと普段から整頓していれば、倉庫だろうと物が傷むことはない!そもそも、倉庫と言うのは必要だからこそ所持していたい物を保管する場所であっ、て・・・」
言葉を続けようとして、真田は途中で止めた。
「・・・そうかもしれんな。」
「およ?」
「まかり間違えば、捨てられていたやもしれん。」
「ほらー!ほらやっぱりそうなんじゃーん!」
捨てられるは言い過ぎかもしれないが、一生見ることはなかったまではあるかもしれない。
(考えてみると、お祖父様がそもそも蔵を見てみろと言ったのも、わざとなのかそうではなかったのか・・・)
「ねえ!」
考え事の途中でいきなり紀伊梨が目の前に出現し、真田はちょっとのけぞった。
「なんだ!」
「真田っちも見よーよ、お花!」
「さっきから見ているだろう、」
「嘘だ、見てないYO!何かむつかしー顔しちゃってさー、もっとちゃんと見て!ほら!こんなに綺麗なんだから!」
まあ確かに、見るのに集中してたかと言われればしてなかった。
律儀な真田はそう言われると、なんだか急に悪いことをしている気分になって、自ら仰向けになって横になった。
(・・・・・・ああ、)
確かに、美しい。
朝焼けのラベンダーの色をした空。
舞い落ちる白い花弁。
時折吹く風。
周りからは、こしょこしょと友人たちが会話する声が聞こえる。
なるほど。
宝と呼ぶに相応しい時だ。
(・・・宝か。)
「・・・宝とは何だろうな。」
「え!?これでしょ!?違うの!?嘘!」
「そういう意味ではない!これだ、これのことなのだ!それはそうだがー--くそ、上手く言えん。」
「???」
「・・・何でもない。とにかく、他に宝があることを疑っているだとか、そういうわけではない。気にするな。」
「ほーい。」
ばたん!と紀伊梨はその場に勢いよく寝転んだ。
花びらがふわっと辺りに舞って、満足そうに笑った。
紀伊梨のその姿を見て、真田も思わず笑みが零れた。
これで良いのだと思った。
誰がどんなつもりで居たとしても。
自分はこれで良いのだと心の底から思った。