早朝からとびきり贅沢な時間を過ごした一同だったが、彼らは皆中学1年生であった。
つまり、全員が家に帰ってからお叱りを受けたのだった。
日帰りで遊びに行ってくるわって言って出て行って、土壇場宿泊とは何事ですか。全くもう、迷惑かけて。
救われたのは、「保護者無し」だったことがばれなかったことであった。
仁王が自らの母親のふりをして、全員の家に電話をしてくれたのだ。これがバレていたら小言どころじゃなく、真面目に1月は遊ぶの禁止を言い渡されていたと思われる者も何人か居る。
ただまあそれでも、お説教なしとは当然いかず。各々が程度の差こそあれ、前日の疲労と早朝起床のコンボでふらふら状態で午前帰宅し、帰宅した端からお説教を食らうことになった。
「良い、もう今後絶対こんなことはしないように。」
「「はい。」」
千百合と棗は、揃って母から説教されていた。
「次やったら、向こう3ヶ月は遊びに行く時父親同伴ってことにするから。」
そんなことになるくらいなら部屋から一歩も出ない方がいくらかマシ。千百合はそう思いながら、兄と一緒に2階に向かった。
「は-あ・・・」
「流石に怒られたねw」
「流石にって言うか、母さんはどっちかっていうと、こっち方面のことは人より怒るじゃん。」
「まあねw内弁慶タイプで他所様のこと苦手だしw」
あまり言わないが、こういう時は双子の兄が居て良かったと思う。一人で怒られるより二人で怒られた方が楽。
「ふう・・・」
自室に入って鞄を投げ出し、ベッドに倒れこむとふかふかのマットが自分を迎えてくれる。
疲れた。
今日はまだ始まったばかりだけど、昨日の疲れがまだまだ残ってる。
というか、一応足で下山してきたから、山は歩いているのだ。疲れるはずだ。
(ああ・・・まずいこれ・・・寝そう・・・)
いや、寝ても良いのだ。良いんだけど。
~~~♪~~~♪
「・・・!」
千百合は目を開けて、スマホを起動した。
『もしもし?』
「ああ・・・もしもし。」
『ふふ、眠そうだね。』
「うん、眠い。予想してたより眠い。」
今日もテニス部はフリーである。
幸村は一晩寝てしっかり体力を戻したので、できればこの貴重な時間を一緒に過ごしたかった。だから家について元気そうならまた会おうということで話がまとまっていたのだが、駄目だった。
「もう、ベッドが柔らかかくて柔らかくてさあ・・・」
『あはは、無理しないで。疲れたよね。春日も五十嵐も、多分今日は辛いと思うよ。女の子なんだし。』
「・・・・・・」
『また、元気になったら一緒に居よう。ね?』
「・・・・ん。」
眠い、と惜しい、の狭間で揺らめき続ける千百合だったが、流石に眠気が勝った。
もうだめ。もう無理。
「精市、今日は何すんの。」
『ストリートテニスだよ。』
「元気かよ・・・」
『ふふ。まあね、うかうかしていると置いて行かれちゃうから。』
「誰に。」
もっぱら置いていく側に回っているくせに、何を言ってるんだろうか。
じゃあおやすみ、と電話越しに囁かれながら、そんなことを思った。
「・・・ふう。」
電話を切ると、幸村は立ち上がって少し伸びをする。
本調子じゃないな、というような感覚がある。ベッドの数に限りがあったとはいえ、やっぱりソファベッドは疲れが抜けきらない。
まあ、それでも動けないほどじゃない。眠くもないし。
予定通りテニスに行くかと階下に降りると、たまたま父親がコーヒーを飲んでいた。
「また出かけるのか?」
「うん。柳とストリートテニスに行ってくるよ。」
「母さんから聞いたが、事前の許可なく外泊をしたらしいな。」
幸村は動きを止めた。
「説教はもう済ませたと聞いたから、ひとつだけ確認するが。」
「うん。」
「千百合ちゃんは危ない目に遭わなかったか。」
「大丈夫だよ。」
「そうか。それなら良い。」
「うん。行ってきます。」
幸村の父は、たまにこうやって千百合の安否を聞いてくる。
これは千百合が気に入ってるとかそういうことじゃない。我が子の態度について尋ねているのである。
かつてやると決めたことを、今でもちゃんとできているか。その確認を行っているわけだ。
母も知らない。真田も知らない。千百合も知らない。
幸村と、幸村の父親である久永。2人の間でだけわかる話。
別に秘密というわけじゃない。他人に知られたって、構わないといえば構わないんだけど、まあプライドの話。
「さて・・・あ、柳!ごめんね、待たせてたとは思わなくて。」
「いや、良いんだ。俺も今来たばかりで、丁度連絡しようと思っていたところだ。」
「そう?それなら良かったんだけど。」
今日も晴れている。
日差しの中に、2人は駆けだした。