昼になり実際にサロンに行くと、忍足は座って文庫本を読んでいた。
「あっ、居た居たっ。」
「そこ居ないんだ・・・」
「えっ?瑠璃何か言ったっ?」
「ああ、ううん。何でも。」
「オーイ、忍足ー!」
「ん?ああ、可憐ちゃん達。」
「おじゃましちゃってごめ~ん。」
「別に平気やで。どないしたん?」
「あのね、ちょっと選挙のことで、興味があってというかっ。」
「選挙?」
「生徒会選挙で、跡部君は勝てないかも、みたいなことを忍足君が言ってたって、茉奈花ちゃんから聞いて・・・どうしてだろうってっ。」
「ああ、あれな。」
忍足はす・・・と辺りに視線を巡らせた。
「・・・まあ、理由はいろいろあるんやけど。今回の選挙、跡部がどうのて言うより、他の候補者がな。」
「え、何々~?」
「誰か、強そうな人が居るの?」
「強そうて言うより、皆めっちゃやる気あるさかい。」
「え、ソンナニ!?」
「ど、どうしてっ!?」
「まあ、半分は跡部がそう仕向けてしもたみたいな話やねんけど。」
「「「「?」」」」
話が見えず顔を見合わせる可憐達。
「まずひとつやねんけど、そもそもやな。」
「はいっ。」
「跡部が今生徒会長になってるていうんは、非公式やねん。」
「・・・・えええええっ!?」
「真美、うるさい。」
「お前だけ出て行くか、ん~?」
「ご、ゴメン・・・」
「で、でもっ。非公式って一体、」
「そもそも、今の生徒会長ていうのんは、去年の生徒会選挙で選ばれた生徒が会長やろ?去年までイギリスの小学校に居った跡部が会長なんは、おかしいと思わへん?」
「・・・・そう言われてみれば、そうなんだけどっ。」
「跡部君だし、ほらその辺・・・」
なんとなく、跡部は超法規的存在というイメージが皆の中にあり。だから跡部が生徒会長の座に座っているのも、まあ跡部だからねみたいな感じで受け入れていた。
「というかそもそも、よくよく考えたらおかしいみたいなこと、平気でやるのが跡部君だしっ。」
「まあね~。知らない間に生徒会長になってるのなんて、無数の非常識のうちの一つでしかないっていうか~。」
「じゃあ、現時点で跡部君が生徒会長やってるのはどうして?」
「まあ、元々跡部は生徒会に入るつもりではあったんや。会長は選挙での決定でも、役員はちゃうさかい。」
「ホウホウ。」
「ただ、入学して生徒会入った直後に、改革レポートを当時の会長に提出してな。」
「改革レポートっ?」
「・・・という名の駄目だしレポート~?」
「朝香はもう・・・」
「いやまあ、榎本さんの言う通りやで。べつに怒ってるとか抗議とか、そういうわけやなかったみたいやけど、ここがあかんとか、そこはもっと効率良うできるとか、こうした方がええに決まってるのになんでせえへんねん、みたいなことをな。」
「跡部君・・・!」
なんでこうあの王様は。自分が有能だからって、他人も同じようにできると思ってしまうのか。
「それでまあ、ショックやったんと、普通に中身に尊敬したいうのんもあってやな。生徒会長の座を譲った・・・というかまあ、そんなシステムはあらへんから、書類上は今でも前の生徒会長のままやねんけど。実務に当たる様になったんは跡部、ていうことになってるのんが現状やねんな。」
「ハー・・・で?それでなんで次の選挙で不利になるワケ?」
「まあ、単純に跡部にほんまに票が集まるのんか、ていう話や。皆なんとなくイメージで勝つやろと思うてるだけで、別に選挙に勝ったていう実績があるわけやないさかい。」
「なるほど。もしかしたら大した人気じゃないかも・・・みたいな発想があるわけね。」
「確かに、跡部君敵も多いから・・・」
「後はまあ、アンダードッグ効果とかやな。」
「アンダードッグ?下のイヌ?」
「学のない反応をありがと~。」
「ダレが学がないって!?誰が!」
「わ、私もアンダードッグ?効果とか知らないよっ!」
「まあまあ。アンダードッグていうのんは、まあ日本語で言うと噛ませ犬のことやな。ザックリ言うと、勝負の時にあからさまに不利な方に同情票が集まって、勝敗がひっくり返ることを言うんや。」
「へええ・・・・」
(忍足君って、いろいろ知ってるなあっ。)
そんなの可憐は初めて聞いたわけだが、この手の心理効果はそれこそ心理戦の話なので、知っている方が珍しい。跡部なら知っているだろうが。
「それから、もう一個大きな理由として。」
「アレ、まだあんの?」
「というか、メインはこっちの理由やと思うねんけど。今の生徒会とか学校の設備て、跡部がいろいろ揃えてるやろ?」
「うんっ。」
「これは、会長が変わったからいうて、消えてなくなったりせえへんねん。」
「・・・っていうと~?」
「つまり、跡部が会長やなくなったからて言うて、急に学校生活が不便になったりはせえへんていうことや。」
金持ちにもいろいろタイプがあるが、跡部はケチではない方の金持ちである。
今まで生徒会長の権限で学校にいろいろ設備投資してきたが、それは跡部の中でもうくれてやったもの。生徒会長の椅子から下りることになったからといって、返せなんてことを言う気はない。
「跡部が会長やないと今の生活が送れへんていう条件やったら、跡部に票が集まるやろけど。」
「ハハー!純粋に、人格の部分が試されるわけですな?」
「そう。それと、反対に今の環境の氷帝学園を動かしてみたい、て思うてる生徒はまあまあおんねん。」
「えええ・・・」
「そ、それってちょっと、ずるくないかなあっ?だって、跡部君がお膳立てしてくれたようなもので、」
「まあ、お膳立てを誰がしたなんて、そこらの生徒には関係ないもんね~。」
「榎本さんはリアリストやなあ。」
多分、榎本の気持ちが一番大多数の氷帝の生徒に近かろう。可憐や忍足はどうしても跡部の友達なので、贔屓目にみてしまいがちだ。
「じゃ、じゃあ跡部君は生徒会長になれないのっ?」
「いや、なれへんとは限らへんで。ただまあ、圧勝できるかどうかは。」
「でも、他に対抗馬とか居るの?言って跡部君って目立つから、凌ぐ票を集めるのは簡単じゃないと思うけど。」
「まあ、ええ勝負が出来そうなんはひとりやな。深谷一二三ていう、2年生やねんけど。」
「あー、私知ってる。海外交流委員の委員長やってる人だよね。」
「瑠璃詳しいねっ。」
「割と有名だよ。2年生だけどてきぱきしてて、3年生顔負けだって。」
「あの人か~。けっこ~跡部君とバトってたりするよね~。」
「え、朝香も知ってるワケ?」
「あたしバド部の書類係やってるから~。けっこ~こ~見えて、生徒会の方はうろつくんだよね~。」
忍足は軽くうなずいた。
「まあ、さっき可憐ちゃんも言うてたけど、跡部は敵も多いさかい。跡部の態度が気に入らへん、ていうやつの期待の星みたくなってるわ。」
「はー・・・確かに、こうやって聞いてると、結構負けるザイリョウも揃っちゃってるっぽい感じ?」
「だ、大丈夫かなあ跡部君・・・!」
「可憐はやっぱ、跡部君の味方?」
「えええ?う、ううん・・・」
確かにそう言われると、ちゃんと「誰が会長になるべきか」なんて考えたことはなかった気がする。ただ何となく、跡部が勝つだろうと思っていたし、それに異論も特になかったから、対抗馬のことなんて考えもしなかった。
「・・・でもやっぱり、私跡部君に票を入れるかなっ。友達だからっていうのもそうだけど、跡部君が会長なのが、私はしっくりくるよっ。皆はっ?」
「いや、私正直、ちゃんと考えたことなくて・・・保留にさせて?」
「え、マジで!?」
「そんなに驚かなくても・・・真美は跡部君なの?」
「そらもう!私の友達じゃ無いけど、友達の友達よ!ミカタするよ!朝香は?」
「私もも~ちょっと考えよっかな~?公約も出てない時点で決めるのもね~って感じだし~?」
「まあ、そうやな。公約やとか所信表明やとか、そういうのんはもうちょっと後になって出てくるさかい。」
「忍足君はっ?」
「俺は跡部に入れるで。」
忍足は実にさらりと言った。
「おお~。当然のように~。」
「まあ、友達ていうのんもちょっとはあるけど。跡部の方が、学校生活面白なりそうやさかい。」
「ほう、そいつは良い話を聞いたぜ。」
全員がぎょっとして声のした方を向くと、跡部が立っていた。
「選挙の投票は、個人の自由意思に基づくべきだからな。俺様に味方しねえ奴に向かって、味方になれ俺に入れろ、なんて言って回るのも不細工だと思っていたところなんだが・・・俺様の味方になると決めているのなら、話は早えじゃねーの。」
「・・・何が言いたいん?」
「忍足。それから桐生。」
跡部はとても愉快そうに口元に笑みを浮かべて言った。
「選挙戦の間、お前達を俺の秘書に任命する。光栄に思えよ!」
「・・・・・えええええええ!?」
「はあ・・・・・」