その頃、跡部は廊下を歩いていて、網代に声をかけられた。
「跡部君!」
「アーン?網代か、どうした?」
「丁度良かったわ、来月のメニューよ。見ておいて。」
「ああ、ご苦労だったな。」
「・・・・」
「何だ?」
何かもの言いたげな網代に、跡部は続きを促した。
「・・・侑士君と可憐ちゃんに、生徒会選挙の秘書を頼んでるんですってね。」
「ああ。別に、今のタイミングなら彼奴ら2人抜けても部活に支障はねえだろう。能力的にも見合っているし、本人たちの了承もー--」
「それはどうかしらね。」
「何が言いてえ?」
「部活に支障がないのは同感よ。能力的に敵うというのも賛成だわ。ただ、跡部君はあの2人に言ってないことがあるんじゃない?」
「ほう。面白え、俺様が何を黙ってるって?」
「とぼけないで頂戴。今回の選挙戦、跡部君の敵に回る人達は、皆秘書に当たる人達を狙ってくるわよ。跡部君じゃなくてね。」
生徒会選挙戦は、実は候補者の実力もさることながら、秘書のポジションが結構重要である。
候補者はなるべく直接生徒と触れ合い、事務仕事は秘書役がこなす。車の両輪関係であるため、どっちかが滞ると、生徒からは「ごたごたしている」というイメージが付き、得票を失うのだ。
だから、実はばちばちの潰し合いが起こった場合、それは候補者同士の間ではない。秘書役同士の間で起こるのだ。
候補者は生徒の目に触れる存在であるがゆえに、潰し合いが発生したら誰が先に手を出したのか丸わかり。その点秘書は、裏で争っていても表にはなかなか出てこない。
「何かあったらどうするつもりなの?」
「何もねえよ。本当に何かがあったら、選挙どころじゃねえ。教師が動く。」
「そりゃあ流石にね、私も暴力沙汰だとか、いじめみたいなことにはならないとは思うわよ。こういう言い方はあれだけど、たかだか生徒会の選挙にそこまでする人も居ないでしょう。でも、その一歩手前くらいまではありうるわよ。」
「その程度なら彼奴らは自力で解決するだろうよ。」
「そんな保証がどこにあるのよ。」
「はっはっはっはっはっはっ!」
跡部は大笑いをした。
「お前は何か勘違いをしているな?」
「・・・何を。」
「良いか。世の中、保証があるものなんてどこにもねえんだよ。」
跡部からしてみたら、網代は無いものに対して、出せと詰め寄ってきているようなものである。おかしくて仕方がない。
「まあ、性格的にお前はその手の物を求めるタイプだというのはわかるがな。」
「はいはい、分かったわよ。まあ私は、怪我だけないのなら後はもう文句はないわ。」
言い出すと聞かないんだから。
そう言って、網代は軽く溜息を吐いて、手を振って去って行った。
その後ろ姿を見て、跡部は小さい小さい声で言った。
ー--相変わらず、嘘の達者な奴だな。