Whereabouts 2 - 1/8



にわかに現れたスパイ(?)に怯える可憐だったが、実際、そこから2日間は平和な日々が続いた。

この前みたいに、いきなり入ってくる人も居ないし。それこそ、秘書のことで何か変わったことと言ったら、クラスメイト達が秘書やってるんだって?頑張ってー!とかそういう言葉をかけてくれることくらい。

だもんで、可憐は4日目にもなると、もうスパイのことはほとんど気にならなくなっていた。

「4、5、6・・・うんっ、揃ったっ!」
「お疲れさん。ほんなら、置いといてくれたら俺が持って行っとくさかい、」
「ううん、良いよっ!そんなに重い物でもないしっ!私持っていくから、忍足君はそっちを進めておいてっ!」
「・・・わかった、ほんなら。」
「はあい、行ってきますっ!」

なんて言って、可憐は一つ上のフロアに書類を運ぶべく廊下に出た。
そのまま階段を上がろうとしたところで、上から下りてくる人とすれ違い。

「あら。」
「・・・・!こ、こんにちはっ!」
「うふふ、そんなに固くならないで。あの時はごめんなさいね、お邪魔してしまって。」
「い、いいえっ!そんなの、全然っ!」

あの生徒だった。ノックしてノー返事で入室してきた生徒。
まあ言い換えると、スパイ疑惑のある人。

「そう言ってもらえると、有難いわ。でも、いくら気にするなと言ってもらっても、やっぱり恋人同士の逢瀬を邪魔するのは良くないから・・・」
「・・・えっ?」
「えっ?」
「・・・だ、誰がっ!?誰と誰がっ!?何を言い出すのっ!違う、違うからっ!」
「あら、そうなの?私てっきり・・・」
「てっきりじゃないよっ!っていうか、一体どこからそんなことを、」
「だって貴方達、テニス部の桐生さんと忍足君でしょう?」

彼女はにっこり笑って言った。

「女子テニス部に知り合いが居るから、聞いてるのよ?部活が忙しすぎてデートする暇もないから、2人で手を繋いでお水を汲みに行ったって。」
「・・・・・・あああっ!」

それはあれだ。
夏合宿の時の、他校の女子生徒を避けるために出した忍足の嘘。

「ち、違うの違うのっ!あれはなんていうか、あの場を納めるための出まかせっていうか、嘘も方便っていうかっ!」
「あらまあ。そうだったの、それは悪かったわ。重ね重ね、ごめんなさいね。」
「ああ、うん・・・分かってくれたなら、うん・・・」

(・・・そういえばそんなこともあったな。)

思えばあの時はまだ自覚してなかったから、ただ純粋にどぎまぎしていたっけ。

今はもう、あんな気持ちにはなれないだろう。
たとえ嘘でも、忍足の口から付き合っている風なことを伺わせられるなんて、嬉しい反面空しくて悲しくて堪らないに違いない。

ー--そんな可憐の心情を知ってか知らずか。彼女は言った。

「それはそれとして、桐生さんはどうなのかしら?」
「え?」
「嘘だということはわかったわ。でも、本当になれば良いのとに思ったことはなくて?」
「・・・・え、いや、」
「私はお似合いだと思うわ、とってもね。これを機会に、アプローチしてみるのも良いんじゃなくて?」
「・・・・・ううん、私・・・そういうのは、ちょっと・・・」
「あら、どうして?」
「・・・本当に、そういうのじゃないからっ。友達だから、アプローチって言われても・・・」

まあ正確に言うと、友達「だから」というより、友達「でしかないから」が正解である。もはやアプローチをしたところで、一体何になると言うのだろう。

こうなる前なら意味が合ったかもしれない。でも、今となっては、もう。

可憐がそう思っているのをまるで悟っているかのように、女生徒は食い下がってきた。

「お友達から始まる恋愛があっては、いけないのかしら?」
「いや・・・上手く言えないんだけど、いけないとかじゃなくって。忍足君は、その・・・」
「あなたがそんな風に見ていないの?」
「あ、ええと・・・」
「男の子として、興味がないのかしら。」
「その・・・!そういうわけじゃ・・・・」

可憐はプチパニックであった。

どう返事をすれば良いのかわからない。
まさか、こんな通りすがりの人に向かって、すでに片思いをしているなんて言えない。失恋は最早確定的だなんて、もっと言えない。

でも、言わないで黙っているとこの子は畳みかけてくる。
関係ないでしょ放っておいてよと言っても良いのだけど、そんな風に言ってしまったら、それこそ間接的に自分の気持ちを吐露しているようなもの。

どうしよう。どうしたら良いの。誰か助けて。助けて。助けて。

助けてー----

「可憐ちゃん。」

肩を軽く叩かれて、可憐ははっと我に返った。

「忍、足君・・・・」
「・・・どないしたん。」

忍足は、えらく戻りが遅いなと思って迎えに来ただけなのだ。
もしかしたら、また転んだりしてるのかもしれないと思って。

そしたら可憐は階段で止まっていたのだが、肩を叩いて振り向かれて、その顔色の悪さに忍足は大層びっくりした。

「あら、ナイトのご登場だわ。」
「は?」
「いいえ、何でも。じゃあ桐生さん、またね。」

綺麗な笑顔でひらひらと手を振って、彼女は下へ下りて行った。

その背中を、可憐も忍足もじっと見つめていたが、やがて壁に遮られて見えなくなり、消えて行った。

「・・・可憐ちゃん、何や言われたん?」
「えっ!?い、いや言われてないよっ!あ、こないだはいきなり部屋に入ってごめん、的なことは言われたけど・・・」
「他には?」
「ほ、かに・・・」

他にも、言われた。
でも、言えるわけもない。何を言われたかなんて。

それこそ、他の誰にバレたとしても、忍足と網代にだけは言ってはならないのだこんなこと。

だから可憐は首を横に振った。

「・・・言われて、ないよっ。」
「・・・せやったらええねんけど。」

忍足はもう一度、彼女が消えて行った階段を振り返った。