『僕は、僕なりの方法でこの学園をー---・・・』
深谷の堂々としたスピーチが聞こえる。
候補者は皆選管が並べたパイプ椅子に座って待機しているが、秘書勢や選管は舞台裏や袖を必要に応じてうろついて良い。
可憐と忍足は、なんとなく下側の袖に近い所に居た。
オーディエンスより、距離が近い分こっちの方が聞きやすいかもしれない。
「深谷先輩、原稿見てる・・・跡部君、原稿ないけど大丈夫だよねっ?」
「ええんとちゃうやろか。本人が要らへんて言うてたし、普段からこういうのん慣れてるやろうしな。」
そう。大抵の人が原稿用紙を持ち込んでいるのに対し、跡部はそれすらも持っていない。カンペなしの一発勝負だ。
(まあ確かに、跡部君なら・・・)
「それより可憐ちゃん、今日はどないや?どっちか、何か言うてきてへん?」
「だ、大丈夫っ。今の所はっ。」
「さよか。すぐ言うてな、どんなやり方でもええさかい。」
「うんっ。」
「おい、忍足。」
2人が振り向くと、跡部が指でこっちに来るようにジェスチャーしていた。
忍足は一瞬だけ可憐に目線を走らせ、跡部の元へ行った。
可憐はそれを見送り、再度舞台に目を向けると、丁度深谷のスピーチが終わった所であった。オーディエンスが拍手している。
(し、しまった後半全然聞いてなかったよっ!どんなこと言ってたのかな、跡部君平気かなっ。)
スピーチが終わると、深谷は可憐が居るのと反対側の袖へと引っ込んだ。
だから鉢合わせはない。(というか、鉢合わせないようにしたのだが)
代わりに、次の人が舞台へと出て行くべく、可憐の傍を通った。
それを避けようとして、少し立つ位置を変えた丁度その時だった。
「俺様が信用できねえってのか?アーン?」
大きな声というわけではなかった。多分舞台上の人には聞こえないだろう。
それでも舞台袖に居た人間たちには普通に聞こえる程度の声で、跡部は言った。
「そうは言うてへんやん。」
「一緒じゃねえか。つくづくお前は網代に発想が似ていやがるな。万が一を考えて、むざむざ高い可能性の方を捨てる気か?」
「万が一が起こったら困るからやろ。」
「最悪を避けるために、最悪から二番目を進んで取るつもりか?それで何か解決するのかよ。」
「え?何?」
「どうしたんだ、あれ?」
「喧嘩・・・?」
(お、忍足君!?跡部君!?)
不穏な空気を、周りも可憐も察知した。
まずい。何が起こっているのか知らないが、良い事じゃないのはわかる。
「あ、あのっ、2人ともー--」
「なあ君、ちょっと良い?」
「えっ?」
「跡部の秘書だろ?君。」
「あっ、は、はいっ!」
「ああ、良かった。ちょっと良いかな?順番、一番最後だよね?実は、時間のことで連絡をしたいんだけど・・・ほら、あっちがちょっと取り込んでるっぽいから・・・」
「あ、ああ・・・はいっ。私聞きますっ。」
あっちも気になるが、こっちも対応しないといけない。混乱している可憐の背中から、選管の女生徒の声が聞こえてきた。
「貴方達、静かにしてください。今スピーチの最中なのよ。揉めるなとは言わないけれど、ここは止めてください、こっちでやって。」
(ええええ!?ま、待って待って、今日はなるべく忍足君の近くに、)
「それでね、今のペースなんだけど元々の持ち時間が・・・あの、聞いてる?」
「ああ、は、はい、はいっ・・・」
だめだ、体が足りない。
結局可憐は舞台袖に残り、忍足と跡部は裏の方に連れていかれてしまった。