だあれ。
4人がそう思いながら振り向くと、背後に知らない3人組が居た。
年の頃はおそらく同い年位なので、中学生だろう。高校生ではあるまい。男子が2人。女子が1人。
「出るよー!」
「も、って事はおたくらもかw」
「そう!俺達もなんだ。な!」
そう言って、1人は愛想良く挨拶してくれるが。
「フンッ!」
「・・・・・・」
鼻を鳴らしてそっぽを向く女の子。
スマホから一切顔を上げない男の子。
「え、えと・・・」
「・・・なんなのよ。」
「あ、あはは!悪い悪い、結構気難しい奴らでさ・・・って!」
「こら、紀伊梨!」
紀伊梨はちょこちょこ、と女子の方に寄っていく。
「ねえねえ!」
「話しかけないで。」
ツーンと首を別方向に向ける女子。
しかし落ち込んだ様子もなく、紀伊梨は続いて男子の正面に回り込んだ。
「ねえねえ!」
「・・・・・」
「ねーってー!」
「・・・・・」
「ねえってばー!」
意外に早くしびれを切らしたらしい。男子の方は舌打ちをして、顔を上げた。
「ねえ「うっせえんだよ、さっきから!なんなん・・・・・・!」
その時。
反応したのは彼の目か。
頭か。
それとも別の何かだったか。
「・・・・・・・」
彼はそっぽを向いた。
別に機嫌を悪くしたわけではない。
ただ、可愛いと思ってしまったのだ。
「ありゃ!ねえねえ、そっち向かないでよー!お話しよーよー!」
「あの、紀伊梨ちゃん・・・」
紫希がそろそろ頃合かと見計らい、紀伊梨を回収する。これも良くあると言えば、良くある事だ。
「お邪魔してはいけませんよ、ね?」
「そーなのー?」
「そうですよ、行きま・・・!」
良くある事だが、相手が悪かった。
紀伊梨の背中越しに、彼は不機嫌丸出しの顔で紫希を睨みつけた。
「え、え、え、」
「どったの紫希ぴょん?」
「ええと、ええと、あのう、」
「紫希ww可哀想かよww」
「ちょっと、そっちの連れでしょ。始末しなさいよね。」
「はああ!?元はと言えば、そっちの阿保そうな女の方が近づいてきたんでしょ!?」
「おい、止めろってば!そもそもとかいう話ならこっちが悪いんだからな!拓未も止めろ!ほら!」
「紫希ぴょんどったの?」
「い、いえ・・・」
睨まれたのは気の所為だろうか。いや間違いなく気の所為ではないだろう。
「いや、ごめんな!改めまして、初めまして!俺、笛寺順平って言うんだ!ドラムな、よろしく!で、こっちの只管スマホ見てるのが沖野拓未。ほら、拓未!」
「フン!拓未がまともに返事するわけないわよ、初対面の奴らに。」
ところがどっこい、である。
「沖野君、よろよろw」
「・・・・」
「よろよろ。」
「千百合ちゃん!?」
「ほら、紫希も。」
「ええ!?よ、よろよろ・・・?」
「・・・・」
「たくみん!よろよろ!☆」
「!・・・し、しょうがないな。お前らが其処まで言うなら、宜しくしてやっても・・・」
「うっは、やったあ!宜しくたくみーん!」
「ぶふっw」
棗はもう、おかしくて仕方がなくて、体を「く」の字に曲げて笑ってしまう。
(分かりやす過ぎでしょw)
(紀伊梨ちゃん的にはどうなんでしょう・・・?)
(あれは紀伊梨のタイプじゃないんじゃない?悪いけど)
ヒソヒソ話す3人の傍、さっきからツンツンしている女子の方は、沖野が紀伊梨に甘い顔をしているのが気に入らないらしくイライラと眉間に皺を寄せている。
「えと、此奴は、」
「木崎千歳!ボーカル!」
声音にもガッツリイライラが混じっている。紫希はちょっと引いた。
(悪い!千歳の奴、拓未とは従妹なんだ!ほら、身内がデレデレしてるのってあれだろ?どうしても虫の居所がな?本当ごめんな!)
(ああそういう事w)
(こっちに関係ないでしょ、八つ当たられても迷惑なんだけど)
(ま、まあまあ、千百合ちゃん・・・)
(いやもう、ほんとごもっとも!ごめん!)
「ちょっと順平!何話してんのよ、余計な事言わないでよ!」
「分かってるって!で、ごめんそちらさんは?」
「はいはーい!」
紀伊梨がビシ!と右手を挙げた。
「紀伊梨ちゃんは、五十嵐紀伊梨ちゃんでーす!ギターボーカルで、後ね、リーダーなんだよ!」
「へえ!兼任なのか、凄いな!」
「はっ!こんな馬鹿そうな奴にリーダーなんか務まらないわよ。」
「にゃにおう!?」
「あの、紀伊梨ちゃんはちゃんと、」
「まーまーまーまーまーwほら、ね?普段リーダーっぽく見えないのはほんとじゃん?」
紀伊梨を抑えて紫希を宥める棗。
後ろでは笛寺が大変そうである。
「おい、千歳!お前失礼な事ばっかりいうなよ!」
「本当の事言っただけじゃん!」
「あのなあ、お前・・・」
「千歳。」
拓未が割って入った。
「・・・そもそも、話しかけたのは順平が先だろ。だからもう少し、」
「何よ!何よ何よ何よ!あんた達皆して!」
「皆も何も「拓未!拓未、其処まで言わなくて良いから!な?」
大変そう・・・と、紀伊梨を除く3人は思った。
木崎からしてみれば、笛寺の制止はともかく沖野からの言葉は逆効果である。
注意と言うよりも、紀伊梨に入れ込んでる発言としか取れないからだ。
「終わった?続けて良い?俺、黒崎棗ねwドラム。」
「お!一緒だ!」
「そーねwで、こっちは双子の妹w」
「千百合。ベース。」
「へえ!成程、似てるなーと思ったら兄弟なんだ!」
「此奴と兄弟とか本当嫌。」
「あはは!まあ、兄弟ってそんなもんだよな!・・・で?」
笛寺は紫希の方に顔を向けた。
「君は?キーボードとか?もしかしたら、ツインギターだったり?」
「あ、いえ、私・・・その・・・楽器は、やらないんです。」
「え?」
目を丸くする笛寺に、紫希はなんとなく気まずくなってしまう。
「まああれよwお抱えの作詞家ってやつよw」
「作詞!?」
「そうそう!私達、ビードロズは!全部の曲がオリジナルなのです!」
「作曲は紀伊梨。作詞が紫希。うちはそういう感じなの。」
「へー!良いな羨ましいなー!うちは完全にコピー曲だから、何時かオリジナルとかやってみたーーー」
「・・・馬ッ鹿みたい!」
木崎は、キッと紫希を睨みつけた。
「馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい!何が作詞よ!単に舞台に上がるのに、ビビってる腰抜けじゃない!」
「おい、千歳ーーー」
「はっきり言っておくわ!私、あんたみたいな奴が一番嫌いなのよ!」
「え・・・」
「いっつもおどおどビクビクして、そうやって大人しく縮こまってたら誰かが助けてくれると思ってるんでしょ!?良いわよね、甘やかされて育った人は!何もしなくたって、周りに好かれてちやほやされて!」
「おい、千歳!」
「何が詩よ!ふざけないで!そんなもん只の文字の羅列でしょ!誰だって出来るような事だけして、いっぱしのバンドのメンバーぶって!馬鹿にするのもいい加減にーーー」
パン!
「・・・拓未、」
「千歳、謝れ。」
沖野の右手は、綺麗に木崎の左頬を捉えた。
言い返そうとしていた紀伊梨や千百合も、拓未のビンタに束の間怒りが吹っ飛んでしまう。
「・・・・嫌よ!」
「良いから謝れ。これ以上情けない奴になるな。」
「情けないですって!?」
「情けないだろ。今のお前、今日初めて会った人に対する顔じゃねえぞ。」
何時だったか、図星を指されると人は立腹すると丸井が言って居た事を、紀伊梨は思い出していた。
みるみる内に怒りに彩られる木崎の顔。あれは正にそうなのではないだろうか。
「・・・絶対に謝らないわよ!私は悪くない!私悪い事なんかしてないんだから!」
「千歳!」
木崎は走って行ってしまった。
沖野も、悪いと一言笛寺に言い残し後を追った。
後に残ったのは溜息を吐く笛寺と、色々処理が追いつかないビードロズ達である。
「・・・ごめんな、紫希ちゃん。あんな酷い事言って、許してくれっていうのも無理かもだけど。」
「いえ・・・」
「ねーねーじゅんじゅん?」
「ん?俺?」
「そう!ねえあの子さー、どっかで紫希ぴょんと会った事あるの?」
「え?」
「初めて会った人にする顔じゃない、って言ってたでしょ。私もそう思うわ。」
確かにツンケンした性格だとは窺い知れるが、あの怒り方、あの言い草は初対面の人間に出来るそれではない。
笛寺は困った顔をして、又長い溜息を吐いた。
「こう言うと尚更悪いけど、紫希ちゃんとは関係ないんだよ。ちょっと長い話になるけどさ。」
「別にそれは良いよw」
「それもだし、ちゃんと説明して。うちのメンバーをあそこまで言っておいて、話もしないで逃げられると思わないでよね。」
「千百合ちゃん、私は・・・」
「お前、紀伊梨が馬鹿にされた時に言い返そうとしてた気迫はどこ言ったのよw」
「・・・そうだな。ちゃんと説明しないとだよな。」
言うのもどうかと思ったが、そもそもは木崎が悪いのだ。仕方あるまい。
「実はさ、千歳の奴、片思いしてるんだ。」
「ほうw」
「へー!誰々?」
「聞いたって分からないでしょ。」
「えー!でも気になるよう!」
「ははは!同じクラスの男子だよ、普通に。いや、まあ普通でもないかな・・・実は、千歳は小学生なんだ。13才だけど。」
何故、と言おうと開きかけた紀伊梨の口を千百合が塞いだ。
恐らく、病気か何かだろう。3人はそう思った。
「あ!お察しの通り病気なんだけど、今はもう全然だから、気にしなくて良いって!ただ、ほら。そういうのって、何かと目立つだろ?
そんな中で、気にしなくて良いよって言ってくれた子が居たみたいでさ。千歳はその子を好きなんだけど。まあ、ぶっちゃけて言うとあんまり芳しくないんだ、強力なライバルが居てね。」
「ふーん。で、そのライバルとやらが紫希に似てるとか、そういうオチ?」
「・・・御明察。」
はあっ!と千百合は大仰に溜息を吐いてやった。
「完全に八つ当たりじゃない。馬鹿はどっちよ。」
「千百合ちゃん・・・」
「本当ごめん!申し訳もない!」
「えー!でも恋のライバルって言ってもそんなに嫌いなのー?」
三角関係ではあるけれども、もしかち合ったとしたって、あそこまでがーっと怒るものだろうか。
紀伊梨にはいまいち分からないが。
「うーん・・・色々あるんだ。先ず、その男の子、色々趣味があるんだけど、その中にピアノがあるんだよ。習ってるらしくて。」
「男で?」
「男の子でもピアノは習う子が居るんじゃないでしょうか・・・」
「そういうもん?」
「ははは。まあ、そういうわけなんだけど、その恋のライバルっていう子がさ。音楽が好きなんだけど、人前に出るのは嫌なんだって。」
「あー・・・」
「ふうん。」
「・・・それは確かに、私もそうですね・・・」
「で、歌が好きで色んな国の歌を知ってるから、詩の話でその男の子と仲が良いんだよ。」
「うーわ。」
「おおう・・・!」
「それは又w」
なんというピンポイントな事態。
「良く分かったと思うけど、千歳ってああだろ?基本強気だし、言いたい事は言うし、愛想も無いしさ。片や、その詩の方の女の子は大人しくて控えめで。」
(・・・悪かったわね)
言いたい事は言うし愛想も無い。それは自分だってそんな様なものだと千百合は思う。
「ま、男としちゃあやっぱり千歳と比べたらさ。どうしてもその子や紫希ちゃんの方に軍配上がるっていうかーー」
「こらっ!」
ぺし!と紀伊梨が笛寺の額を叩いた。
「そーいう事言っちゃ駄目なんですぞ、じゅんじゅん!」
「でも・・・」
「千百合っちだって、きつい事言うしあんまり笑わないし強気な方だけど!でも!千百合っちは素敵な女の子だよ!」
「あ、違う!そういうつもりじゃ、」
「勿論紫希ぴょんだって可愛い女の子だよ!女の子は皆可愛いの!」
「そ・・・」
「だから、ちーちゃんも可愛い女の子なんだよ。あの子と比べてとか、そんな事絶対言っちゃ駄目だよ。」
笛寺は木崎の友人である。
だから、本心では木崎の事を可愛くないなどと思っては居ない事は分かってる。
しかし、それでも言って欲しくない。
「笛寺君。」
「紫希ちゃ・・・」
「紀伊梨ちゃんの言うとおりです。女の子は皆可愛いです。どんな性格で、どんな見た目でも、優しささえ持っている人なら。」
「・・・・・・」
「木崎さんは、素敵な女の子だと思いますよ。恋に直向になれる、一生懸命な子です。今はこんな事になってしまいましたけど、普段からああではない事は、笛寺君を見ていれば分かります。」
「・・・・うん。」
「ま!あれだよ。」
棗がポン、と笛寺の肩を叩いた。
「俺達、そういうの嫌いなの。」
「そういうの・・・?」
「どっちが可愛いとか。どっちが女の子らしいとかどっちが誰それ君に相応しいとか、そういうの!」
飽きた。そういうの。
碌な目にあった試しがない。もううんざりだ。
「うんうん!だからもー言っちゃ駄目だかんね!」
「・・・うん。そうだな。ごめん!なんか、カッコ悪い所ばっかり見せて。」
「本当にね。」
「千百合w」
「言っておくけど、あんたの事は兎も角。木崎の事は私、紫希にちゃんと謝る迄許すつもりないからね。」
「それはもう!今度、フェスの時にでも絶対謝らせるから!」
「あ、いや、あの、私そんな・・・」
「いや!これは紫希ちゃんがどう言おうと謝らせる!こういうのはちゃんとしないと、彼奴を甘やかす事になるから!」
意気込む笛寺。普段から謝るのが下手くそな子なんだろうなというのが窺いしれる。
「まあこう言ってるんだし、今回は謝られときなw」
「は、はい。じゃあ・・・」
「ではでは!改めましてーー・・・えい!」
紀伊梨は笛寺の両手を、自分の両手でギュッと握った。
「私達!立海大附属中の1年生バンド「ビードロズ」です!まだ夏は先だけど、フェスの時はよろしくねん☆」
ばちん、とウィンクを飛ばす紀伊梨に、笛寺は顔が明るくなる。
「・・・ああ!俺達は氷帝学園の「ツクヨミ」だ!良いフェスにしよう!」
「うん!絶対ね!約束ね!」
この日、ビードロズは初めてのライバルに出会ったのだった。