ふっ、はっ、という小さい声がコートの片隅に聞こえる。
夕暮れのテニス部では、丸井と仁王がまだラリーをしていた。
ベンチでは柳生と桑原が審判を兼ねて待っているが、2人はもう制服だ。
他の者は、もう皆引き上げた。明日の新人戦は2年生も出るが、その2年生でさえもう居ない。
「ゲームセットアンドマッチ。ウォンバイ丸井、7-5。」
「お疲れ様です、お2人とも。」
「はあ、はあ・・・」
「ふう・・・」
丸井と仁王は座り込んだ。
しんどい。すごく、すごくしんどい。辛い。
でも。
「・・・・もっかい、」
「できるんか・・・?」
「当たり前だろい・・・はあ、お前出来ねえの?」
「馬鹿言いなさんな、お前さんに出来て俺に出来んわけないじゃろ。」
「言うじゃねえか、今俺に負けたくせに。」
「4勝3敗で勝ち越しとるだけじゃろ?次は俺が取る番じゃ。」
柳生と桑原は顔を見合わせた。
やる気があるのは結構なことだけど、そろそろ止めた方が良いんじゃないだろうか。
と思って2人ともさっきから、折を見てちょいちょい声かけはしているのだが、どうも2人とも聞き入れてくれない。
まあ、自分が同じ立場だったらと考えると、止めるに止められないような所もあるけど。
でもいい加減、と思い始めた所で、涼やかな声が割って入った。
「そこまでだよ、2人とも。」
「幸村君・・・」
「幸村・・・」
すっかり着替えた幸村の後ろには、同じくもう帰る姿勢の真田と柳も居る。
「気持ちは分かるけれど、これ以上は明日に響くよ。休息やコンディション管理も実力の内だ、もう止めておいた方が良い。」
「・・・わかった。」
「プリッ。」
ちゃんと返事をしたまえ仁王君、そうだ大体いつもお前は、と、生真面目コンビである柳生と真田から非難されながら、仁王はさっと立ち上がって更衣室に引き上げていった。
(・・・くそ。)
丸井は、あんなさくっとは立てない。
こういう所がやっぱりスタミナ不足なんだよなあ、と思い知らされる。
「丸井。」
「幸村君?」
「どうかな、調子の方は。明日は上手くやれそう?」
上手くやれそう。
そう聞かれちゃうと、もう返事は一択しかなくなるのが男の子という生き物であって。
「余裕余裕。任しとけって!」
「ふふ、そう。それなら良かった。」
いつもと同じ、穏やかな微笑で幸村は続けた。
「明日、皆も大丈夫だって。」
「ん?」
「ビードロズの皆だよ。予定を空けられたから、皆で来るって。頑張ってね?」
あくまでにっこり笑う幸村は、もちろんわざと言っている。
無様な負け方するわけにいかないんだぞ、と言ってるのだ。2重の意味で。
ちょっと可哀想かなとは思うけれど、これも幸村としては期待してのことでもある。
このプレッシャーに耐えられないと、立海でレギュラーは張れない。
丸井は、今レギュラーの椅子が近いプレイヤーなのだ。だからこそ。
「・・・OK!」
「うん。わかってくれてるなら良いんだ。それじゃ、明日ね。」
「おう。」
「・・・・・・」
笑って幸村を見送る親友の背を、桑原は複雑な思いで眺めた。
丸井は丸井なりに無理してる。
だから、無理するなよと言ってやりたい気持ちはある。
それと同時に、羨ましい気持ちもある。
丸井は明らかに、自分よりリードしている。新人戦に選ばれるというのはそういうこと。
親友として。チームメイトとして。競争相手として。
桑原と丸井の間には関係性が多くて、こういう時は何て言えば良いのかわからない。
(・・・春日ならなんて言うかな。)
紫希は取り敢えず、今は友達だから。
友達としての言葉が出てくるかな、と思った。