New comers 1 - 3/5


一方その頃氷帝学園でも、新人戦に向けて練習はラストスパートであった。

そこかしこから後一球!とかラストもう1本!とかいう声が聞こえる中、可憐達マネージャーは片付けの準備をしていた。

「今日もきつい~・・・」
「あはは・・・でも、やっぱり夏の大会より大分楽だよねっ。」
「まあねー、あれと比べると確かにマシだけどさー・・・」

軽く会話をしながら片づけていると、先にメニューを終えたらしい忍足が、数m先を横切って行ったのが見えた。

「・・・・・・・」

可憐はちょっと迷ったが、後を追った。




忍足はドリンクを飲んでいた。
周りに誰も居ないのを見計らって、可憐はそっと近づく。

「忍足君・・・」
「?ああ、可憐ちゃん。お疲れさん。」
「うん・・・」
「どないしたん?」

可憐は一瞬、言おうかどうしようか悩んだ。だが、ここまで来たらもう言うしかない。

「・・・あのっ。私が言う事じゃないのかもしれないけど・・・」
「うん。」

「・・・忍足君、本当に新人戦出ないのっ?」

そう。忍足はかねて言っていた通り、本当に新人戦の内定を蹴ってしまった。

忍足は本格的に向日とのダブルスに舵切をした。それに伴い、こんな状態でSで出たりしたら却ってコンディションが狂うという自己判断の元、辞退したのだ。

もちろん、今回出なかったからと言って、次の夏レギュラーになれるなれないみたいな話と直結してるわけじゃない。
それは分かるけど、でも出ないことは不利であることに違いない・・・と可憐は思うのだが、忍足はあっさり言った。

「出えへん。」
「そ、そうなんだ・・・」
「勘違いせんといてな。俺も、チャンスやていう気持ちはあんねん。ただ、俺は新人戦出場の枠が欲しいわけやのうて、あくまでレギュラー欲しいと思うてるさかい。」
「うん・・・」

可憐もそれは分かっているのだ。可憐は基本的に地頭が良い方なので、長い目で見て・・・という忍足の発想はわかる。ただ、それはそれとして性格的に慌て者なところがあるので、チャンスを見送ると焦ってしまうところもあるのだ。

まあ、可憐が試合に出るわけじゃない、と言われればそれまでなのだが。

「ご、ごめんね変なこと言ってっ。私ったらつい、当人でもないのに勝手に焦っちゃってっ。」
「心配してくれたんやろ?ええねん、おおきにな。」
「うんっ。」
「あと、一応言うとくねんけど。」
「え?」
「選挙活動してたから出られへんくなった、ていうのんもちゃうで。」
「あ・・・ああ、うんっ!それは、うんっ。」
「ちょっと疑うてへんかった?」
「・・・・ちょっと。」

一昨昨日のことだった。

あの中間スピーチ以降、本当になりを潜めた深谷陣営に、可憐は最後まで接触することなく、生徒会選挙は滞りなく行われた。

結果は、跡部の圧勝であった。
終わってから、秘書なんて要らなかったのでは・・・とちょっと思ったのは、可憐の秘密。
ああ溜飲下がるわ、とちょっと思ったのは忍足の秘密。

「だってっ!結構頑張ったと思うし、時間割いたと思うし・・・」
「せやな。それは事実やけど、でもあの件はほんまに、テニスとか新人戦とは関係あらへんから。安心してくれてええで。」
「・・・うんっ。」

本人がそこまで言うのなら、マネージャーである可憐はもうそれ以上何も言えない。

(・・・忍足君はえらいなあ・・・)

ただ粛々と、焦ることなく自分のやらなければいけないことに向かって進む。

最近急速にそれが出来なくなっている可憐に、忍足の姿はとても眩しかった。