「まさかですなあw」
「ねーねー、貴くん出るのかなー?ブンブンかニオニオと当たるかなー?」
「どっちかとは当たるかもね。」
立海の初戦の相手は、二宮西という名前の学校だった。
そして奇しくも、城成湘南を出た平川が新しく入った学校でもある。
現在、D2を立海が勝利してD1の試合を行っている最中。
丸井と仁王は今回Sで出るとのことだったので、試合はまだ。
そしてベンチの平川も、まだ出ていない。
補欠という可能性もあるが、Sで丸井か仁王かどっちかと当たる可能性はおおいにある。
(平川、貴也君・・・)
紫希は、平川のことを千百合ほど知ってるわけじゃない。面と向かって話したこともほぼ無いし。
でも、千百合から話は聞いている。だから、どんな選手かは知っている。
そもそも彼は城成湘南にスカウトで入ったのだ。
結局出て行くという選択肢を取ったものの、平川だって素質は十分と判断されたからスカウトされたのであって。
そして今、夏に転校したばかりで、もう次の学校で新人戦に出ている。
紫希の目には、相当な実力者に見える。
(勝てますように・・・!)
もう何度捧げたかわからない祈りを、紫希はまた捧げた。
一方。
ベンチでは、幸村の常に鋭めな第六感がまた良い働きをしていた。
「・・・・・・」
「暑い、タオルタオル。」
「・・・丸井。」
「ん、え?俺?」
「うん。ちょっと良いかな。忙しければ良いんだけれど。」
「いや、別に?何?」
「次、S3だよね。」
「おう。」
「もしもだけど。」
「うん。」
「相手が平川だった場合。」
「平川?平川、平川・・・ああ!元城成湘南の。」
「そう。俺が関東で試合した彼だけど。」
「そっか、見た事ある顔してんなと思ったけど、幸村君と試合したんだっけ。それが?」
「俺の分まで勝って欲しい。」
「・・・え?」
てっきり、一度相対したことがある者としてのアドバイス的な話かと思ったら、全然違った。
「幸村君の・・・分?分って何、この場合?」
「本当は、直々に俺が出て勝負して勝ちたいんだけれど、当たり前だけれど俺は新人戦に出られないから。」
「だから、俺に代理で勝てってわけ?」
「丸井が俺の代わりだとか、そんなえらそうなことは思っていないよ。ただ、俺個人が特にこの試合、勝って欲しいって思ってるんだ、ってことは覚えておいて欲しいんだ。」
別に丸井だって、勝つ気である。負けたいなんて微塵も思ってないから、別に良いと言えば良いのだが。やることは変わらないし。
ただ、それはそれとして。
「なんで?」
「ちょっとね。個人的に因縁があって。」
幸村と個人的に因縁があるとか、気の毒に。と丸井は思った。
良い方なら良いが、これはもう悪い方に違いない。空気でわかる。
「まあ、良いよ。OK。」
「ごめんね、個人的なことを頼んで。」
「別に?ま、どうせ勝つからな。」
それに。
逆に、幸村のこの言葉を前提として、平川貴也という選手を見ていると、丸井にもぼんやりわかることがある。
多分、千百合が絡んでいる。
何回か呼び出ししたらしいとは聞いたことがあるし。
(よりにもよって、黒崎・・・っつうか、幸村君の彼女にねえ。)
大した度胸だ。いや、度胸とかって問題でもないのか。
誰だって、彼氏持ちの女子なんて進んで好きになりたくない。敗北確定しているのに。
なんて思った丁度その時、D1でもあちらの敗北が確定した。
「ゲームセットアンドマッチ!ウォンバイ立海!6-3!」
「おし、じゃあ行ってくるぜい。」
「ああ、行っておいで。」
コートの方を見ると、屋根がかかってなくて眩しく照り返す光景の中に、観客席が見えた。
沢山の人が、笑ったり、落胆したり。
その中に。最前列に。
あの子が居る。