New comers 2 - 5/7


「両校、礼!」

「・・・よろしく。」
「シクヨロ!」

(シクヨロ・・・?)

やや変な口調の奴認定しつつ、平川はポジションに向かう。

現時点で、平川は丸井のことが全く分からない。
夏の大会で出てなかったから。
反面、自分は出ていたので、ある程度のことは知られているだろう。

ただ逆に、実力は自分の方が上と思っていた。
それこそ、自分は夏の大会に出られていたのに、丸井は出られてなかったわけなので。

というのが平川の見解であり。
そして、丸井の見解でもあった。

ああだこうだ言ったって、結局のところ自分は大会に出られなかった。相手は出られていた。
今だレギュラー経験のない自分と、前の学校でも今の学校でもレギュラー候補の相手。
差は歴然。

そう考えてはいる。
考えては。

ただ。

(思ってるかどうかは別なんだよな。)

はっきり言おう。
丸井は全然負ける気がしなかった。

「プレイ!」

「・・・・はっ!」

丸井のサーブからスタート。
大体はここからラリーがしばらく始まる。

が。

「フッ!・・・・!?なん、」
「よっ!」

「15-0!」

丸井のショットが綺麗に平川のコートに入った。

「・・・ボレーヤーなのか。」
「まあな。」

丸井はぐずぐずしていられない。
スタミナが切れるからだ。

だから勝負の時は速攻に持ち込む。
分析とか、様子見とか、そういう時間を与えない。
長引いたらジリ貧である。

ただそうは言っても、普通はそうそう上手くはいかない。

早く攻撃しないとという時間的な余裕のなさは、心に焦燥を生んで、隙を招く。
攻めに焦ると、かえって攻撃のポイントを見失うなんてテニスじゃよくある話。

丸井が優れているのはここ。


「ふっ!」


「30-0!」


「とっ!」


「40-0!」


「・・・・ここだ!」


「ゲーム立海!1-0!」


「・・・・・・」
「どお?天才的?」


丸井は、攻撃が通る瞬間がわかる。
今ならショットが入るな、という見極めはまさに天才のそれ。

わかっているから混乱しない。
焦らない。

チャンスが目の前に来たら、まるで目印がついているかのようにそれがわかる。
後は手に取るだけ。そう、簡単な話。




「やった・・・!」
「おー!ブンブンすごいぞー!行けー!」
「進むの早。ラリーしてないじゃん。」
「攻撃型だなあwそんなパワフルなショットってわけでも、スピード出して走り回ってるわけでもないのになあw」

丸井のショットは、跡部の破滅へのロンドのように、誰が見ても危ないとわかるような代物じゃない。
でも、通る。普通のショットに見えるけど、そんなことは関係ない。ポイントはポイントだ。

それは隙を見極める目と、それからー--思ったところにショットを打つ力。針の穴に糸を通すようなコントロール。

(すごい・・・・)

紫希は泣きそうになった。

丸井はすごい。
でもあの凄い力は、ただで手に入れたものじゃないということを紫希は知っている。

それこそ幸村なんかは、テニスのためにトレーニングとかしている姿を見せないから余計に。(しては居るのだろうけど)




「ゲーム立海!2-0!」


(まだ仕掛けてこねえのかよ。)

2ゲーム取っちゃったぜ。という目で平川を見る丸井だが、平川自身は丸井の方ではなく、自分のラケットを見ている。

仕掛けてこないはずはない。このまま勝てるなんて思っていない。
対幸村戦の時に見せた、スパークが未だに発動されていない。

はっきり言って、新人戦は当たる可能性のある選手の数が膨大過ぎて、データでは備えられない。どこそこの何某と当たる可能性が高い、みたいな見通しが立たない。
柳に頼めばリストアップは可能でも、全員への対策なんていちいちしていられない。

つまり、丸井は現時点でスパークに対する対策を持っていないのだ。

どうにかなるかもしれない。
どうにもならないかもしれない。

何にせよ、打ってもらわない事には対策もへったくれも。

(ちょっと突くか・・・?いや、やめとくか。)

煽るのは簡単だが、煽った末に妙なことになっても困る。
ひとまず今はこのまま進めよう、と思って踵を返そうとした丸井の背中に声がかかった。

「おい。」
「え?何?」
「言いたいことがあるのなら言えよ。」

さっきの丸井の様子を見て、何かしら話しかけるつもりであったことを察したらしい。
でも、もう良いんだけど。

「挑発でもしたかったんじゃねえのか。」
「しねえよい。妙なことになって怒られるのも気分じゃねえし。」
「怒られる・・・?」
「あー・・・いやまあ、ほら。部長に?」

半分は本当である。一応立海の方針として、不要だと判断したのなら挑発はするなというのがある。学校によっては、これで調子を崩してくれたらめっけもんとばかりに、がつんがつん常に挑発しまくりみたいな所もあるが、立海はそれはしない。

だからあながち嘘100%というわけでも無いのだが、平川はふん、と鼻を鳴らした。

「だっせえの。」
「は?」
「下手な嘘吐きやがって。現状のお前らの部長なんざ、お飾り部長だろうが。同級生に向かって怒られるからやりませんとか、恥ずかしくねえのか。そんなに彼奴がえらいのかよ。」

平川に限った話じゃない。
今年の立海テニス部。
代表者の名前を書く欄にはいつも佐川邦夫と書かれていても、実力順に並べたら佐川はトップにはなれない。
部の影響力に対してもそう。皆もう、幸村を始めとした三強を中心に回り始めている。
その三強が三人とも礼儀正しくて、実力が上であっても先輩を立ててくれているから、佐川は部長として行動できているけれど。

つまるところ平川は、現在のテニス部の実権を握っているのが幸村であることに当たりがついているのだ。
だから、先輩の言うことならともかく同級生である幸村の言うことに唯々諾々と従っているなんてダサい、と言いたいのだろう。

まあ、言ってる事は分かる。
分かるけど。

「・・・・お前さあ。」
「あ?」

「マジで幸村君のことばっかり考えてんだな。」

平川のやっていることは、八つ当たりである。
幸村を挑発したいけど居ないから、目の前の丸井に物申しているだけ。

丸井は、腹が立つとかを通り越して感心する。よくもまあ、ここまで目の前で戦っている自分をスルー出来るものだ。多分今の平川の頭の中は、7割幸村のことで残り3割千百合のことくらいじゃないだろうか。

しかしまあ、テニスはともかくとして、千百合の件は。

(無理じゃねえの、幸村君に勝つとか。)

「あ”?」
「え?」
「誰が無理だって、誰が?」

やばい、聞こえてた。
いやでも、この話の流れ。

「同じ学校のくせに、負けっぱなしで何とも思ってないお前と一緒にするんじゃねえよ。」
「おし。」
「は?」
「良いの!ほら、試合試合!いつまで経っても終わんねえだろい!」

やっぱりだ。テニスのことだと思ってる。千百合のこととは思われてない。
丸井は命拾いした感じがした。わざとじゃないとはいえ、千百合をネタに相手を煽ったりなどしたら、あの神の子様に一発良いのを食らってもおかしくない。