New comers 3 - 5/5


「い、良いんですか本当に・・・」
「良いの良いの。」
「でもお疲れなんじゃ、それに明日も、」
「だーいじょうぶだって!これくらい疲れた内に入んねえよ、余裕余裕。」

紫希と丸井は、夜道を2人で歩いていた。

目的地は春日家。
普通に歩いたら15分くらいだが、そのまままっすぐ帰ると、幼馴染で家が近い紀伊梨・棗コンビとルートが被る。から、ちょっと遠回りして20分かかる道にする。

紫希は、こんな日に往復40分歩くなんて、普通はそうはならないだろと思う。だが丸井や棗は、何言ってるんだ普通こうなるだろとしか思ってない。

「それで?」
「え?」
「お祝いは言ってくれねえの?」
「あ、はい!えっと、あの・・・」

いざ改めて言え、と言われると緊張する。
と口に出して言うと、多分未だに緊張するのかと笑われるだろう。

「・・・公式試合初勝利、本当におめでとうございます。すごかったです。」
「サンキュ♪」
「どうでしたか?やっぱり、いつもの試合とは違いましたか?」
「まあな。やっぱ、精神的に疲れる感じ?まあでも、今回は特別ってのもあったけど。」
「え?」
「ほら。あの、んー・・・言っちまうけどさ、あの平川ってやつ、黒崎のこと好きじゃねえ?」

う、と紫希は声なき声をあげた。

「・・・・・や、やっぱりそうなんでしょうか・・・」
「あ、やっぱり!そうだよな、やっぱそうだよな?今日も話しかけてきてたとか聞いたぜい?」
「はい。それで、あの・・・見間違いかと思ったんですけど、首とか耳が赤くって・・・」
「マジで?へー、結構分かりやすいよなあいつ。」
「丸井君は、話しかけてきた、って聞いただけでそこまでわかったんですか?」
「いや?幸村君が試合前に。」
「え?」
「あいつ多分敵だって。」
「・・・・・」
「自分の分まで勝てって。」
「ひ・・・」

若干引き気味の紫希に、丸井はちょっと苦笑した。
幼馴染と言えど、千百合が絡む幸村は怖いらしい。

「え・・・えらそうな言い方になりますけれど、良かったです勝ってくれて・・・」
「おう、俺もそれは自分で思うぜ。怒られるどころじゃ済まねえだろい。」

勝って終わったから良いけど、結構危ない橋だった。渡ってる時は必死だったが、渡り終えて振り返るとまあまあの恐怖感。

(ま、それはそれとして負けるわけにいかなかったけど。)

だって、せっかく見に来てくれてるのに。見せられるのが敗北した姿なんて、そんなの無いと思う。

「そうだ!ちゃんと一番前に居たな、見てたぜい?」
「あ・・・はい!約束しましたし、それに・・・」
「それに?」

「・・・絶対、ちゃんと全部見たいって思ってましたから。」

紫希ははにかみながら微笑んだ。

その笑顔を見ると、丸井はまた胸が詰まった。
あの時と同じだ。夏祭りの時と。

「幸村君の試合を見てて知ったんですけれど、後ろに居ると、たまに前の人に遮られちゃったりするんです。」
「・・・・・」
「それで、大事なショットを見逃したりとか・・・それに私達まだ子供ですから、前に大人の人が居ると背丈がもう・・・丸井君?」
「・・・ああ、何?」
「どうしたんですか?」
「いや?別に、何でも。」

ただちょっと。
理由はわからないんだけど、息が苦しくて。

言うと絶対心配されるから言わないけど。

「そうですか・・・?ああそうだ、思い出しました。聞きたいことがあって・・・」
「お?何?」
「あの、試合の途中でウインクしてましたよね?」
「ああ、したした!あれ幸村君に教わったんだよ。」
「え?」
「ジンクスだって。俺が勝つところ見てろ、って観客に伝わったら、負けられなくなるから気合が入るってさ。」
「ああ、そうなんですか。で、でも幸村君らしいというか、背水の陣ですよね・・・」
「まあな。負けたら洒落にならねえもんな、かっこ悪すぎて。もしかして、ちょっとひやひやしてた?」
「いいえ。」
「あれ、そう?」
「最初は、ちょっと・・・でも、丸井君がいつもの顔でしたから。」
「いつもの顔って、どんな顔だよ。」

「余裕で勝つ俺を見てろ、っていう顔です。」

何度も言ってもらった。
その度に丸井は勝った。

だから今回も、きっと大丈夫だと思えた。

「・・・そっか。」
「はい・・・あ。あそこ、私の家です。」
「え、マジ?早くねえ?」
「は、早くはないかと・・・もう21時半ですよ。」
「嘘だろい、もう20分経ってんのかよ?」

もうちょっと遠回りしても良かっただろうか。
いやでも、自分はともかく紫希が遅くに外に居るのも怖いししょうがないのか。

「じゃあ、ここで・・・ごめんなさい本当に、お疲れの日にこんなに歩かせてしまって・・・・」
「良いよ。嬉しかったから。」

子供みたいだから言わないけれど、なんだかんだやっぱり、中学あがって立海に入って、その上での公式戦初勝利だった。
他の人にとっては何でもない勝利でも、自分にとっては特別だから。

周りに居る人全員に、自分を祝えなんてとても言えない。でも、自分を見て欲しい人には祝って欲しいと、丸井も思っていた。

その願いを紫希が叶えに来てくれたことが、本当に嬉しい。

「・・・サンキュ。」

そんなの、と返した紫希は、そんなこと考えてもみないような顔だった。