New comers 4 - 3/4


結局この日の一回戦。
芥川はなんと。

不戦敗してしまった。

起きはした。
途中までやった。

でも、相手が弱くて。つまんなくて。どー--しても睡魔に負けて、5ゲーム連続で取ってたのにコートに倒れて眠り始め、不戦敗になった。

その後のS2で勝って駒は進められたから、ことなきを得られたといえば得られたけど。

「・・・・・・・」

運動公園の管理事務テントにて、手続きの順番を待っている間、可憐はベンチに座りながら頭を抱えていた。

今氷帝は、一部でなんとも言えない空気になっている。
その発信源に友達がなっているという、なんとも頭痛のする事実。

(い、いけないいけないっ!こんなんじゃ、目の前の仕事をまずこなさないと、)

気を紛らわすために、書類が揃ってるか確かめよう。もう、ここに来るまでに4回は数えたけど。

「いーち、にーい、さーん・・・あっ!」

ひらん、ひらん、ひらん。
と音が出そうな勢いで、書類が一枚抜けて、ぱさり。と落ちた足下に、男の子が居てそれを拾い上げた。

「あっ!ごめんなさいっ、それ私の・・・」
「・・・・・」
「・・・・落としたやつ、なんです、けど・・・?」
「・・・ああ、失礼。」

彼は、可憐の落としたそれを少しの間じっ・・・と見ていた。

咄嗟に何か情報を取られたかな、と思ったが、あれは多分氷帝の住所とか、調べたら誰でもすぐわかるようなことししか書いていない。はず。

「どうぞ。」
「あ、ありが・・・」
「それはそれとして、少々誤字脱字が目立ちますよ。」
「えっ!?」
「んふっ。例えば、ここの電話番号の所。代表者の番号を連ねる時は、カンマを打てと書いてあるはずです。」
「あっ!た、確かにっ!」
「それからここ。」
「えっ!?」
「この運動公園の住所欄ですが、ここの漢字。これは通常の『高』ではなく、梯子高。髙が正解ですよ。」
「あ、ありがとうそうなんだ・・・」

親切。というより、細かいというか。
きっちりしているなあ・・・と可憐が考えていると、彼の携帯が鳴った。

失礼、と言いながらも書類を手離そうとはしない。どうやら、まだ誤字の指摘を続けるつもりらしい。

「はい・・・はい?それは野村君に任せたはずですが?はあ・・・待ってください、それよりも。今、18日にと言いましたか?20日と言っておいたはずでしょう?」

(だ、大丈夫かな・・・)

なんだか不穏な気配がする。自分が怒られてるわけじゃないとわかっているが、そわそわする。あと、その持ってる書類返して欲しい。

「ですからその話は夏休み前に、先方と打ち合わせを・・・それで間に合うわけがないでしょうが!」

(あっ。)

ついに握られてしまった。皺になる。まあ、別に皺になったからといって怒られるような書類でもないから、良いけど。

「ああ、もう、もう良いです!何もしないでください、書類を提出したらすぐに戻りますから!」

ブチ!と音がする勢いで電話を切った彼は、はああ・・・と盛大な溜息を吐き。そのあとになって、漸く自分の手の中に人の書類が納まりっぱなしのことに気づいた。

「ああ、すみません取り乱してしまいまして。」
「あ、ううん・・・な、なんか大変そうだねっ?」
「ええまあ、トラブルがありまして。本当にうちの学校ときたら、段取りが悪くてうんざりしてしまいますよ。上級生だというのに・・・」
「う、ううん・・・・」

自分もその、段取りの悪い上級生とやらになるのではないかという危惧から、つい返事が濁る可憐。それに気づかず、彼は続ける。

「何かと言うと、創立したてでノウハウが無いからと言うんです。僕から言わせれば、もう当時の1年生が3年生になっているんですから、怠慢ですよ。」
「えっ、そうなのっ?」
「そうとは?ああ、創立したてということですか?そうですよ。学校としての歴史はそこそこですが、テニス部としては今年でやっと3年目ですね。」
「そうなんだっ。それじゃあ、いろいろ軌道に乗るまで大変だねっ。」
「はあ・・・僕から言わせてみれば、そういつまでも創立したての気分で居られると困るんですよ。やはりこういったことは、向上心が無ければ始まりませんからね。」
「そ、そう・・・」
「まあ、中には何人か気概のある人も居ますが・・・一人モチベーションの低い人が居ると、全員の士気が下がってしまいます。」

どす・・・と可憐に刺さる言葉である。

彼の言う事はもっともである。とても、もっとも。

「自分が部の雰囲気を作るんだと、まあそういう心持で普段からやって頂かなくては・・・どうしました?」
「・・・なんでもないです、ちょっと身につまされて・・・」
「身につまされて?おかしな方ですね。あなたの学校は、雰囲気から歴史から、どこを取っても現状一級品でしょうに。」
「えっ?ど、どうして私の学校、」
「ここに書いてありましたよ。」
「ああ、そっかっ!」
「話を戻しますが、あの氷帝学園に限って段取りが悪いだの部の雰囲気がだの、そういうことにはならないでしょう。あの有名な跡部君が居ますからね。」

跡部はもう、いろんな所に顔が売れきっている。だから、大抵の人が跡部のことも、跡部の功績の事も知っている。
ただ、違うのだ。あの跡部でさえ、手に負えない存在というのが居るのだ。

目立つタイプでもないし(ある意味ではすごく目立つけど)跳ねっ返りでもないから、いまいち存在を知っている人は少ないけれど。

「では次・・・ええ、聖ルドルフ学院。」
「聖ルドルフ?」

聞いたことがない。と可憐が思うと同時に、隣の彼がはい、と手を挙げて事務員の人に書類を渡そうと足を踏み出した。

「ああそうだ。」
「え?」
「自己紹介がまだでしたね。聖ルドルフ学院の、観月はじめと申します。以後、お見知りおきを。」