「結局こうなったか・・・」
「嫌な状況だな・・・」
「別に、何から何まで一緒ってわけじゃないでしょ?」
「それはそうだけどさー・・・」
口々に聞こえる声に、可憐の不安が煽られていく。
午後の試合も、氷帝は勝った。
そして新人戦決勝。
相手は立海だ。
(午前はちょっとだけ気楽に思えたけど・・・やっぱりいざってなると思い出しちゃうな、関東大会でのこと・・・)
あの衝撃的な敗北から、まだ2ヶ月とかそこらである。随分遠くに来た気もするが。
(まあ、芥川くんのこともあるし、また負けたとしてもああはならないって午前で・・・)
とか考えて歩いていたからだろうか。
「きゃうっ!?」
「わあっ!」
誰かと思いきりぶつかった。タオルで良く見えなかったが、耳慣れない声から他校の人であることはわかる。
「あたたた・・・ご、ごめんね大丈夫っ?」
「あ、ああ・・・すまない、こっちもあまり前を見てなくて・・・」
(あ。)
このジャージ。
「立海のマネージャーさんっ?」
「あ、ああ・・・」
「そうなんだっ!次の試合では、よろしくねっ!」
「・・・・・」
「・・・あ、あれっ?」
ひょっとして、敵は敵だ慣れ合うつもりはない、みたいなタイプだろうか。
可憐がしばらく黙っていると、相手は言いにくそうに口を開いた。
「・・・失礼だが、よろしくされてもよくわからないというか・・・」
「えっ?」
「最近入部したばかりなんだ。だから僕は、君がどこの学校かもわからないし、次にどこと当たるのかも、聞いたけれどよく覚えていないし・・・」
「あ、そうだったのっ?」
じゃあ、話しかけるなと思って返事をしてくれなかったわけではないのだ。可憐はホッとした。
「私、氷帝のマネージャーだよっ。」
「氷帝・・・」
「氷帝学園っていうのっ。東京だから、あんまり近くじゃないけど・・・よろしくねっ!」
「・・・よろしく。」
「あ、居た。おい、一条!」
その声が聞こえた瞬間、可憐は目の前の郁が、真っ赤になると同時に不機嫌な顔になるという小器用なことを一瞬でやってのける所を見た。
「って、あれ?お前。」
「あ、丸井君だっ!こんにちはっ。」
「おう!どうだった?」
「え?」
「この間のシュークリーム。」
「あ、ああ・・・あれは、えーと・・・と、とりあえず普通に食べてはもらえたかな?」
「そっか!良かったじゃん?まあ美味くできてたし、そこまで心配してなかったけど。」
「そ、そうかなっ?それなら良かっ・・・」
「?どうした?」
「え、う、ううん・・・」
可憐の正面には、今丸井が居る。
その隣には郁が居るわけだが、その郁がまあ怖い顔。
「・・・呆れた男だね。」
「は?」
「学校の女子を振り回すだけじゃ飽き足らず、他校の女子にまで手を出しているのかい。節操無しもここまで来ると尊敬するよ。」
「え、ええっ!?」
「はーあ・・・」
まぁた始まったぞいつもの発作。
くらいの丸井と違って、可憐は本気で動揺してしまう。
「ち、違うよ誤解だよっ!私そんなことされてないし、友達になったきっかけだって、」
「あー、良いって良いって。こいつこういう所あるんだよ。」
「こういう所・・・?」
「人に向かって思い込みで喋るところ。特に俺に。」
「お、思い込まれる方が悪いんだろ!」
「悪いとかいうけど、俺別に他校どころか女子に手出しなんかしたことねえよ。」
「にわかに信じがたいよ・・・その気になれば女子の2、3人平気で手玉に取れそうじゃないか。」
「えっ。」
「しねえよ!お前もさ、真に受けんなよ頼むから。」
「あ、ち、違うよっ!そういう意味じゃないというか・・・」
可憐のえっ、は丸井がそんな男だったのかと思った、というより。
(丸井君って、紫希ちゃんと良い感じなんじゃなかったっけ・・・あれ?でも、棗君が前言ってたのは、今はまだちょっと仲良しの友達だっけっ?じゃあ別に、良いのかなっ?)
「ええと、とにかくそういう意味じゃないからっ!丸井君が親切なのは、私知ってるしっ!」
「お、サンキュ♪」
「騙されて・・・」
「えええっ!?」
「あのなあ。」
「僕はもう行くよ。じゃあね、ええと・・・氷帝?の人。ぶつかって悪かった。」
「ああ・・・うん・・・」
可憐的には、いろいろとびっくりである。
「・・・・え?あの子なあにっ?」
「マネジ。見えねえかもだけど。」
「あ、うん。それは聞いたんだけど・・・見えないって言うか、よくあれでマネージャーできるなっていうか・・・」
部員に対する信頼なしに、マネージャーなんてやってられないだろう。可憐は、自分がマネージャーなだけに特にそう思う。
「なんだか変わった子だなあ・・・って!ご、ごめんね私ったらっ!他所のマネージャーさんに向かって失礼な事、」
「いや、良いよ。変な奴なのは事実だし。ま、慣れたらあれはあれで可愛いとこもあるんだけど。」
「そ・・・そうっ?」
可愛いんだろうか。いや、可憐は別に邪険にされてるわけじゃないからあれだけど。丸井から見たら、あれは十分可愛くない態度なのでは。
(丸井君って、本当にライトな感じで可愛いって言うタイプなんだなあっ。)
以前湘南に網代と行った時、カフェで居合わせ丸井に網代が「これがたらしよ」と言っていたことを思い出した。なるほど。これは確かに。
「ま、引き留めて悪かったな。」
「あ、ううんこっちこそっ!お互い、頑張ろうねっ!」
「おう!」
笑ってひらひら手を振る丸井が、まさか出場するなんて可憐は思いもしなかった。