「うん。うん・・・いや、良いよ。うん、私物じゃないからね。代わりはあるから・・・うん。じゃあ。」
言いながら幸村が通話を切った。
「取りに行かなくても良い感じ?」
「うん。そんなに高いものでもないし。ただ、二度目はないよ。」
「悪い悪い。」
丸井は試合後、握手に近づいた時に、芥川にしがみつかれた。
それはもう褒められて褒められて褒めちぎられて、挨拶の時間なんてとっくに過ぎてもまだ褒められて、わかったから、もう良いから自分とこ帰れよ、と体を離してベンチに戻り。
そこで気づいたのだ。
リストバンドがない。
知らん間にむしり取られていたらしいことに気づいた時には、もうS2が始まってしまっていた。
「災難・・・・だったな?」
「災難っつうか。まあ、あれさえ取られなきゃ、ただの面白いやつだったけど。」
丸井は結構こういう所があるというか、自分を慕ってくる人間に対しては割かし甘い所がある。普段は自分から物取っていくくせに、こういう所は長男だよなあ・・・なんて思う桑原。
丸井は、荷物を足下に置いてバスを待ちながら、何もなくなった自分の手首をくるくる回して見つめている。
「・・・取りにいかないのか。」
(え?)
桑原が顔を上げると、いつの間にか目の前には一条が立っていた。
取りにいかないのか。何を・・・いや、この場合リストバンドだろうが。
「ああ、これ?まあ、代わりもらえるみてえだし?」
「・・・内心で取りに行きたかったんだろ?」
「は?」
「取りに行ったついでに、あのマネジの女の子とまた話したかったんじゃないのか。」
(・・・・ん?)
桑原は、郁の物言いに何かを思いだした。
内容というより、言い方というか。
この、言わなくても良いようなことを突き放すように言う感じ。
「マネジの・・・ああ、桐生?別に、話したくないわけじゃねえけど。友達だし。」
「じゃあ行けばいいだろ。」
「そこまで言うほどでも、今部活中だし。」
「・・・・・・・」
「つうか、何をそんなに気にして・・・あ、もしかして、他校のマネジ友達が欲しい的な話か?ついてってやっても良いぜい?」
「要らない!誰がそんな話をしてるんだ、誰が!僕はただ、ナンパに行きたいのならとっとと行けば良いと思っただけだ!」
「だあから、そういうんじゃねえって言ってるだろい?」
「・・・・・あ!」
「「え?」」
「あ、い、いや!なんでもない!」
どうも既視感があると思っていたが、そうだ。思い出した。
この言い方、あれだ。棗経由で紀伊梨から回ってきた、少年漫画に出てきたヒロインの物言いとそっくり。
恋愛云々に鈍い主人公に言い寄ってくるゲストキャラの女。それを見たヒロインが、もう知らないわ!勝手によろしくやってなさいよ、ふん!みたいなことを言う場面。あれにそっくり。
(・・・ん?え、待てよ。アレに似てるってことは、つまり・・・え?)
まさか。
え。
まさか。
学校の噂は、あれはただの噂だと思ってた。
そう見えることはわかる。でも見えるだけと思っていた。
だが。
もしかしてもしかしたらまさか。
郁は、丸井のことが。
(・・・い、いや、ないだろ。こんな態度でまさか・・・)
気のせいだ、気のせい。
桑原は首を横に振った。
気のせいだよな、と誰かに確認を取る気にはなれなかった。
気のせいでもないかもよ、と返されるのが怖かったから。