Festival of ocean:Captive 4 - 2/8


「・・・・・・・」

マイクの音を切って、鳴海は項垂れていた。

「・・・なあ。」
「・・・・なんですか。」
「基本口出しはしないけど・・・3分短縮ってきつくないー---」

きつくないか。
そう言いかけて佐川は口を噤んだ。

鳴海の顔があまりにも泣きそうだった。何か今一言でも言ったら、両の目から涙が零れることは間違いなかった。

(・・・・すぐ返事するんだね・・・・)

幸村の返事は正に即答だった。
数秒の躊躇いもない。
やるより他に道が無いのなら、迷うだけ時間の無駄。そう思ってる事がありありとわかるような返事だった。

ー--羨ましかった。






一方、幸村はガンガン進んでいた。
何せ3分短縮されているのだ。迷ってる暇はない。

そもそも幸村の方が、若干ではあるが、いろいろ丸井より有利なのだ。
足が速いとか力が強いとか以前に、身長が高くて手足が長いから。

だからボルタリングゾーンを見上げた幸村は、どえらい方法を思いつくことができた。

(多分、正解は右に行って、そのあと左に行ってから、真ん中へ戻ってきて・・・っていうルートを想定してるんだろうな。)

しかし、これは面倒くさい。
右行って左行って右に行って、なんて左右に振られまくり。時間も体力も使う。

「よし。」

ええ!?と観客席から声が上がったが、無視。
多分命綱を付けてないことを言われてるんだろうが、はっきり言って邪魔。
あんなもの付けてたら、思うように跳躍できない。

幸村は、ぐっ、と姿勢を低くして。

(1、2の、)

3、でジャンプした。

中腹に手がかかる。
手がかかったら、足もかける。




「ゆっきー、すごーい!」
「嘘だろw嘘だろ・・・・」

一回のジャンプで一気に道中真ん中まで行ってしまった幸村に、紀伊梨はのんきにすごーいとか言ってるが、棗は頭を抱える。
親友がドンドン人間離れした身体能力になっていく。

一方紫希は、倒れそうなくらい青い顔である。
命綱なしでボルタリングなんて、気が狂ってるとしか思えない。

「あ・・・あ・・・」
「お前さん、見ん方がええぜよ。」
「しっかりしろ、お前が上るわけではないのだぞ!」
「わ、わかってますけど・・・」
「見ないのも難しいよな・・・わかるぜ。」

「しかし、危ないのは事実でしょう。」
「ああ。ただあそこまでしないと、おそらく3分は縮まらない。」

はっきり言って幸村のやってることは、大分反則級である。
誰も止めないのは、そこまでしないともはやクリア不可だからだ。まあ、そこまでできるんだったらもう良いよ、みたいな諦念も混じってる気もするが。




その幸村は、足をかけたら若干掴む位置を下に下げた。
手と足を近くする。
そうすることで体が折りたたまれ、膝が曲げられる。

(あとどれくらいなんだろう。)

どの道猶予があるわけじゃない。
幸村は十分手を下げると、深呼吸を一回。

「1、2の・・・」

3、で観客席から悲鳴が上がった。

床から跳躍して飛びつくまではできても、中腹からさらに上に向かって跳躍なんて、普通はしない。

ボルタリングのあんなちっちゃい足場で、不十分な態勢で上に向かってジャンプなんて、普通は失敗する。

普通は。
つまり普通じゃない場合は。

「ふっ!・・・・く、う・・・はあ。」

指の先しか引っかからなかったから、流石に上るのはちょっと苦労する。
まあそれでも、大分短縮にはなっただろう。

上ったらすぐにダッシュ。息を整えるのは走りながら。

(まだあんなに遠い。)

コースとして一番長いとは言われていたが、こうしてやってみると予想以上に長く感じる。
飛んでいけたら良いのに。翼をください、なんて曲が世の中にはあるけど、今日は確かにそう思う。

現実には人の背に翼なんてない。
でも、代わりにこの足が。手があるから。

次はドラム缶の競技だった。
でかいドラム缶の上を、球乗りの容量で転がしながら歩き、3つあるドラム缶の上を渡って向こうまでいくのだ。

だが。

「・・・・ふっ!」

幸村は、ドラム缶の上に真面目になんて乗らない。転がさない。
一瞬だけ足をついたらすぐジャンプして、そのまま渡ってしまう。

「はっ、はっー--よし!」

足に翼が生えてるんじゃないのか。
観客は皆そう思った。