「すーごいすごいすごーい!もうゴールだよゆっきー!もーちょっともーちょっと!」
「だ、大丈夫ですよ幸村君!時間には余裕がありますから、ですから焦らないで・・・あ、焦って落ちたりしたら、うう・・・!」
「・・・まさか、本当に余裕を持ってここまで来るとは。」
「うむ。流石は幸村だ。」
「流石の一言で済ませて良いのかわかりませんが。」
「俺怖い・・・あいつなんであんな妹のためにあそこまでできるの・・・怖い・・・」
「お前・・・お前もお前で兄なんだから、もう少し妹に優しくしてやれよ?」
「兄弟じゃき、こんなもんじゃろ。」
「そうか・・・そうか?どうも俺にはピンと来ないけど。」
なんて会話をしている間にも、幸村はガンガン進んで行く。
(・・・そういえば、丸井君・・・)
丸井は、未だに姿を表さない。
すぐ来るだろうと皆が会話したから、紫希もそうだろうなと思っていたが、まさか後続の幸村のゴールより遅くなるなんて。
何かあったんだろうか、と紫希の心がざわつきだした所で、タイミングよく桑原が口を開いた。
「・・・あれ?」
「何です?」
「いや・・・そういえばブン太のやつ、まだ来ないんだなと思ってさ。」
はた、と全員の視線が幸村から逸れた。
「・・・でも、あれでしょ?多分ブンブン君、あっちの視聴覚室から出たんでしょ?」
「確かに、あそこは相当遠いですが・・・」
「しかし確かに、そろそろ合流しても良い頃ではある。」
「人がすごくて、ここまで来れないんでしょうか?」
「いや、流石にそれは・・・」
「言うておくが、お前さんらのライブの時も混雑レベルは一緒じゃ。」
「え、本当!?やったー、ビードロズ大人気じゃーん!」
「それはそうだが、今は喜んでいる場合じゃない。」
全員が一瞬迷った。
幸村だって、まだゴールしていない。
紫希もそれはわかる。
丸井だけのことを考えていると、幸村側のトラブルに即応できない。(トラブルが起こるかどうかはさておき、念のため。)
「あ、あの・・・私、探しに・・・」
「お前さん、そもそも自分が行って戻って来られるんか?」
「あ、う・・・」
「まあ、ブンブン君と合流できたら、戻るのは簡単じゃねw」
「紀伊梨ちゃんおーいって呼ぼっかー?」
「いや、それは避けるべきだ。幸村の集中の邪魔になるやもしれん。」
「あ!そっかそっか、ゆっきーは今頑張ってるとこだもんね!大声出したら、びっくりしちゃうかも!」
「スマホで連絡をしてみてはいかがでしょうか?」
「とはいえ、この混雑だ。携帯を出す余裕があるかどうかはわからないな。」
「一応、ゴールの時点でこっちの居る位置は教えてるけどな・・・」
「あ、あのー・・・」
おずおず、と林が手を挙げた。
「私、行って来よっかっていうか、その方が良いよね?私はほら、郁とも友達だし、幸村君のことは皆に任せた方が良いと思うし・・・」
「確かに、林さんが適任・・・ええ、ピッタリかもしれませんね。」
「いつもすまんねw」
「いえいえ。」
「では、頼めるか。」
「うん、了解!合流して、丸井君をこっちに返したら良いんだよね?」
「えー、鈴ちん帰って来ないのー?」
林は内心でちょっと気まずげにたじろいだ。
そう。林は元々、合流しても丸井だけ返すつもりだった。自分や郁はここに混じるつもりはない。
「う・・・うん!あの、私自分のクラスの方もあるし、郁も郁でシフトとか・・・」
「なんだー!今度はもっと一緒に遊ぼーねー!」
「う、うん、またね・・・」
はっきり言って、林にそんな気はない。
今日混ぜてもらってみてわかったが、郁はマジで「丸井が構ってくれないならつまんない」な態度を崩そうとしない・・・というか、結構露骨。
別に内心で思う分には良いが、混ぜてもらっておいてあそこまで自分のことしか考えないというのは、問題があると思う。というか純粋に胃が痛い。林側の。
「と、とにかく私行ってくるね!もしかしたら入れ違いになるかもしれないけど、また連絡するから!じゃあ!」
(あ・・・・)
去って行く林の背を紫希は見つめた。
良いなと思った。
待ってろと言われたけど、こういうときはじっとしているのが難しかった。