Festival of ocean:Big stage - 3/7


もし丸井や幸村が間に合わなければ、MCで伸ばす。
と紀伊梨は言ったが、あれはあくまで引き伸ばし案である。

全員揃った。もう引き伸ばす意味はない。

予定通りだ。

紫希を置いて並ぶ。
彼女の出番は、もうちょっとあと。

1曲目いつも通り3人。ちょっと楽器の音だけ確認して。

そしたら、いきなり入る。

♪!♪!♪♪!♪ー!♪!♪♪!♪ー!♪!♪♪!♪ー!

(ん?)

(あ!)

(これ!)


知ってる。
の顔が次は喜色に変わる。

文化祭でこの曲が嫌いな人なんて居ないよ、というのはまあ紀伊梨の偏見だが。

キィーン!ギュルルルルル・・・

「Are you ready!」


Yeah!

これこれ。
このレスポンスがたまらなく気持ちいい。


「Hey!Hey Hey Hey!Hey!」


Hey!Hey Hey Hey!Hey!


「Hey!Hey Hey Hey!Hey!」


Hey!Hey Hey Hey!Hey!


わからん、な顔をしている者が何人か。真田とか。
あいつは本当に、と思うと棗辺りはもう笑いが止まらない。


「Hey!」

Hey!

「Hey!」

Hey!

「Hey、」

Hey、

「Hey、」

Hey、


「「「「「Fooooooh!」」」」」

紀伊梨は飛び上がった。



あいつもこいつもあの席を♪ただひーとつ、ねらーっているんだよっ♪


「ふう・・・」

紫希は演奏を聞きながら、舞台袖で溜息を吐いていた。

ああ。
怖い。
あんなに人がいっぱい。
皆は立派に演奏して、お客を乗せている。

あそこに自分が入って行って、崩してしまったらどうしよう。

下手くそって言われたら。
誰も乗ってくれなかったら。

皆のステージを、台無しにしたら。

「・・・・・・・」

怖い。
怖い。
怖い。

逃げたい。
泣きそう。
辛い。
いやだ、やりたくない。


・・・でも。


「ふう・・・・」

もうここまで来たら逃げられない。
やるしかない。

自分が始めたんだ。
だから自分がやらないといけない。
たとえ失敗しても。
幕引きを誰かにやらせるわけにはいかないから。

「・・・・・・・」

そっと観客席の方を見る。

結局、木崎は来てくれなかったようだ。
ツクヨミも。
というか、氷帝はそもそも日程が社会見学と被ってしまい、知り合いは誰も来れなくなってしまったのだけど。

でも元々、自分のために始めた事だった。
木崎のためでも、ツクヨミのためでもない。

自分を見つめ直したくて。
皆にわがまま言って。

でも皆、受け入れてくれた。

棗は何度も練習に付き合ってくれた。
自分だって忙しかったのに、いつも笑って、何度も何度も。

千百合は一緒のステージを快く承諾してくれた。
あんなにストイックに頑張って、グループの質を上げようとしていたのに、それを邪魔しようとする紫希に良いよと言ってくれた。

紀伊梨は喜んでくれた。ずっとやりたかったと言ってくれた。
失敗しても良い。紫希がいてくれることが嬉しいと言ってくれた。

そして。

『良いんじゃねえ?』
『できるよ。』

自分でさえもろくすっぽ信じられないような紫希のことを、丸井はいつも信じてくれた。

だから逃げない。
それだけはしない。

失敗しないは自信がないし、頭真っ白にならないも自信がない。
紫希が、唯一絶対できること。
それは、逃げないこと。

逃げないで、ステージに立つ。
それだけは紫希の意志でできる。


もーしっ♪だーめなーらこーのぼーくはっ♪
もうグーレーちまうよーっ!


棗のドラムが入る。
もう1曲目終わりだ。

これからMC。
そして2曲目。

「・・・・よ、し、」

行こう。

紫希は顔を上げた。
真っ青だったし、怯え切っていたけど。

でも、顔を上げた。