「ー---って、わけなんだけど。幸村君、どう思う・・・幸村君?」
「丸井。」
「ん?」
「俺、丸井のそういう所、大好きだよ。」
「へ?」
「ああ、別に変な意味じゃなくて。友達としてね。すごく好ましいよ、すごく。」
「???そう?」
幸村は、今。
丸井と2人人気のない物陰に来て、一条郁の苛めの件と成り行きを話した所であった。
幸村は、そんな場合じゃないとわかっていつつ、口元に笑みが浮かんでしまう。
これだから丸井が好きなのだ。こういう、何でも周りに話す所。話が速くてすごく助かる。
ここで抱え込まれると、問題が表面化したときには、もう手に負えなくなっていることが常だから。
「だから、手を繋いで2人一緒に来たんだね。どうしたのかと思ったよ、シフトって聞いてたから。」
「ああ、変えさせた。目離すのやばいと思ったし。で、どう思う?」
「そうだね・・・丸井が原因と言えなくもないけど、だからって丸井が卒業までずっと張り付いてるわけにもいかないし。」
「だよな。」
丸井自身が何か悪いことしたわけじゃない、というのが困った点なのである。
悪いことをしている当人は、今居ない。
しかも、第二第三の悪人が出てこないとも限らないわけで。
「本人は、なんだって?」
「?」
「ほら、怖いとか。もう退部したいとか、そういう話は?」
「ああ、『だから嫌だって言ったじゃん』的なことは言われたけど。あれ?これって退部したい、と意味的には一緒?」
「いや、大丈夫。退部したいなら、退部っていう言葉を出すと思うから、それは良いよ。」
「そう?」
幸村は考え始めた。
退部と言う言葉は出さないから、多分退部の意思は無い。
それはそれとして、苛めの件は丸井に言った。
そして、『だから言ったじゃん』という趣旨のせりふ。
さらに、手を繋いでここまできた。
ここから出る結論として。
(・・・いじめを利用しようと思ってるのかな。)
どうも、怖がっている素振りが見えない。
怖がっていたら、丸井をもっと避けるだろう。
かといって、私苛めなんかに負けないわ!ということでもない。丸井に恨み節を言うのがその証拠。
「妙な所で神経が太いね。」
「え、なんて?」
「ああ、ごめん。気にしないで、独り言だから。」
いや、神経が太いというのも違うのか。
丸井への思いが、恐怖を打ち消しているー--というより、恐怖を感じないようになっているのかもしれない。
ずいぶん入れ上げられてるなあ、と思うと友人としてはやや苦笑したくなる所。
「・・・取り敢えず、一条さんだからというよりも、部員がきっかけで部員がいじめに遭ってるっていう図になるから、部の問題になるね。まずは報告をありがとう、丸井。」
「おう。でも、どうすんの?」
「幸い、明日は土曜日だからね。普通の生徒は学校に来ないから、一条さんは大丈夫だと思う。まさか、いじめのためだけに休日まで返上はしないと思うよ。そこまでする人だったら、多分閉じ込められれるくらいじゃ済まされないだろうし。」
今はね。
と幸村はあえて言わないでおいた。いたずらに不安にさせても仕方がない。
「だから、とりあえずたちまちは今日かな。今日をどうにかして乗り切らなくちゃ。」
「OK。じゃあ俺がー--」
「いや、駄目だ。むしろ、丸井には任せられない。」
「え?」
「丸井と一条さんを一緒にすると、あっちを刺激してしまうからね。要求を吞むわけじゃないけれど、こっちの出方が決めきれていない内に挑発めいた行動をするのは良いことじゃないよ。」
「んー、まあそれもそっか。わかった。」
「・・・・・・」
「幸村君?」
「ああいや、うん。何でもないよ。」
人がいじめに遭ってる話をする時に、笑ったり茶化したりなんて言語道断だから、幸村は今ちょっと頑張って耐えたのだが。
それもそっか、わかっただって。
なんて良い子な返事。親友にもそうしてあげてよ、と言ったら丸井はどんな顔をするんだろうか。
「でも、具体的に今日はどうすんの?」
「それは、当てがあるんだ。こういう状況で、丁度良いっていう表現も変だけれど、佐川部長が。」
「部長?」
「今回、迷惑をかけたから何かお詫びがしたいって。どのみち部の問題なら佐川部長に言わないわけにはいかないし、先輩だし男子だし。ボディガード役としては、かなり強力だと思うよ。まあ、一条さんはちょっと居心地が悪いかもしれないけれど、林さんにも一緒に居てもらえれば大分楽だと思う。林さんは苛めの件を知ってるかい?」
「多分知らねえ。俺も言ってねえし。」
「わかった。じゃあ、今日の所はひとまず林さんと部長に言って、5人ー--一条さん自身を除いて、4人の内々の話と言うことにしておこう。丸井は、見通しが経つまであまり一条さんに関わらないこと。部内ならまあ良いけれど、平日なんかは特にね。良いかい?」
「わかった。」
本当に良い返事である。
幸村の言うことを、心底妥当だとしか思ってない目つき。
「よし。じゃあ早速、行動しよう。一条さんは、今は柳が見てくれてるんだっけ?」
「おう。理由は言ってねえけど。」
「わかった。じゃあ、俺が彼女を引き受けて佐川部長に引き渡すよ。」
「え、幸村くんは黒崎の所に行ってやれよ。俺がー--あ!そっか、俺は駄目なんだっけ。」
「うん。これからも、なるべく気をつけて。解決するまで、あまり関わらない方が良いよ。幸いなことに、今回相手の目的は丸井だけだから。複数人が対象だといろいろやりにくいけれど、丸井だけなら一条さんに近づかなくても、お互い生活に支障はないだろうし。」
「・・・何か変な感じだな、この間まで頑張って友達になろうと思ってたのに。」
「まあ、急だったから。」
「急?」
「徐々に仲良くって言うよりも、急接近って感じだったからね。丸井と仲良くなりたいけど、安全を取って様子見してた子は面白くないんじゃないかな。一条さん自身の態度もまあ、ああいう感じだし。」
「ふうん?」
「わかりにくかったら、丸井も誰か仲良くなりたい子を想像してごらんよ。」
「ん?」
「誰か、丸井が今よりもっと仲良くなりたいな、って思ってる子を想像してみて。」
言われたとおりに目線をやや上にする丸井。
もし棗辺りがこの場に居たら、お前は本当にこういうの上手いな、と笑ってくれるであろう。
「その子にさ。ある日突然出てきた異性の子が、ぐいぐい近づいていくんだよ。」
誰も女子を想像してるなんて言ってないのに、当然みたいに丸井が想像しているのが女の子という前提で話を進める。
こういう所が、幸村っていろいろ見透かしてそうな感じするよな、と言われるゆえん。
「・・・・・・・・」
「おまけに、あっちは態度が悪いんだ。丸井が仲良くしたいと思ってる子に辛く当たって袖にして、それでもめげずに仲良くなろうとしてるのをずっと見てるのはどう?」
「・・・・・・うーん。」
「わかるよ、いじめなんてする人達に共感したくはないよね。でも、もちろん苛めなんてする方の気はしれないけど・・・不愉快だっていう気持ちだけは、無理もないって感じない?」
「・・・まあ、そー言われるとな。」
「ふふ。まあ、あんまり気に病み過ぎないで。そもそもこうなってしまったのは、一条さんの勧誘をほぼ丸井に任せてしまった俺達にも責任があるし。」
そう。
そもそも、こうなる確率はきわめて低かったのだ。
こうなったのは大元の話をすると、紫希が分かって欲しいと言い出して丸井がそれに乗っかり、部全体として任せて推進してしまったから。
まあ、有体に言うといろんな原因がありすぎるのだ。誰か一人のせいというにはあまりにもあんまり。
「さ。とにかくこれで、方針は決まったからあとは行動だ。まだ文化祭は後夜祭もあることだし、いじめなんかに屈しないという意味でも、楽しくやらなくちゃね。」
「おう。」
丸井は、幸村に相談して本当に良かったと思った。
自分一人では荷が重いー--というか、どうにかできなくはないけれど、多分すごい労力になってしまう。
一条に黙って話すことになってしまったが、目的が早期解決である以上これが最善手だったろうと丸井は思った。
一条の主目的がそこにないなんて、まさか思いもよらない。