郁はその頃、これからの方針を幸村から聞いて黙りこくっていた。
「・・・・・・・」
「わかったね?林さんと佐川部長には、もう連絡してある。千百合にも。」
「・・・別に、そこまでしてくれなくても、」
「残念だけれど、これは君への気遣いとかそういう話じゃないんだ。ことは既に、部全体の問題になっているんだよ。そもそも君を入れると決めたのは俺達だし、入部しなければこんなことにはならなかったんだしね。」
そう。入部しなければこんなことにはならなかった。
少々意地悪とわかりつつ、幸村は敢えてこれを言った。
入部しなければということは、裏を返すと今からでも退部したら、この状況から解放されるということになる。
しかし郁はそれをやらない。
できない。
やれば丸井との関係は、今度こそ絶たれてしまいかねない。
そもそも入部したのは、楽して丸井に近いポジションが得られるからだ。
そういう意味では今急に無効化されてしまったのと同じだが、耐えていれば元に戻る可能性はある。
しかし、退部したらその芽ももうない。
この場合、退部と言う一手はかなり勇気が要る。
そして、その勇気は一条郁に無い。
幸村はそう踏んでいたー--というよりも、知っていると言えるレベルの高い確信を持っていた。
「とにかく、これからの方針については明日の部活で話そう。それまでは、部長と林さんと一緒に居るように。これはお願いではなくて、部からの指示だと思って従ってくれ。」
「・・・・・・・・」
「文化祭中に、楽しい気分を邪魔して悪いとは思うよ。でも、いじめなんかに遭ったらそれどころじゃないだろう?」
「・・・・・わかった。」
すごく不服そうである。
いじめに遭っていて、そこから守ってやろうというのに、こんなに不服そうになる人間も珍しかろう。
まあ郁からしてみたら、いじめに遭っても良いからさっきまでの状況ー--丸井がべったり張り付いてボディガードしてくれる方が良いのだろう。
ただ、悪いけどその希望には沿えない。
個人的にも。部活的にも。
「じゃあ、行こうか。あまり待たせるのも悪いしね。」
「・・・・・・」
言われないだろうなとは思っていた。
やっぱりお礼は言われなかった。