「・・・おしw送ったw」
「やたー!」
棗は、演奏の映像を氷帝勢に送った所であった。
今日は、氷帝のメンバーは来られなかった。
社会見学の日程と丸被りしていたからである。
例年そうというわけじゃない。が、今年は土日のタイミングを考慮した結果、2校とも同じ結論になってしまったのが不運だった。
折角だから皆に見て欲しかったなー・・・というのはお互い様。
「ちーちゃんも来てないかなー?」
「どうかねwまああの子は氷帝だからって言うより、普通に来なさそうな気もする・・・お。おーい!」
「ん?」
「おや、お二方。お疲れ様です。」
人込みの中で、2人は仁王と柳生を見つけた。
柳生はともかく、仁王の手首に蛍光ブレスレットが光っているのを見て、棗は後でおちゃくってやろうと思った。しっかり楽しんでるじゃないか。
「お疲れー!ねーねー、どーだった?どーだった?」
「もちろん、とてもお上手でしたよ。会場も沸いていましたし、生徒会としましても運営のし甲斐があるというものです。」
「やたー!あ!そーだそーそー!ねー2人とも、紫希ぴょんどーだった紫希ぴょん!紫希ぴょんの演奏!」
「ええ度胸しとるなっちゅうことか?」
「そーじゃなくてー!ほら、演奏がもっといい感じになったでしょ!ってこと!」
紀伊梨は嬉しくて堪らない顔である。
「ね!ね!そーだよね!そーだよって言って!」
「ごめんねwこいつ長年の夢が叶ったから、続かせようと必死なんすよw」
「っちゅうことは、春日は続ける気はないんか。」
「まあねw今回はちょっと、諸事情で特別にw」
「でもまたやりたいもーん!ねーねー、ニオニオもやーぎゅも、紫希ぴょんにこれからも弾いてって言ってよー!」
「本人にその気がないのに、捗るとは思えんぜよ。」
「お気持ちはわかりますが、無理強いは良くありませんよ。」
「えー---!も2人とも聞きたくないのー!?」
「そういうことではなくてですね。」
「どういう事情か知らんが、頑張った結果あれができたわけじゃろ。」
乗り気かどうかはさておいて、本当に人前が苦手なことは、ステージに出てきた紫希の顔を見たら皆わかることだった。
顔が青いし。
目線が彷徨うし。
口元は頼りなげに緩んだり引き締まったりを繰り返し、キーボードの元まで辿り着く足取りすら大層大儀そうで。
「あれをそういつもいつもやれというのは、本人がその気でないなら無理なのでは?」
「今日は何とかなったが、次こそ倒れるかもしれんぜよ。」
「まあそれもそうw」
「そーだけどー!けどー!うー・・・・!」
緊張と言うものにほとほと縁がない紀伊梨は、「今日できて明日できない」という神経がいまいちわからない。特に勉強とか演奏とか技術的なものじゃなく、気持ちの問題の場合は特に。
「五十嵐さんと春日さんは、考え方が違いますから。同じように振る舞えと言っても、難しいでしょう。」
「うー・・・・」
「もしもしー!」
かけられた声に振り向くと、紀伊梨の知らない男子が居た。
棗も柳生も知らない顔だったが、仁王だけは知っていた。
「ディスコの2年が何の用じゃ?」
「「「ディスコ?」」」
「あ、そっか君は今日来てくれてたっけ?あのさ、俺2年の古木って言って、今日はクラスの出し物でディスコずっとやってたんだけど。」
「あー!そーそー、紀伊梨ちゃん行こーと思ってたんだよー!でも結局時間なくてさー、行きたかったんだけど行けなくってさー!」
「ほ、本当!?いや実は、後夜祭でステージでDJするんだけど、良かったらビードロズのリーダーさん、ボーカルとかどうかなー、なんて・・・」
「え、良いの!?」
「い、良いよ!というか、むしろこっちが良いのって言うか、いきなり言ってOKもらえるなんて・・・」
「こういうの好きなんでこいつw」
「わーい、やたー!」
飛び上がって喜ぶ紀伊梨に、古木は本当に胸を撫で下ろした様子だった。
「・・・しっかし、ステージにおいでって言われて即答とは、流石にビードロズだなあ。」
「ビードロズだからってわけでもないすよw」
「えー、そんなことないって!だって今日、キーボードの子にも頼んだけど、あの子も来てくれたし。」
「「「え?」」」
「ディスコに遊びに来てくれてさあ、俺歓迎会でビードロズのメンバーの顔は知ってたから、あ!ビードロズ!って思って。駄目元で、フォローするしちょっとフロントで回さないかって聞いたら、乗っかってくれて。いやあ、すげえと思ったよ。もちろん技術的には初心者だったけど、呼ばれて出てくる度胸が凄いよなあ。」
「・・・・・・」
「俺なんか練習家でしてても、初めて人前で回すときはすんごい緊張してさあ。何回も何回も、今日はやめとこう今日はやめとこうの連続だったのに・・・って、あれ?どうしたの?」
目をまんまるにする紀伊梨に、棗は笑って肩を叩いた。
「はっぱかけてたんだよw」
「は?・・・っぱ?」
「多目的室に入るくらいの人数を相手にできなくて、ライブなんかできるわけないって思ってたんじゃないw」
「ああ、なるほど。確かに、春日さんがしそうなことですね。」
「俺も珍しいことがあるもんじゃと思っちょったが、今になったらああなるほどっちゅう感じじゃの。」
「?????」
「ああごめんなさいwあの子、いつもステージに立つタイプじゃないんですよw今日は特別でねw」
「えっ、そうなの!?あのー、俺もしかして、悪いことしちゃった?」
「いえ悪いとかは別にw」
紀伊梨は会話を横耳で聞きながら、ちょっと衝撃が飲み込めないでいた。
紫希が人前を大の大の大の苦手にしていることは、ちょっと付き合っただけでもすぐわかる。
フロントに立ってDJ役なんて、いつもの紫希なら絶対やらない。
そのくらい絶対やらないようなことを、今日はやるつもりで紫希はずっと過ごしてきたのだ。
ステージの上には、紀伊梨も千百合も棗も居る。
だから紫希は、そのおかげでノリと勢いがついて出てこれたのだと思っていた。自分なら苦手な場面の時、大抵そうやって乗り切るからだ。
でも違った。
紫希はしっかり考えて、理性を保ったままきっちり勇気を出してステージに上がっていたことを、紀伊梨はなんだか今初めて実感できたのだった。
「・・・・紫希ぴょんってすごいね!ね!」
「何じゃ急に。」
「それは同意しますが、それはそれとしてそろそろ時間も押していますよ。一緒にされるのでしたら、そろそろステージに移動された方が。」
「うお、そうだった!ええと、じゃあ五十嵐さん行こうか!」
「はーい!」
さっきライブしたばかりなのに、元気だなあ。
と、紀伊梨の声を聞いた人たちは皆思った。