Mental care 1 - 5/6


「ー--というわけで、体へのダメージが少ないのが、こちらの機器の最大の特徴です。」

忍足は忍足で、内科で順調に勉強を進めていた。
面白い。いや、興味ある科に来てるんだから、当然なんだけど。

「では次に、入院病棟に行きましょう。当院では科ごとに病棟を分けています。内科はこちらです。」

(入院なあ。)

内科は検査や治療に時間がかかることが珍しくない。入院患者はつきもの、といっても良いくらいである。

病床があるような大病院の臨床医を目指すのなら、避けられないことのひとつでもあり。

「こちらです。この部屋には、現在4人の患者さんが入院されています。一番奥に、お手本用のベッドを用意したので、先にそちらを見てください。」

そう言われてついていこうとすると、忍足の服の端を何かが引き留めた。

「・・・?」
「兄ちゃん。」
「・・・俺ですか?」
「そうよ、他に誰が居るって言うのよ。」

忍足を引き留めたのは、お婆さんと呼んで差し支えない年齢のお婆さんだった。

何の病気か知らないが、点滴などは特になく、比較的身軽そうではある。

「俺、看護師さんやないんですけど。」
「それは見たら分かるわよ。そうじゃなくて、いくつだか知らないけどまだ子供でしょ?」
「はあ。」
「ほらね。ちょっと頼みがあるのよ、こっち来て。」
「せやから看護師さんやないてー--」
「看護師は大人だから駄目なの。」
「・・・?」

糖尿病だけど甘いもの禁止されてるから、お菓子買ってきてとかそんなんじゃあるまいな。
何頼む気か知らないけど、子供だからって言うこと何でもは聞いてやれないぞ、と思いつつ忍足はこっそり列を抜けて、ベッドに近づいた。

「何ですか?」
「あのね、この病院に座敷童が居るの。会わせてくれる?」
「は?」

素で声が出てしまった忍足を他所に、老婆は気にした風もなく話し続ける。

「居るのよ、赤い服でね。そこをたまに走っていくの。でも、看護師さん誰も取り合ってくれないのよねえ。」
「・・・・・・」
「何?できない?」
「と思いますけど。そもそも座敷童って、捕まえようと思うて捕まえられるもんとちゃいますやん。」

十中八九、座敷童ではない。
多分、違う病室によくお見舞いに来ている赤い服の子供が居るとか。
もしくは夢と現実の区別がついてないとか、多分そんな所。

いずれにせよ、捕獲は多分無理。
会わせるのはもっと無理。

しかし頭から無理と言っても聞いてもらえないので、忍足は言葉を選ぶ。

「座敷童て、そういうもんでしょう。簡単に捕まえられへんから、御利益あるんやし。」
「そうだけど、そこを頑張ってちょうだいよ。」
「頑張って・・・」

そう言われてもだ。

(実際居るんやったらともかく、居らへんもんを言われてもなあ。)

「わたしゃねえ、自分の行く末がかかってんのよ。どうにかしてちょうだい。」
「行く末?」
「そうよ。今度手術するんだけどね、こんな婆さんはもう、体力が持つかどうかわからないわけ。あんたみたいな若い子は、体力の心配なんかしないんでしょうけどね。」
「いや、しますよ。」
「あれ?するの?」
「そら。確かに若いですけど、若いというより子供ですから。体も小さいから大人に比べて体力ないし、施術部位も小そうてやりにくいし、ちょっと血出たらすぐ失血するし。」

まあ厳密には、忍足に限ってはその辺の大人より体力はあるだろうけど。
とにかく老婆はちょっと意外な返しをされたようで、目を丸くされた。

「へえ、子供は子供で苦労があるもんなのねえ。」
「まあ。」
「でも、苦労してるんだったら、余計わからない?手術の不安というか。」

(不安・・・)

「・・・もし座敷童に会えたとして。」
「ん?」
「手術成功させてください、て頼むんですか?」
「そうよ。他に頼むこともないじゃない。孫も居るし、私まだ生きていたいのよ。もう死んでも良い、なんて思ったこともないわ。」

「・・・・・・・・」

「忍足!」

忍足が色々物思っていると、ふいに肩を叩かれた。

「忍足、どうしたんだよ。説明終わっちゃったぜ?」
「ああ・・・そうなん。」
「そうなんってお前、」
「まあ、気にせんといて。おおきに。」

気づかないうちに、本当にいろんな説明が終わっていたらしく、皆はぞろぞろと連れ立って入口に向かって行った。

忍足はそれを見つつ、パッとベッドに身をひるがえす。

「すいません、座敷童の話なんですけど。」
「何?」

「ちょっと探してみるんで、もうちょい待ってもらえます?」

言った後忍足はすぐ戻らねばならなかった。
だから、老婆が驚きに目をまんまるにしていたことに、気づかなかった。