Mental care 2 - 4/7


忍足が説明を聞き終えて、可憐と落ち合う予定のロビーに向かうと、可憐はすでにロビーのベンチに座っていた。

「可憐ちゃん、堪忍な待たせて・・・可憐ちゃん?」

可憐は下を向いて、何やら考え込んでいるようだった。

「はあ・・・」
「・・・可憐ちゃん。」
「えっ!?あ、ごめんっ!私またぼーっとしてっ!」
「そらええねんけど、大丈夫なん?疲れてへん?」
「だ、大丈夫だよっ!うんっ!うん・・・」

言いながら、可憐は内心で、齋藤から別れ際言われたことに意識が行って仕方がなかった。








『え・・・』
『メンタルトレーニングっていうのはね、桐生さん。何か目的があってするものなんだよね。』
『目的・・・』
『たとえば、スポーツが分かりやすいかな?僕も普段はスポーツ選手のためのメンタルコーチをやっているけれど、スポーツ選手の目的は、スポーツで実力通りのパフォーマンスをすることなんだよね。練習が行き詰った時に、それでも調子を崩さないでいる訓練とか。プレッシャーに負けない訓練とか、そういうもの。』
『・・・・・』
『桐生さんの目的は、生活になっていないかな?今まで通りの生活を続けることが目的だっていうのなら、メンタルトレーニングは残念ながら、あんまり効果がないんだ。終わりが無いからね。』

どんなに体力のある人だって、休まないで永遠に練習はしていられない。

メントレも同じである。常に沈みそうになっているからといって、常にメントレしているわけにいかないのだ。それじゃあ、いつか疲労する。

『桐生さん。君はどうしたいのかな?』
『どう・・・』
『恋を諦めるな、って言いたいんじゃないよ。諦めるでも諦めないでも、それは桐生さんが決めることだ。でもね?メントレって言うのは、どちらにしろ、どうするか決めた人のためのものなんだよ。』








(はあ・・・・)

結局そこに終着してしまうことに、可憐は内心溜息を禁じ得ない。

わかってる。
どちらか決めないといけない。

というか、今のこの宙ぶらりんの現状も、なし崩しに諦めているようなものと言えばそのとおり。

折角と言うかなんというか、現段階では一応忍足と網代は付き合っているわけじゃない。
だからまだできることがあると言えなくもない。けれどそれすらもしないのは、心のどこかで「頑張ったってどうせ傷つくだけ」という諦念が入ってるからである。
齋藤は、ちゃんとその諦念から逃げる方法も教えてくれた。

ただ、見て見ぬふりをして逃げるというのは、決断のひとつの形なのだ。
可憐はそれもできない。

立ち向かうことはできないけど、逃げる勇気も持っていない。
ずーっと同じ場所で足踏みしているだけ。それではメントレは使えない。

齋藤の言った事はかなり的確であった。
結局のところ、可憐がどうしたいかということが決まらない限り、次のアクションに移れない。

はあ、と何度目だかわからない小さな溜息を吐く可憐を、忍足は隣に座って黙って見ていた。
可憐は、視線を寄越されていることすら気づいていない。

「・・・・・・・・」

可憐が継続的にメンタル不調になっていることには、忍足はというか、仲の良い人皆なんとなく気づいている。

でも、何も言わないし。
これと言って理由が思い当たらないし。
何より、表面上普通に見えるから、話を聞くとっかかりが無くて、もうどうにもならないのだ。

唯一一度、全国大会前に大崩れしたことがあったが、あれも結局解決には至らなかった。
神奈川の紫希たちは小康状態まで戻してくれたけど、戻すまでが精一杯だったと見える。

この年齢になると、皆何かしら悩みを抱えて生きている。
何も悩んでない人なんてほとんど居ないだろう。

だから可憐の状態だって、何も特別珍しいことじゃない。
それもあって、皆自分から突っ込んでいくような真似は避けているのだ。

それもわかってるけど。

「君達、齋藤先生の仰ってた2人かな?」

割って入ったスタッフの声に、忍足と可憐の意識は、急速に現実に引き戻された。

「はい。」
「は、はいっ!」
「そうか。じゃあ、ついてきてくれるかな。後から浜田先生と交代するけど、その前に倉庫に案内しよう。何か役に立つものがあれば、使って良いからね。」
「はい。」
「はいっ!」

(そうだった、私のことは今考えることじゃないよねっ!今は取り敢えず、座敷童のことを考えなくちゃっ!)

とりあえず座敷童のことを考える。

「・・・ぷっ!」
「?」
「あ、ごめんねっ!何でもないよっ!」

(そんな場合じゃないんだけど、「とりあえず座敷童のことを考える」って、言葉にするとなんだか面白いなあっ。)

これから先の人生で、「とりあえず座敷童のことを考える」なんてフレーズは、多分もう使わないだろう。そう思うとおかしくて、可憐はつい笑ってしまった。

そして笑った可憐を、忍足はそっと見ていた。

「・・・・・・・」