Mental care 2 - 7/7


「ふうう~・・・・」

可憐は、今まで張りっぱなしだった気を一気に緩めて息を吐いた。

浜田医師からお礼を言われ、病室の患者に褒めちぎられ、忍足と皆より一足遅い帰り支度をしたのがついさっき。

もう皆帰ってしまっていて、忍足と可憐は榊のはからいで、車での迎えを寄越してもらった。

普段だったらリムジンは未だに乗るのに緊張するのだが、今日は疲れすぎて、遠慮なくシートにもたれかかってしまう。

「今日はほんまにおおきにな、可憐ちゃん。」
「ううんっ。良かったね、手術受けてくれる気になってっ。」

藤居がいかに今まで手術に対して乗り気でなかったかは、病室出てからの浜田医師からの感謝感激の言葉が物語ってくれていた。

どんな名医だって、患者の同意なしに治療は出来ない。

やっと助けられる。ありがとう、本当にありがとう、と大の大人から頭を下げられて、面食らったのがつい十数分前のこと。

「可憐ちゃんが居ってくれたから、ええ結果になったわ。」
「そ、それは嬉しいけど、ちょっと褒め過ぎかなー、なんて・・・」
「褒め過ぎちゃうで。藤居さん、聞いてきたやん。年いくつやって。」
「え、うん?」
「でもあの人、今日俺らが見学した時、病室居ってんで。」

可憐と忍足と同じ年の子供が、わらわら入ってきて見学していたのを、藤居は知っていた。
でも、まともに見ていなかったし認識していなかった。
何人入ってきたのか、いくつだったのか、どこの所属なのか、一切知らないし知ろうともしなかった。

有象無象のモブでしかなかった12歳の子供と言う存在が、孫の立派な将来として映ったのは、間違いなく可憐と忍足の功績であった。

藤居も本当はわかっていたのだろう。
座敷童なんていないことくらい。

でも、無いものを要求する自分に、大真面目に取り合ってくれる人が居るのだとわかったから。だから藤居も、逃げてないで立ち向かわないといけない、と思うことができたのだ。

「可憐ちゃんが居ってくれたさかい、未来は明るいなて思うてくれてんから。」
「そ、そうっ?かなあ・・・」

(・・・未来、かあ・・・)

自分の未来はどうなんだろう。

さすがに死んだり、という確率は低いだろうけど。
でも、「普通に過ごしている」という「普通」の部分が、可憐には今上手く想像できない。

今の可憐は多分、外から見たら「普通に過ごしている少女」である。
でも、可憐自身は今の状態を普通とは思えていない。いつか必ず状況が動く日が来る。

可憐は未だ、まだ見ぬ未来を待っている。
自分から見に行こうという気は起こらない。
起こったことを受け入れるだけで、おそらく精一杯であろう。

「・・・私、ちょっと疲れちゃったから、横にならせてもらっても良いかなっ?」
「ああ、ええと思うで。」
「もちろんですとも。」

運転手の許可を得て、可憐は横になった。








『夜は寝ること。』
『寝るっ?あ、ええとっ。私、別に眠れないとかはここ最近はー--』
『うん、そうじゃないんだ。夜は、活動しないこと、ってことでね。』
『・・・?』
『夜って、いろんなことが終わるじゃない?部活も学校も終わるし。そうなると、段々その日のうちにやらないといけないことって、減っていくよね。』
『はい・・・』
『つまり、時間ができるわけだけど。でも、悩みと時間がある人間って、暇があると時間を悩むことに使っちゃうんだ。』
『・・・・!』
『夜は、難しいことを考えるのをやめよう。悩むのは、お日様の出ている時に。もしも考え込みそうになったら、楽しいことをするか、目を閉じて寝ちゃおう?うん。』








可憐はその通りにした。
どうせ良い具合に疲れているし。
家に帰れば、やりかけた宿題とか、読みかけてる本とか、借りたまま読めてない漫画とか、思考を逸らすことに事欠かない。

スマートフォンを見るのは止めろと言われた。
情報過多は余計に頭を疲労させる。
映画を見るだのそういうのは良いらしいが、漫然とディスプレイを見るのは止めるべき、らしい。

シートに揺られて夢現の状態に入っていく可憐を、忍足は何とも言えない気分で見つめた。

「・・・・・・・」

何か変。
何かおかしい。
そう思い続けて、早数ヶ月。

自分から何があったのか聞かせてくれと言うことは忍足にはできない。
責任が取れないから。
言わせるだけ言わせて手に負えない事態だったら、状況が悪化するかもしれないから。

だから、何か言ってきてくれたら即応しようとずっと思っていたけど、可憐は何も言ってこない。

言ってこないということは、お前は打ち明けられる立場にない。
ということ。
だと思う。

「・・・・・・・」

そりゃあ自分だって、考えてる事の何もかもを可憐に言えるかと言われると、そうじゃない。誰だってそういう部分はある。

あるけど、可憐はおそらく今困っているのだ。
たちまち困っている。
そして困り続けている。

なのに何も言ってこない。

(・・・いや。)

正確に言うと、この世でおそらく4人だけは知っている。

神奈川の4人。
若干1名、友達と呼ぶにはやや相性が悪いけど。

だからってそっちからこっそり聞き出そうとは思わない。
それは可憐に対して失礼ー--というか、卑怯だと思う。


そうじゃない。
気になるのはそこじゃなくて。


「・・・・・・・」
「忍足様、ご体調の方が優れないので?」
「あ、いや。違います、気にせんといてください。」

膝に肘をついて、手に額を載せて考えていたら、声をかけられた。
頭痛でも起こってると思われたのだろうか。

頭が痛いという意味では合ってるけど。