「はあ・・・・買えたあ・・・・」
「ふふ。お疲れ様です。」
「本当それ・・・疲れたマジで・・・・」
純子はショッピングモールの一角で、ブルーのラッピングの包みを後生大事そうにぎゅっと抱いた。
何でも、夫ー--つまり千百合の父である雄一が、先日大分大きな仕事をやりきったらしい。ささやかなプレゼントだそうだ。
そのささやかなプレゼントを買うのに大分大儀なことをした気がするが、幸村は大儀で良いと思ってる。愛する人へのプレゼントなんだもの。大儀で当然。
「他には大丈夫ですか?用事なんか。」
「ああもう大丈夫、これで全部終わりだから。ありがとうね、どうも。」
「ふふ、いいえ。」
「幸村君、この後時間ある?」
「え?ええ。大丈夫ですが。」
「そっか。じゃあ、うちにおいでよ。多分千百合も居るし、お茶しよお茶。」
「あはは。良いですね、ではお言葉に甘えて。」
「へへへ、決まり決まり。」
用事を終えて肩の荷が下りたのか、純子はやっとほっとした顔を見せだした。
まだ家に帰ってないのになあ。幸村なんかは思うのだが、幸村が念入りな性格なのか、純子が油断しやすいのかはわからない。
そう、実は純子は油断しやすいのだ。
夫の雄一も油断しやすい。つまり千百合の両親は、両親揃ってまあまあ油断しやすい質。
その親から棗や千百合のような隙の少ない子供が生まれるのはまあ、世の中はこんな風にしてバランスを取ってるのだろうか。
「幸村君?」
「え?ああはい、何ですか?」
「いや、ちょっとぼーっとしてたから。どうかしたかなと思って。」
「はは。すいません、ちょっと千百合のことを考えてて。」
「あ、そう?」
「はい。彼女のことを考えていると、つい楽しくって止まらなくなってしまうんです。外ではなるべく止めようって思ってるんですけど。」
「あ、そう・・・」
ありとあらゆる方面に失礼だから純子は絶対言わないが、幸村の恥ずかしげもなくこういうことをいう所は、まあまあ夫の雄一に似てなくもない。とも思う。
他の所すべて似てないし、わずかでも似てるとか言ったら多分娘どころか息子からもドン引きされるに決まってるので、死んでも言わないけど。
「おばさん?」
「え!ああはい、ごめんごめん。今度は私がぼーっと。どうしたの?」
「すいません、良ければ少しこの店を見ても良いですか?」
「え?ああ・・・良いけど・・・」
「?」
幸村が行こうと言ったのは、モールの中に入っている洋菓子屋さんだった。
洋菓子屋と言ってもメルヘンさとは程遠い。
全体的にモノトーン調で、シルバーのバックにシルエットの黒猫がブランドのマークらしい。
扱ってるお菓子はカカオ多めのビターチョコ。
「いや、幸村君って、こういうとこ好きなんだなあと思って。」
「ああ、いや。俺というより、千百合が。」
「え?」
「以前食べて、美味しかったらしくて。また食べたいって言ってたので、まあサプライズに。」
「へえ・・・・」
「あ。もしかして、もう買ってたりします?」
「ああいや、私見てないし。自分で買ったりはしてないと思うけど。」
「そうですか?なら良かったです。」
(よく知ってるなあ・・・)
自慢じゃないけど、純子は千百合のマイブームお菓子とかわからない。
そもそも千百合は、マイブームが何かとか親に知られたいタイプじゃないけど。
「我が子ながら凄い彼氏見つけてきたよなあ。」
「え?何か言いましたか?」
「ううん、独り言。買っちゃおっか。」
「はい。」
大人さえも顔負けのハイスペックスーパーダーリン。
幸村精市。
この子が居る限り、自分の娘はきっとこれからも幸せだろう。
純子はこの時そう思っていた。
まさかその考えが前提から揺らぐことになろうことなど、知る由もなかった。