「ぷっぷっぷいぷいのぷー♪」
もうすぐ家に着くという地点の所を紀伊梨は一人で歩く。
結局雨脚が弱まった頃、もう家まですぐだよと紀伊梨が言うと、米原はじゃあもう良いよなと言ってダッシュで逃げてしまった。ように紀伊梨の目には映った。
本当は、良いなと思ってる女の子の家に単身上がるというプレッシャーに、米原が耐えきれなかっただけなんだけど。
「たっだいまー!あり?」
帰ってくると、知らない靴が置いてあった。
いや。靴は知らないけど、この靴紐は覚えている。
神奈川で皆で選んだ奴だ。
「もしかして、やなぎー来てるー!?」
「あ!紀伊梨帰ってきた、おかえりー!」
「お帰り。上がらせてもらっているぞ。」
「あ、やっぱりやなぎーだ、いらっしゃーい!」
リビングには、柳と母の皐月が居た。
紅茶が湯気を立てている。
紀伊梨がコーヒーを買ってくるのが遅れ過ぎた。
「紀伊梨、どこまで行ってたの?駅前だから、行き帰りで30分くらいでしょ?」
「あー、雨降っちゃってー。そーそー、博くんに傘入れてもらったの!」
「ひろくん?」
「米原博人か。」
「そーそー!」
「お友達?」
「他校のテニス部です、地区予選で顔は知っています。俺達には顔を知っている程度ですが、五十嵐はよく関わっているようです。」
「へー!」
紀伊梨の交友関係なのに、紀伊梨じゃなくて柳に聞くのはちょっとどうかとは思うが、柳の方が話が捗るのだからしょうがない。のか。
「でも、それでもここまで時間かからないでしょ?寄り道したわね?」
「だーって、可愛いワンピとかあったんだもーん!紀伊梨ちゃんだって、やなぎーが待ってるって思ったら、もーちょっと早く帰ってきましたよ!」
「もお!あれ?そういえば、そのええと・・・米原君?はどこ?」
「お家おいでって言ったんだけどー、帰っちゃった。」
(そうだろうな。)
米原は紀伊梨が好きである。
だからたとえば、紫希や千百合からおいでと言われたら上がったかもしれない。
紀伊梨だから上がれなかったのだ。
というのがわからないのがまあ、紀伊梨と言うか。
「ところで五十嵐、本題だが。」
「本代・・・・・紀伊梨ちゃん本なんかカッテないよ?」
「違う。メインの用事と言う意味だ。帰りに職員室に寄れと言われて、忘れていただろう。」
「・・・・あ!」
「もー!あんたって子は!」
「だーってー!」
そもそも紀伊梨にとって、職員室なんてお叱りフラグでしかないのである。
それか課題か。補修か。
やや泣きそうな顔をしている紀伊梨に、柳はくすくす笑った。
「そう暗い顔をするな。心配しなくていい。」
「およ?」
「課題でもお叱りでもない。ほら、これだ。」
柳は紙束を取り出した。
「これなーにー?」
「先日の文化祭に対する、一般生徒からの感想だ。」
「えー!何それ読みたーい!読むー!あ!ってゆーか、それだったら皆で読まないとじゃーん!紫希ぴょんも千百合っちもなっちんも、今へーきかなー!?」
「明日学校でにした方が良い。先生が持て余していたので預かってきたが、少なくとも兄の黒崎は、今日は学校で何やらしているらしいからな。」
「そーなのー?なあんだー!じゃあやなぎー、一緒に遊ぼー・・・って、あり?そういえばやなぎー、テニスは?」
「ふふ。」
あまりにも今更過ぎて思わず笑ってしまう。
本当はもっと最初に出てくるだろうに、その質問。
「いろいろあってな。なし崩しに今日はなくなってしまったんだ。」
「え!じゃあブンブン紫希ぴょんのとこ居るの!?」
「なぜそう思い込むんだ。」
発想の飛躍が過ぎないか。と思わんでもないが、実の所、まあまあその確率は高いというデータもあるので、一概に否定はしづらい。
「だーって、ブンブンこういう時、すーぐ紫希ぴょんとこ行っちゃうじゃんかー!紀伊梨ちゃんが居ないタイミングで!なぜか!いつも!」
「そうなの?」
「まあ、ある程度事実です。」
「わざと?」
「どちらかというと、直感の成せる技かと。」
「へー!丸井君、すごーい!」
「感心してないでさー!ほら、やなぎーも早く早く!紫希ぴょんとこに突撃だー!」
「しない。大人しくしていろ。」
「・・・・・もー--!」