Hey,families! 2 - 6/7


女子の部屋。

って、入って良いのかなと、さしもの丸井も思わんでもない。いやぶっちゃけ、成り行きで入ったことは何回かあるけど。

まあでも言い出したのは紫希だから良いかな、と思った直後に、ふと気がついた。
そうだ。そもそも多分、棗とか幸村は何回も出入りしたことがあるだろう。別に自分が特別なわけじゃない。

そう思ったらホッとしたようなやや残念なような気持ちになったけど、ひとまず無視して紫希が開けてくれた部屋に入った。

「どうぞ、散らかっていますけど。」
「おう・・・どの辺が?」

これを散らかってると言うんだったら、紫希にとって散らかってない状態ってなんだろう。こんなにきっちり整理整頓されているのに。

ただまあ、物はちょっと多いと感じる。
本とか。女の子っぽい小物やこまごましたものが沢山ある。花まで生けてある。
それでも片付けされてるから、散らかってるとか汚いとかいう印象は微塵もないけど。

部屋のトーンがホワイトと薄いピンクでまとまってることも相まって、ずかずか入るのは躊躇われるなと感じる丸井を他所に、紫希は勝手知ったる足取りでサイドテーブルにお茶の入ったトレイを置いた。

そして、特大溜息。

「はああああ・・・・・・」
「どうした?」
「いえ、ちょっと・・・一息ついたな、って感じがして・・・」
「・・・春日ってさ。」
「はい?」
「あの3人苦手?」

紫希は言葉に詰まった。

「・・・・あの、決して嫌いではないんですけど。むしろ好きなんですけど、その・・・」
「うん。」
「・・・・自分の兄を間に挟んで取り合ってる図を見るのはちょっと、精神的にしんどくて・・・・」
「あー・・・・」

いつからだったろうか。
紫希がこの3人が三角関係なんだと察したのは。

ただでさえ好きな3人が三角関係をじっと見てるのはしんどいものだが、特に七里は性格ゆえに結構遠慮してしまうことが多い。対して兄はフォローが下手で鈍く、沙綾は頑張っているのに靡かない兄に焦れる。

結局皆ちょっとずつ傷つくだけでいっかな進展しない事態に、いつしか紫希は兄達3人を見るのがしんどくなっていた。

「せめて、兄がどっちを好きなのか結論が出れば良いんですけど・・・」
「え?」
「え?」
「だってほら、明らかにあの七里って人が好きじゃん?」
「えっ!」
「え、わかんねえー--そっか、そういえば七里さんも言ってたな。」
「言ってた?」
「多分沙綾さんが好きだと思う、って。」
「私も、ちょっとそうかなと・・・だってその、兄は沙綾さんに対してすごく打ち解けてるって言うか、」
「打ち解けてはいるけど、それはそれとして扱いまあまあ雑じゃねえ?」
「雑・・・」
「お前はお茶自分で入れるだろーとか言ってたじゃん?あれって要は、お前は自分でやれよってことだろい?七里さんには自分がやるって言うのにさ。」
「でもそのー--あれはだから、より気が置けないってことかと思って・・・違うんですか?」
「気が置けてなくても、好きだったらあんなこと言わねえと思うけど。少なくとも俺なら言わねえしー-あ、ほら!幸村君も言わないんじゃねえ?五十嵐には自分でお茶入れろって言いつつ、自分は黒崎のために入れそうじゃん?」
「た、確かにそう言われると・・・」

本気で衝撃!な顔の紫希に、丸井はちょっと笑ってお茶をひとくち飲んだ。

「女子って、そういうとこ不思議だよなあ。」
「え?」
「何かこう、雑に扱われるの喜ぶっていうか?普通逆じゃねえの?大事にされたくねえ?」
「確かに大切にはされたい・・・と思いますけど、他人行儀なことと大切にされてるのと、区別がつきづらくて、というか・・・」
「ふうん?そう?」

そうかねえ、なんて思う丸井は、性格が正直だからこそ。

丸井や幸村なんかは好きな物には好きというタイプだけど、実際世の中の思春期の男子と言うのは、何かに対して「好き」と言うのがもうハードルが高い。好きな女の子なんてなおさら。

そういう言葉を抜きにして、態度だけで表現しようとするから他人行儀に見えてしまうというジレンマがそこにはあったりする。
紫希の兄、孝浩も御多分に漏れず。

でも。

「・・・・丸井君。」
「うん?」
「ありがとうございます。」
「何が?」
「詳しいことは私もわかりませんけど、多分うちの兄はさっき、丸井君を見て何か思う所があったんだと思います。」
「え、そう?マジ?」
「はい。何か、すごく考え込んでる顔をしてましたから・・・だから、もしかしたら、態度がもうちょっとはっきりするかもしれません。」
「もう結構はっきりしてんなって思うけどなー。」
「あはは・・・でも、そうですね。ひょっとしたら、兄としてはもうずっとはっきりしてたのかもしれないです。私達が気づかなかっただけで・・・・」

(・・・でも、もしそうなら・・・)

そしたら沙綾はどうするんだろう。
諦めるのかな。
いや、逆なら良いとかそういう問題じゃないんだけど。七里なら泣いても良いのかとか、そういう話になるし。

(・・・って!)

「ご、ごめんなさい!せっかく来ていただいたのに、身内の話ばっかりしてしまって・・・いただきましょうか。」
「お!待ってました♪どれにする?とりあえず全部出すか!」

鼻歌歌いだしそうな勢いで、ご機嫌に紙袋からマカロンを出し始める丸井に、紫希はじわじわした安堵が内心に広がるのを感じた。

兄の事は好きだ。普通に兄として。
七里のことも好きだ。付き合いも長いし、半分姉のように思っている。
沙綾のことも好きだ。紀伊梨の姉だし、あれはあれで良い人なのだ。

だからこの3人で三角関係になると、紫希としては苦しい。

3人とも好きなのに、最近じゃ3人揃ってる場に居合わせると、他人事ながら胃が痛む気持ちになるのだ。もう数年単位でずっとこの状況が続いてるし。

だから悪いとは思いつつ、鉢合わせると緊張して、解散するとほっとしてしまう。
のだが。

でも今日は違った。
丸井が居てくれた。

感覚の問題でしかないが、あの兄に対して丸井が何らかの作用をもたらしてくれたことを、紫希は妹の勘的なものからわかっていた。
自分にはできなかったことだ。

丸井が居てくれると、いろんなことが上手くいく気がする。
大丈夫、なんとかなる。
そう思えるようになる。

嫌なものから離れた時の安堵感じゃない。
心強さが芽生える時の安堵感がじんわり広がって、体に入った緊張が緩んでいく。

「んで、こっちのが・・・どうした?」
「え?」
「何か嬉しそうじゃねえ?」
「多分、丸井君が居てくれるからです。」

紫希は性格柄、3人とも好きなのに3人と居るとしんどい、という状況がもうしんどい。好きな人と居るのにしんどく思う自分が嫌だ、と感じてしまう。

でも今日は違う。
兄達3人揃っているのに、こんなに凪いだ気持ちになれるのなんていつぶりだろう。もう忘れたくらい昔のこと。

「・・・・・」
「・・・あれ?ごめんなさい、こっちってストロベリーでしたっけ?カシスでしたっけ?こっちのがラズベリーですよね?アラザンが星形の方が、ええとー--丸井君?」
「・・・ええと、カシスこっち。」
「あ!そっか、そうでした。こっちがカシスで、クリームが薄いピンクの方が、」

どうして紫希はこう、こっちがガード緩めた時にストレート打ってくるんだろうか。

丸井はそう思いながら、カシスマカロンみたいにほんのり赤い顔をそっと逸らした。