「・・・ただいまー!」
沙綾が玄関を開けると、見慣れない靴が置いてあった。
「あ、さーやお姉ちゃんお帰りー!」
「お邪魔してます。」
「どうぞどうぞ。えーと、誰くん?」
「やなぎーです!」
「柳蓮二と申します、はじめまして。」
「お。噂の柳君ですな?はじめまして、五十嵐沙綾です!いつも紀伊梨がお世話になってます。」
「いえ、こちらこそ。」
たとえ本当に世話する一方であったとしても、こちらこそ世話になって、ということができる。礼儀正しい男、柳蓮二。
「おねーちゃん早かったねー。孝兄ちゃん所行くんじゃなかったのー?」
「ー------」
「・・・・あれ?お姉ー--」
「ところで五十嵐、さっきの話の続きだが。クリスマスのスケジュールについて、テニス部の予定が出たからすり合わせをしよう。」
「おー!そこ重要!そこ重要ですな!おけおけ、んじゃーちょっと待ってお!スケジュールアプリで・・・練習の予定日が・・・・」
にこやかだった沙綾の顔が一瞬固まったのを、柳は素早く見て取った。
よくわからないが、この方向の話は避けた方が無難と判断した聡い彼は、話題を切り替えることに成功したのだった。
「あれー?カレンダーないー!どこやった・・・あ!そーいえば昨日おとーさんお部屋に持ってっちゃったんだ!ちょっと待っててねやなぎー、カレンダー持ってくるお!」
「走らなくて良い。」
転ぶぞ。と言いかけて、いや紀伊梨は転ばないかな。とも思い直した。
「・・・ありがと、柳君。」
「はい?」
「気を使ってくれたんでしょ?」
「何の話ですか。」
「ふふっ。かあっこいいー・・・・紀伊梨はさ、まだこういうことわかんないから。」
「わかろうとはしてるようですが。」
「でも、わかってるわけじゃないでしょ?」
それを言われると、柳も返せない。本当だから。
「あいつも、柳君みたいに察しが良かったらなあー。」
「・・・・俺が聞いて良い話ですか。」
「良いとか悪いとかって言うより、聞いて欲しい感じ。誰でも良いから、関係ない人に。ああでも、柳君は関係なくはないのかな。」
「?」
「ただいまー!」
紀伊梨が卓上カレンダーを片手にどたどた下りてきたのを見て、沙綾は鞄を持ち直した。
「私、部屋に戻るね。ごゆっくり~。」
「ありがとうございます。」
「あり?おねーちゃん戻るにょ?まあ良いや!でー、えっと今9月だからー。」
「五十嵐、その前にひとつだけ良いか。」
「およ?何?」
「さっきお前は、『孝兄ちゃん』と言ったな。あれは誰だ?」
「あー、孝兄ちゃん?紫希ぴょんのお兄ちゃんだお!沙綾お姉ちゃんとも友達だから、よく遊んでるお!」
「!・・・そうか。」
なるほど。紫希の関係者だったか。
言われてみれば頷ける話である。紀伊梨や紫希はお互いに幼馴染なのだから、兄弟同士に交流があるのもまた当然というか。
「だから、俺とも関係があるのか。」
「へ?関係?」
「いや、何でもない。」
「そーお?」
「ああ。それより、スケジュールの話をしよう。」
「あ、ほいほーい!えっとねー、」