Nemesis 1 - 4/5


どうしてこんなことに。

可憐の頭は、もうそれしか考えられなかった。

「どうぞ。」
「おっじゃまっしまー・・・あ。猫とか居る?大声まずい?」
「ペットはおらんけどご近所さんは居るから、大声は辞めてくれへん?」
「おっけー、お邪魔しまーす。あれ?ドジ先輩入らねえの?」
「あ!ああはい、お邪魔します・・・・」

久しぶりの忍足家は、相変わらず大きくてきれいで、そして静かだった。

「ほんで?」
「で?」
「勉強がしたいて?」
「そう!先輩たちさ、俺の事見張っといてくれよ!で、勉強も教えて!」

安音が白羽の矢を立てたのは、現在氷帝学園に居る可憐達であった。

年上なら、自分の勉強はわかるだろう。
教えるとか造作もないはずだ。

とか考える安音は、人の都合というやつをまったく意に介していない。

「嫌やて言われたらどうするつもりやったん?」
「良いって言ってくれるまで居座る!」
「住居不法侵入で親に連絡いくで。」
「いくまでは諦めない!」
「・・・・・・」
「安音ちゃん・・・・!」

この子は、関わると独特の疲労感がある。気がする。

「忍足君・・・」
「うん?」
「どうするっ?」
「俺的には、やねんけど。」
「うんっ。」
「ここで3人で勉強してたらええんちゃうかと思うて。」

やはりか。
ここに呼ばれた時点で、可憐もあたりはついていた。

「でも、どうしてっ?」
「まあ、本人がやりたい言うてやる気になってるんやし。」
「はーい!」
「可憐ちゃんも、なんや勉強しっかりやりたそうにしてるやろ?」
「ああ、それはまあっ。」
「ここやったら、俺が安音ちゃんの相手しとったら、可憐ちゃんは自分の方に集中できるし。大体俺と成績近いさかい、教え合いもできそうやし。後、俺も都合ええし。」
「そうなのっ??」
「実を言うと、しばらくの間、家族の出入りがまばらやねんな。危ないさかい、お友達とか呼んでええよて言われてたとこやから、丁度良かったわ。」

忍足家は別に仲悪いわけじゃないが、結構皆それぞれ多忙なのである。
父親からして、滅多に返ってこないし。
姉はここ最近友達の家に入り浸っているし。

結局、常時居るのは母親だけなのだ。その母親も、折り悪く実家の用事がブッキングしたせいで、数日帰るのが難しい。
別に一人は嫌いじゃないし、もう中学生でしかも男子だから構わないと言えば構わないのだが、家族的には誰か他に居てくれたらいいなと思ってるらしい。
向日君の家出の予定は?と母から尋ねられた時は、家出の予定てなんやねんと突っ込む気も失せた。

「え!じゃあ遅くなっても大丈夫な感じすか!」
「まあ、ある程度は。」
「泊まりは?」
「あかん。」
「えー!」
「安音ちゃんっ!迷惑だよ、」
「いや、迷惑やないねんけど。我が家のルールていうか、原則女の子は泊めたらあかんねん。堪忍な。」
「ああ・・・そうなんだっ。」

そう。これは忍足家のルールである。
異性を家にあげても良いが、どうしてもやむを得ない場合やグループでない限り、泊まらせてはいけない。

ただ、それをもってしても安音は微妙だなあ、というのが忍足の見解であったが。まあ一応、医者息子として生物学上の判断を優先しとこう。

「ほんなら、始めよか。」
「ういー。」
「よろしくお願いしますっ!」






可憐と忍足が、勉強を始めてしばらく。
わかったことがあった。

「せんせー。」
「ん?」
「これってなんでイが正解なんだよ。まひろの宝物って言うのはさ、親友と靴のことだろ?」
「そうやねんけど、ここで聞かれてんのんは宝物自体が何かていう話やのうて、まひろが宝物をどう扱う性格してるんか、ていう話やねん。」
「はーん・・・あん?先輩、何?」
「あ、ごめんねっ!あのう、ちょっと、失礼なんだけど・・・」
「けど?」
「・・・・安音ちゃん、不思議な成績だねっ?」
「俺もそう思うわ。」
「はあ!?どういう意味だよ!」

さっきから可憐は横耳で安音の進捗を聞いているが。
安音はさっきから、応用問題を異様にすらすら解いている。
本当に成績悪いのかと疑うくらい。

ただ、基本になると急に失点するのだ。
易しい問題程正答率が悪い。
このタイプは。

「神崎さんは、あれやな。」
「なんだよ。」
「勘で問題解いとるタイプやな。」
「他に方法あるか?」
「理論で解こうよ安音ちゃんっ!」

神崎安音という少女は、土台の地頭がまあまあ良いのである。
ある意味天才肌と言っても良い。
しかしそれに頼りきりだから、基本の部分がいつまで経っても育たない。

「やだ!」
「受験生の言葉とは思われへんなあ。」
「ぐ・・・!」
「やだやだ言うのんは勝手やけど、受験にそれは通らへんで。氷帝の場合は、面接もあるし。」
「く・・・・!」
「食いしばりは肩こりの元やで。」

忍足のその言葉が、安音の何かに触れたらしかった。

「あーーーー!もう知るかもう知るか!飽きた飽きた飽きたーーー!もーーーーー!」
「安音ちゃんっ!」
「まあ、そろそろええ時間やさかい。休憩にしよか。というか・・・」
「というかっ?」
「もう夕飯やな。」
「えっ?・・・あーっ!ま、まずいどうしよう、帰らないとっ!」
「あ、俺牛丼!」
「ここで食べる気なのっ!?!?」
「可憐ちゃんも食べる?」
「ええええええ!?」
「言うてもう遅いし・・・ああでも、家に食材あるやろか。」
「ああ、ええと、」

「ただいまー。侑士、ご飯もう食べた?まだやったら・・・」

品の良さそうな、かつ忍足とよく似た面影の女性。
忍足の母、和美はリビングに見慣れない女子生徒の顔を見て、しばし固まった。