Nemesis 1 - 5/5


「吉〇家とか、ほんまに久々やわあ。」
「そうなんすか?」
「そうやねえ。下手したら20年以上食べてへんわ。」
「はー!金持ちはやっぱ、安いの嫌いっすか。」
「ううん、別に安いのが嫌なわけやないねんけど、ゆっくり食べたいのんよねえ。」
「あー、まあそっすよね!男のファストフードっすからね!」

(馴染んでるなあ、安音ちゃん・・・)

あくまで牛丼が食べたいという安音に、一同は牛丼をテイクアウトすることにした。
忍足家は見るからに金持ちの家なので、吉野家の牛丼とか食べないんじゃないかと可憐は思ったが、普通に食べるらしい。

「可憐ちゃん・・・やったわね?」
「あ、はいっ!」
「会えて嬉しいわあ。いつも侑士と仲良うしてくれておおきにね。」
「い、いえいえいえっ!お世話になってるのは私の方ですからっ!」
「そう?でもマネージャーさんって大変やろ?なかなかできることやないと思うわ、今年も暑かったし。」
「それはまあ・・・でも、皆暑いのは一緒だしっ。」
「正直言って、俺は気が知れねえけどなー。時間割いて人のサポート好き好んでやるとか。」

でしょうね。
と、言いはしないけど、可憐も忍足も思った。
そもそも部活自体、安音は「時間通りに決められたことをやるなんて男らしくない」とか意味の分からないことを言って、敬遠しているのである。
選手をやる線はあったとしても、マネージャーとか、天地がひっくり返ってもやらないだろう。

「神崎さんは、何やってはるん?」
「俺?俺はそうっすねー・・・さすらいの「受験生やんな。」うるせーな!今だけだよ、今だけ!」
「あははは・・・でも安音ちゃん、本当に中学で何もしないのっ?」
「えー、部活ってことかよ?」
「部活っていうか・・・」

可憐は、少し箸を止めた。

「・・・そもそもなんだけどっ。」
「あ?」

「安音ちゃんって、どうして受験してるのっ?」

そもそも、お受験という奴から遠くないか。
と可憐は思うのだ。
自分から進んでやりますというタイプにも見えないし。

安音は、集まる視線の中、白米を嚥下した。

「親父の言いつけ!おふくろを守れってさ!」

「「「・・・ん?」」」
「俺ん家、親ーーー親父の方が医者なんだよな。あのー、一人でやる・・・」
「開業医やろか?」
「そうそれ。」

そう。
実は安音は、医者娘なのである。

「でさ、俺良く知らねえけど、医者の子供って医者になるもんなんだろ?一般的に。知らねえけど。」
「まあ、そういうケース多いわねえ。」
「うちもそうやしな。」
「でしょ?でも俺んち、俺も弟も医者とかべっつにー!って感じでさ!べんきょーしろとかも言われたことねえし!ただ、ババアがさー!」
「ば・・・」
「おばあさんてことなん?」
「ああ、いや!俺のばーちゃんってことじゃなくてー、近所のババアどもがうるせえんだよなー!あそこの子供はガラが悪いーの、お里が知れるーのでよー!お里もへったくれも、お前ら全員、うちの周辺の町で住んでんじゃねーかってことだよ!」

安音はいわゆる、成金系金持ちの家で育った。

金はもっている。
でも昔からの富豪というわけじゃなく、父親が一人で財をなしただけで家柄自体は普通だから、お育ちがガチガチに良いとか、そういうわけじゃない。

でも繰り返すが、金は持っている。
持っているからーーーやっかまれるのだ。

「そんでさ、あのババアどもってのは姑息っつうか、俺とか弟に言やあ良いのに、それは言わないんすよ!おふくろに言うんすよ!おふくろはこう、ぽやぽや系なんであんまり効いてないっすけど、全然効いてないってわけでもねえし?
親父は居たら睨んでっけど、あんま家に居ねえしさ。それに俺達、親父から母ちゃんを守れって言われてんだよなー!めんどくせえけど、息子の義務?」

お前は娘だろ。
と思いはすれど、言う人は居ない。

「・・・それで、お受験なん?」
「んー、まあ馬鹿じゃないとか育ちが良いとかって、どーやったら証明になんのって話になるだろ?で、有名私学に行けば良いんじゃねーって弟と話し合ってー、何ヶ所か候補あった中の一個が氷帝。」
「氷帝を選んだのはなんでやのん?」
「別に適当っすよ?どこでも良かったっすけど、どっか一個決めねえとやる気出なくて。」
「お父さんもお母さんも、そんな風に進路決めて反対しなかったのっ?」
「あ?ああー、いや親父とかおふくろは知らないっすよ。俺と弟が勝手に決めただけ。親は何か知らないけど、急に私学行きたがりだしたなー、くらいのもんじゃないっすか。」

安音の父は、自分が不在がちである自覚があった。
だから、子供達にも自分がいない間しっかりしろよという意味で「お母さんを守れよ」と言っておいたのだが、それが今や子供の進路を大きく変えているとは思いもしない。

実際に、氷帝に行ったからって、それが母親を守護することにつながるかどうかは大分微妙なのだが。
ただ、安音本人はこれが一番の策と思っている。
今の所。

中二病を卒業する気はあんまりない。それは嫌。
「自分が嫌と思わない範囲で」という枕詞付きで、取る気になれる対策が氷帝への入学なのだった。

「ただまあ、最近はシンプルに氷帝って面白そうだなってとこもあっけどさ。楓も、安音に多分合ってるよって言ってっし。」
「ああ・・・うん・・・」
「合ってそうなんは事実やなあ。」
「そうねえ。おばちゃんも、合うてるんちゃうかと思うわ。アクティブやしね。」

アクティブというか。アグレッシブというか。

「まあ、そんなとこだな。」
「そっか・・・じゃあ安音ちゃんの場合、在籍が目的になるんだねっ?」
「まあ、そうやな。そうなるな。」
「在籍・・・・」

安音はちょっと箸を止めた。

まあ。
まとめるとそういうことになる。

目的は「氷帝生」の肩書を持つことで。
逆に言うと、一度なりさえすれば、退学にならない限りそれが外れることはない。
安音はやんちゃな方ではあるが、退学になるようなことーーー例えば犯罪とかをするタイプではない。
だから、受験に成功すれば、目的はもうほぼ達成となる。

「・・・・・・・」
「・・・・ふふふ。それはそれとして、可憐ちゃんは?」
「えっ?」
「なんでテニス部のマネージャーにならはったの?あ!ひょっとして、昔テニスやってたとかやろか?」
「ちっ、違いますっ!そういう子も居ますけど、私はそういうのじゃなくてっ!なんていうか、その・・・」

思い出す、入学初日のこと。
そうだ、あの日だった。

「・・・入学式の日に、成り行きでテニスの試合を見たんですけどっ。その時に、何かに打ち込んでる人ってかっこいいな、素敵だな、お手伝いしたいなあ、と思ってっ。」
「あら素敵!わかるわあ、一生懸命な人ってかっこいいやんねえ。」
「・・・はい。」

そうだ。
始まりはそうだったはずなのだ。

思い返すと、可憐はなんだか今の自分が、かつてに比べてやや低俗な存在になってしまった気がした。
あの時は純粋に応援しようと思っていたはずなのに、今はなんだか、テニスと関係のない。いろんなことに振り回されて。

その可憐の思考を、安音がぐいっと引き戻した。

「俺には理解できねえなー。人の手伝いとか面白いもんかよ?」
「ふふふ。まあまあ、人のお手伝いをしたい、いうのにはいろいろ理由があるもんやけどねえ。」
「えー、どの辺にすか?」
「そうやねえ、例えば好きな人が居てその人のお手伝いをしたいやとか。」
「げえ・・・」
「後は、自分でやりたいけど、何かの理由でどうしてもできひんとかね。」
「やったら良いと思うっすけどねー。」
「安音ちゃん・・・」

安音はどうも、自分ができるから他人もできると思っている節がある。と思う。
言いはしないが、こういう所跡部に似ている。

「さて!ごちでした!先生、続きしようぜ!」
「食べたらもう帰り。」
「えー!」
「そうねえ、流石に親御さん心配しはるわねえ。」
「むー・・・まあ良いや、明日も来まーす。先輩も来るっしょ?」
「えええっ!?い、いやでもっ!連日はさすがに迷惑じゃ、」
「俺はええで。」
「えええっ!?」
「どうせ1人は来んねんし。」
「あ、ああ・・・・」

もちろん、安音は可憐が来ようと来るまいと、まったく意に介さない。
仮に可憐が来ないと言ったって、「1人で男子の家はちょっと・・・」みたいな性格していない。来客0になるわけじゃないのだ。

「ええやないの、おいで?おばさんも、お友達来てくれた方が賑やかでええわあ。」
「・・・・じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてっ!」
「よーっし決まり!明日もよろしく、せんせ!」

グータッチを求めてくる安音は、すごく軽いノリだった。