Outing 4 - 2/7



当然というのもどうかと思うが、駅に着いても芥川は起きなかった。
その為芥川は棗がおんぶしており、ドリンクの箱は女子4人で、2箱を交代して持っていた。

「ごめんね!皆本当にごめんね・・・!」
「そんな重いもんでもないから、大丈夫よ。」
「いや、流石に同級生男子1人は結構来るんだけ「黙って運べ」妹が冷たい・・・」
「紀伊梨ちゃん、其処段差あります。」
「うおっとおい!ありがと紫希ぴょん!」

幸い駅からは然程遠くない。

「ところでさー、可憐たん!氷帝学園ってどんなとこ?」
「え!?」

どんなとこと言われると。

「え、えーと・・・見てもらった方が早いかな!もうすぐ見える・・・あ!彼処!彼処だよっ!」

そう言って可憐が指差した先。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・外国の大学?w」
「これでも中学校なんですっ・・・!」

やっぱり変なのだ。
分かってはいたが、やはり他所の学校の生徒から見ても、我が氷帝学園中等部校舎は変なのだ。

「おっきーーーい!」
「地図が要りそうな広さですね・・・」
「うん、要るの・・・今でも迷子になるの・・・」
「ホ/グ/ワ/ーツ城かよw」
「金持とかいう言葉じゃ片付けらんないわね。」

氷帝学園って金持ってんだなあ、と思うビードロズだがそれは違う。金があるのは学園ではなくて、あの俺様何様帝王様の御曹司だ。

「で、テニス部は?」
「あ!えっとね、そんなに離れてないのっ!こっち、こっち!」

(そんなに離れてない?)
(本当でしょうか・・・)

可憐を疑うわけではないが、スケール感があまりにも違いすぎる。可憐のいう「そんなに」な距離と、自分達が思う「そんなに」な距離は本当に一致しているだろうか。

「ほえー、広ーい!こんなとこでライブしてみたいなー!」
「それは確かに気分良さそうw」
「ホールとか、沢山入るでしょうね。」
「学校が金持かとかって気にした事無かったけど、確かに。そう考えると羨ましいかも。」
「・・・・・・」

多分、跡部なら「ライブやるならこれくらいしろ!」とか言って、あの広い広い前庭に特設ステージを作ってしまうだろう。
王の考えそうな事がちょっと分かってきた可憐である。

「・・・あ!着いた、其処だよ!待ってね、開けるね!」

可憐は金網で出来た、テニス部の敷地に通じる簡易扉を開けてくれた。

「ほほー、此処が!」
「氷帝のテニス部ね。」
「ぶ、部員の方が沢山です・・・!」
「うちより多いなw何人だよw」

「ごめんなさーい!戻りましたー!」

その呼びかけに、何人もの人間が一斉に振り向く。

「あ、こっちっ!テニス部の部室棟まで案内するねっ!」
「部室”棟”てw」
「各部にあるんでしょうか・・・」
「広くなるわけだよw」

可憐に従って氷帝テニス部の中を進むビードロズ。
しかし他校に居ると言うのは、独特の気まずさがある。目立つし。

「桐生!」
「戻ったか!」

「あ!向日君、宍戸君!」

この2人も、可憐と芥川が戻らないのに気を揉んでいた2人である。

「クソクソ、心配させやがって!なんでよりにもよってジローなんか連れて行っちまうんだよ!」
「ご、ごめんなさいーっ!」

「悪い、其奴うちのなんだ!運ぶから、代わってくれ。」
「サンクス、助かるわw」
「本当に悪い!サンキュ!おい、ジロー!起きろ!」

パシパシ、と頬を叩く宍戸。この辺の遠慮の無さは幼馴染である。

「んにゅ・・・」
「駄目か・・・ったく、人様の前で激ダサだぜ。」
「こいつ何時もこうなわけw」
「ああ、大体はな。」

宍戸的には寧ろ、買い物に着いていけた方が奇跡的である。良くショップまで自分の足で辿り着いた。

「あ!千百合ちゃん、ごめんね!持つよ!」
「いや、別に運ぶわよ。」
「ううん!私マネージャーだもん!」
「そお?」
「お前もほら、貸してミソ。」
「お!あんがとー!」
「いや、こっちこそサンキューな!本当助かったぜ、此奴ら2人だったらぜってー此処まで戻れてねーもん。」
「まあそれは否定しづらいw」
「ごめんなさい・・・!」
「ま、まあまあ。無事に戻れたんですから、ね?」

そう。
無事に戻れたのだから。

「・・・さ。用も済んだし、退散するわよ。」
「はい。」
「おーw」
「えー!」
「えー、じゃない。」
「紀伊梨ちゃん、まだ部活中ですから。ね?それにそろそろ駅へ向かわないと、電車がまずいです。」

親無しでの遠出が許されるようになったとはいえ、まだ中学1年生である。
晩飯迄には家に帰って来いよ、と言われているから、それを守らないと次のお出かけに関わる。

「ご、ごめんねっ!お礼はいつか絶対、」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「ほら、行くわよ。邪魔になるし。」
「むー!」


「待て。」


背を向けたビードロズが足を止める。
王の呼び声である。

「あ!跡部君!忍足君!茉奈花ちゃん!」
「可憐ちゃん、お帰りー!」
「良かったわ、戻ってきて。」

抱き合う可憐と網代を見ながら、忍足はホッと胸を撫で下ろした。
良かった、本当に。

「あ!声覚えてるよー、電話に出た人だー!」
「そうだ。物覚えが良いじゃねえか、アーン?頗る意外だぜ。」

意外にの前にナチュラルに「頗る」を付けられる辺り、流石鋭いと言わざるを得ない。

「すこ「後で。」
「で、何のご用事?俺達電車の時間あるんだけどw」
「うちの芥川と桐生が世話になった。急ぎと見えるしちゃんとした礼は今度としておくが、一先ずお前らの目的地に送ってやる。」
「おおおお!?」

紀伊梨は目を輝かせた。こういう話に対して遠慮が無いのは紀伊梨の長所というか短所というか。

「運んでくれるの!?駅迄!?」
「アーン?誰が駅迄と言った。」
「・・・と、仰いますと?」
「俺様は「目的地」と言ったんだ。駅から最終的に何処へ行きてえんだ、言え。連れて行ってやる。」
「はあああ!?」

此奴馬鹿なんじゃないの、な目で跡部を見る千百合。仕方ないと言えば仕方ないが、なんとそれが通るのである。

「いえ、あの!其処までして頂かなくても、」
「良いから、良いから!跡部に任しとけよ。」
「えええ・・・!?」
「此奴にとっちゃ、その位マジで大した事じゃねーって。」

とても信じられない。
向日は大した事じゃないとか言うが。

「あのですねwお気遣いは有り難いのですが、我々最終的には神奈川へ行くんすよw」
「アーン?直ぐ其処じゃねえか。」
「直ぐ其処・・・!?」
「流石にアメリカとかブラジルとか言われたら、今からでプライベートジェットが間に合うか微妙だったがな。」
「私今日本語聞いてるのよね?ねえ。」
「気持ちは分かるぜ。」

知り合って一月になる宍戸だって、この突き抜けた金銭感覚には未だに置いてけぼりになるのだ。況や今日初めて跡部に見えるビードロズをや、である。

「ほんとーに神奈川迄連れてってくれるの?」
「ああ。待ってろ、今リムジンの用意を・・・」
「待て!」

とうとう千百合がストップをかけた。

「ねえ、リムジンはやめてくんないw」
「アーン?何が不満だ?」
「目立つのが不満なんだよw俺らの地元湘南の端っこだからwあんな所リムジンで走ってたらご近所さんからすげー目で見られるわw」
「えー!リムジン乗ってみた「黙れ。」

これが人生最初で最後のリムジンに乗るチャンスです、と言われても千百合は乗る気になれない。絶対。

「あ、あの、タクシーを出して頂くだけで十分過ぎますので・・・」
「タクシー?馬鹿言え、貸しのある相手をそんなもんに乗せられるか。」
「いやもうほんとそれで良いからw」

俺様が良くないので駄目です。
何か方法は無いかと思案する跡部。

「・・・ねえ、もう行って良い?」
「アーン?」
「時間が惜しいのよ、私達学校に寄りたいの。車じゃ渋滞に引っかかりかねないし、学校閉まる時間があるから、間に合うように駅に行きたい。」

此れは本当の事であった。
丁度同じ位の時間になるし、学校で合流して一緒に帰れるかも、と幸村達と話していたのだ。このままではそれに間に合わない。

「そ、それに私駅で買いたいものが・・・」
「あら、お土産か何かかしら?」
「はい、東京バナナを。」
「東京バナナ?なんだそれは?」
「なんや、知らへんの?」
「お菓子だよ、跡部君!東京名物なの!」
「ふむ・・・」

東京バナナ。
リムジン不可。
学校へ行きたい、とくれば。

「おい。」
「んー?」
「学校は何処だ?」
「立海だよっ!」

立海。
という事は間違いなくアレがある。

「・・・良し、決まりだ。待ってろ。」
「ちょっと何を、」
「安心しろ、リムジンじゃねえよ。渋滞にもかからねえし、東京バナナとやらを取り寄せる時間もこれなら作れる。」

王は不敵に笑った。

その笑顔をある者は頼もしいと目を輝かせ、ある者は嫌な予感に頬を引攣らせたのだった。