「うん、大丈夫、大丈夫。・・・大丈夫だから、うん。平気。大丈夫。うん、じゃあ。」
ふう、と溜息を吐いて千百合は携帯を切った。
「すげえ電話だな。」
「ん?・・・えーと、えー、名前。」
「ああ。俺、宍戸亮だ!」
「そ。黒崎千百合よ。で、何が凄いの?」
「「大丈夫」って言った回数だよ。ひっきりなしに言ってたぜ?」
「あー・・・」
幸村は心配していたし、その気持ちは千百合にも良く分かる。
千百合だって逆に、幸村と待ち合わせしていて「ヘリで向かっているから」とか言われたら、何がどうなってそうなったのか、問いたい気持ちでいっぱいになるだろう。
でも千百合にも説明しづらいから、大丈夫と言い聞かせる他なかったのだ。
「・・・ちょっと心配性なのよ。」
「ふうん。ま、いきなりヘリがどうのとかって言われたら、そりゃそうか。親とかか?」
(う・・・)
違います。違います。違うんです。
もしかして此奴わざと言ってないかと思い宍戸の顔を見るも、宍戸の瞳は純真そのものの光で千百合を見返してくる。
宍戸に悪気などない。ただ話題を振っただけ、それだけ。
でも、千百合はこういうのが凄く苦手なのである。
なんて言えというのだ。彼氏?恋人?お付き合いしてる人?
「・・・あの。」
「?」
「・・・す、きな、人。」
「・・・!?え、あ、いてっ!!」
聞いて来たくせに顔を赤くする宍戸に、千百合はうっかり手が出てしまった。
いやこれはしょうがないだろう。こっちだって恥ずかしいのに。
「何すんだよ!」
「態度が気に入らない、そっちから話振ってきたくせに!」
「う・・・わ、分かるかよそんな事!」
「分からなかったとしても、流すくらいしろっ!」
本当に恥ずかしい。
ぷい、と宍戸から顔を背けてしまうが、これはもう仕方ないだろう。
「・・・でも、良かったな。」
「・・・何が?」
「心配してくれてたんだろ?」
「・・・ああ。」
好きな人。
と言ったから、多分宍戸は「片思いの相手」として話をしている。脈アリっぽいんじゃないか、良かったな、と言いたいわけである。
実際は脈アリとかそういう話をとっくのとうに終えているのだが、訂正する気にはなれない。恥ずかしい。
「それなら彼氏って言えば良いだろ?」とか返されたりした日には、目も当てられない。
「参考までにあんたは?」
「はっ!?」
「好きな人とか居ないわけ。」
普段千百合はこういう話を人に振らない。
というか、立海で振ると漏れなく返り討ちに遭うので出来ないのだ。
その点、宍戸が相手だと少々攻勢に出られる。
「べ、別に居ねーよそんな奴!つーか、なんで言わなきゃいけねーんだよ!」
「ちょっと。態とじゃないとはいえ、私には言わせて置いて自分は言いませんとか、男らしくなくない。」
「うぐ・・・!」
こう言われると、根が真面目な宍戸としては辛い。
「・・・・・・」
「本当に居ないの?」
「・・・居ねーのは本当だよ。今は部活でそれどころじゃねーし。」
「そりゃまあ、そうかもね。」
「ただ・・・強いて好みとか挙げるんなら、ボーイッシュな奴が良い。」
「へえ。意外。」
「意外か?」
「あんた、紀伊梨みたいなタイプが好みかなって。」
如何にも2人でアミューズメントデートとかしてそう、とか思ったのだが。
「明るいのも良いけどな。なんつーか・・・こう、あんまり女子らしい奴ってどう扱ったら良いのか分かんねえんだよ。」
「あー。ぽいわ。」
「可愛い可愛いって、何に向かって言ってんのかも良く分かんねえしよ。ちょっとした事ですぐ泣くし。」
「そういうのが嫌なの。」
「・・・困る。」
嫌、というとちょっとニュアンスが違うのだ。
そう言う所が女子っぽいというか、異性を感じる所でもあるので。
ただ、どうしたら良いのか分からない。分からないから、自分とお付き合いしていてもお互い戸惑うばかりだろうなと思ってしまう。
「気持ちは分かるけどね。私も大概女子っぽさとは縁遠いから。」
「あー・・・」
「ただ、これだけは教えておいてあげる。」
「?」
「「好きなタイプ」なんて、実際参考程度にしかならないわよ。」
正しく好きなタイプの人を好きになる人。
好きなタイプとは全然別な人を好きになる人。
それは実際、落ちてみないと分からないのである。
「そうか?」
「そんなもんよ。」
うーん、と訝しげな顔をする宍戸に、千百合は少し微笑んだ。
「案外あんた、可憐みたいな子を好きになったりするかも。」
「おい、実際に友達な奴の名前を上げるなよ!」
つい、と目逸らしして千百合は微笑み続ける。
このくらいの意趣返しは良いだろう。