ところで、普段ビードロズはどのように1曲を作るのかと言うと。
基本、紀伊梨の作曲と、棗の編曲が先。
千百合は演奏しかしないので、作曲の間は待機。
紫希は完全に曲が出来てから詞を当てる。
という流れになる。
このうち、今の段階でもう曲作りは終わっている。
よって、紫希は作詞作業。千百合は練習に入る。
紀伊梨や棗は、普段なら練習もするが、今回の場合曲作りの目的は「チア部に使ってもらうこと」である。
別に皆の前で演奏するわけじゃない。
なので、別にそこまで必死になって、演奏レベルを上げなくても良い。
短い曲なので、千百合もそこまで習得には苦労しない。
よって、紫希の作詞だけが残るということになる。
ので。
参考になればと思い、一同は実際、テニス部を見に来たわけだが。
「う、ううん・・・・」
「はーあ。」
「もー!見えないじゃんかー!」
「あっはっはっはっはw」
テニス部のフェンスを囲むようにできている人の群れ。
夏休みが終わり、新人戦も終わり、どちらも優勝に輝いた男子テニス部は、まさに今が人気のピークタイム。
部の人気も。選手の人気も。
「紀伊梨、作曲の時どういう風に見たわけ。」
「え、見てない。」
「「「・・・・」」」
「だってー!見なくたって、別にさー!ゆっきー達のことをイメージして、あとは何かこう、かっこよくしたら良いんじゃんかー!」
「お前なあw」
「あはは・・・で、でも、本当にかっこよかったですよね!紀伊梨ちゃんの曲。」
天才の言う事は参考にならない。
今ビードロズはそのことを、ひしひしと感じる。
「紫希ももう、見ないで書いちゃったら?」
「まあ最悪、それも視野に入れんといかんとは思うw」
「ううん・・・・確かに、この調子だと、そうせざるを得ないかもしれないですけど・・・」
見た方が良いのはわかるが、何せ物理的に見られないのだから、もうどうしようもない。
「バレちゃ駄目縛りがきっついんだよなあ・・・」
「テニス部に入れてもらうってこと?」
「まあ、そこまでせんくても、ほら。応援部なら出入り自由だから。」
「あ、そっかー!みっきーに頼んだら良いんだね!」
応援部からの依頼というのなら、応援部に口利きしてもらう権利はある。
その考えも、別に無理はない。
無いけど。
「ま、それしたらまずバレるよね。」
「皆、勘が良いですものね・・・」
「えー!」
「しょうがないじゃん。あんたのサプライズ根性と曲の出来と、どっちが大事よ。」
「むー・・・・なっちーん!」
「なあんで俺なのよwそんなこと言われても・・・・お。」
「何?」
「・・・いやまあ、バレなきゃ良いんだ、って意味では、まあ・・・」
「・・・方法があるんですか?」
「うーんまあ、聞くだけはタダだしw行ってみよっかw」
「良いよ?」
「「「「良いの!?」」」」
ビードロズの相手をしているのは、片倉中。生徒会の1年生代表である。
棗が提案したのは、生徒会室から見られないかということだった。
位置的に、生徒会室は2階の高さから、すぐそこにテニス部が見える。
生徒会は別に毎日毎日集まってるわけじゃないし(というか毎日集まっていたら、柳生はテニス部に居られない)、数日で良いからこっそり貸してくれないかなー、と言うのが棗の読みだったのだが。
「ほ、本当に良いんですか・・・?」
「え、だって悪さするわけじゃないし・・・それに、チア部の依頼だろ?」
「うん!」
「なら、ほら。部活動のために生徒会室を一時貸出します、ってことで。問題ないよ。」
「「「「・・・・・」」」」
「えーとだから、まずチア部と話をして・・・部長は千代田先輩だったかな。と、言い出したのは井谷さん?と、生徒会で正式に話をして、書類を通してもらってこっちが処理をして、だからビードロズがやってもらうのは、チア部からこっちに回ってくる書類に署名をして、大体2日あれば・・・あれ?どうした、ぽかんとしちゃって。」
「すごいです、片倉君・・・」
「え?」
「俺こんなトントン話進めてくれると思ってなかったw」
「めっちゃ手際良いじゃん。話早。」
「片倉君ありがとー!」
「そ、そう?いや、別に大したことしてないけど、まあ・・・そう言ってもらえるのなら。」
片倉中。彼は熱意を持って日々生徒会の業務を行っているが、その傍ら熱意に振り回されず、仕事を要領よく進めるスキルを持っていた。
かくして彼はこの日、ビードロズからの羨望の眼差しを一身に受けることになったのだ。