まあそんなわけで、片倉少年は一気にビードロズ全員の懐に入ることになったのだ。
学校生活中も、それは変わらないわけで。
「よい、しょ、よい、しょ・・・」
「あれ、片倉・・・・何してんの?」
「その声は黒崎さん?ごめんな、今ちょっと手が離せなくて・・・うお!と、と、とと・・・」
片倉は、段ボール箱を抱えて歩いていた。
それは良いのだが、何箱も重なってるせいで、多分ほとんど前が見えていない。
「重くないの。」
「いや、平気平気!中身はほとんど入ってないから、軽いんだ。ただ、かさばっちゃって。あはは、こんなことなら畳めば良かったなあ。横着しちゃっ・・・あれ?」
急に視界が開けた片倉の目の前には、段ボール箱を一つ引き取った千百合が立っている。
「・・・え、いや良いよ!黒崎さんの仕事じゃないのに、」
「良いよ別にこのくらい。今してもらってる世話に比べたら。」
「いやだからあれは俺の功績じゃなくて、君達は正当な手続きと権利を踏まえた上で、あそこに居るのであってさ。」
「でも、自分でそれやるの怠いもん。いつになるかわかんないし。」
「いやでも・・・」
「ほらもう行こ。確かに軽いけど、でかいから腕が怠いし。」
「本当に?ごめんね、いつか埋め合わせするよ。」
「だから私が埋め合わせしてるんだって、今。」
なんて言って廊下を歩いていると、前方に知った顔が3人見えた。
とは言っても、あっちは見えているか疑わしい。何せ千百合と片倉の顔は、箱でほとんど見えないのだから。
「じゃあ結論として、冬の土日はーーー幸村。後ろを人が通るぞ。」
「ああ、ごめんね。通れる・・・千百合?」
「お疲れ。」
「や!3人ともお疲れ。」
幸村はちょっと目を見開いた。
段ボールが通るのは視界の端に入ってからすぐわかったが、その陰に自分の彼女が居るとは思いもよらず。
「む?黒崎千百合と片倉とは、見ない組み合わせだな。」
「あはは・・・ちょっと、手伝ってもらってて。」
「そこで会ったから。」
(・・・そこで会ったから?)
幸村は、事実上部長のようなものであるため、生徒会とも多少繋がりがある。
だから片倉のことも、多少は知っている。
生徒会であることも。C組じゃないこととかも。
クラスメイトでも何でもない少年を、千百合が「そこで会ったから」という理由で手伝ったりするだろうか。
と、思っていたら真田が話を進めてくれた。
「生徒会の者を手伝うとは、殊勝な心がけだな。生徒として、あるべき姿だ。」
「いや別に、そんなんじゃない。マジで。他の生徒会なら手伝わないよ。」
そうだろうな、と幸村も思う。
千百合はそういう方向の手伝いはやらない。
千百合が人を手伝うのは、その人に恩があるときだけ。
「・・・俺が持とうか?」
「え?」
「もう、話も終わる所だったし。」
これは本当だ。
本当に、後結論を口に出して再確認するだけだったから、今抜けても問題はない。
だから幸村はこう切り出したのだが、千百合は幸村にとって、大分予想外の行動に出た。
「え、嫌。絶対ダメ。」
「え?」
「私がやる。行こ、片倉。」
「うん・・・んん、えふっ!」
「何咽てんの。」
「いやちょっとあの、ごめんね俺、こういう時笑っちゃうタイプで・・・ふふふふっ!」
片倉は、隠し事のできない性格だった。
誰かに何か隠していると、笑う性格をしていた。典型的な、サプライズできないタイプ。
千百合は、絶対幸村に箱を押し付けられない。
これは、ビードロズとして片倉に返す恩だから、他の誰かに押し付けられない。
ましてテニス部なんて。今片倉もビードロズもチア部も、皆テニス部のためにやってるのに、そのテニス部に片倉への恩返しなどさせられないのだ。
・・・という一連の流れを、悟られてはいけないと思えば思うほど、片倉は笑ってしまう。
だめだめ。
秘密秘密。
今皆で応援歌考えてるからなんて、絶対言っちゃだめ。
という片倉の親切心と正直な心は。
ぶっちゃけこの状況では、幸村の目にはただただ疑わしいだけに見えるのであって。
じゃあね、と言ってすたすた去って行く千百合と、未だに笑う片倉の背を、3人はしばし見つめる。
「では、話の続きだが・・・幸村?」
「ん?ああ、何だい?」
「話の続きだが。」
「・・・幸村、庇うように聞こえるかもしれないが、片倉はそんな男じゃない。あまり気にしなくて良い。」
「あはは。大丈夫だよ、俺も別に、疑ってるわけじゃないから。」
「?何の話だ?」
「いや、何でもないよ。続けよう。それで、冬のメニューとしてはーーー」
浮気してる。
とは思ってない。
流石に、今のだけで、そこまで考えるほど信頼してないわけじゃない。
ただ一方で、自分の知らないことが、あの2人の間にあって。
そして、そこに自分が混ぜてもらえないのは、立派な事実なのだ。
それはまあ。
正直、お世辞にも愉快なこととは言えないので。