Cheering song 1 - 6/7


「それじゃあ、本日はこれで解散ということで。」
「お疲れさまでしたー。」

ふう、と息を吐きながら資料を机でまとめる片倉に、低い穏やかな声がかけられる。

「片倉君。少しよろしいでしょうか?」
「え?ああ、柳生!どうし・・・えふっ!」
「・・・片倉君、前々から言おう言おうと思っていたのですが。」
「んん・・・な、何?」
「人に隠し事をする際、笑うのはいただけませんね。正直は美徳ですが、こうまで正直だと将来悪影響ですよ?」
「そりゃまあ、嘘のプロのお前に言われたら・・・」
「心外ですね、誰が嘘のプロですか?」
「おーまーえ。聞いてるぜ?仁王とダブルスやるんだって?」
「やれやれ。その通りですが、仁王君と組むと、この手の風評被害を受けるのが悩ましいポイントですね。」

とか言ってるけど、その実柳生は楽しんでいることも、片倉は知っている。

「・・・んで、本題は何?」
「ああ、失礼しました。次年度の予算会議の資料なのですが、3ページ目のーーー」



「こんちゃーーー!」

そんなでかい声で言わなくたって聞こえてるよ。
と、思わず言いたくなるようなボイス声量。

「片倉君居ますかー・・・あ!居るー!居たー!やーぎゅもー!」
「五十嵐さん、もう少し声を落としてください。」
「落とす・・・・?声を、落とす・・・落とす?」
「・・・小さくしてください。」
「ああ!はーい!」

まだでけえよ、と周囲に思われているのも構わず、紀伊梨はずかずか片倉に近づいていく。

「元気だな、五十嵐さん・・・どうしたの?」
「おつかいです!」
「「おつかい?」」
「うん!はいこれ、紫希ぴょんから!」
「え?」
「なんかー、えーとファイルのお礼?だってー!今日は紫希ぴょん日直で忙しいので、代わりに紀伊梨ちゃんが居ましたっ!」
「ほう、これはこれは。」
「えええええ・・・・・!」

紀伊梨や柳生には日常だが、片倉にとっては、女子の手作りクッキーである。
すごい恭しく受け取る片倉に、柳生は小さく笑ってしまった。

「片倉君。春日さんにとっては、趣味ですから。そんなに申し訳ながることでもありませんよ。」
「そうなの!?良いの!?」
「もちろん、人の手作りが怖いというのであれば、それでも構いませんよ。私が引き受けましょう。」
「あー!ずるい、やーぎゅ取ろうとしてるでしょー!片倉君、要らないんだったら紀伊梨ちゃんに!紀伊梨ちゃんにください!」
「い、要らなくないよ!要るよ!要るけど・・・えーでも、俺本当に大したことはしてないんだけどなあ。」
「いーの!片倉君、やさしーもんね!」

柳生の目から見ても、ビードロズが何がしかの形で、片倉と交流を持ち始めたことは伺える。
自分に対して、紀伊梨がああだこうだ説明してこないことも。

でも。

「・・・・柳生、何か突っ込んで来ないな?」
「ええ、夏休みの間に。」
「夏休み?」
「伏せられていることを無理に暴こうとして、結果的にお叱りを受けましたのでね。待つことにしたんですよ。」
「へえ・・・?」
「???」

合宿の時も、ビードロズは何かとこそこそしていた。

だから探ってみたのだが、結果的には、こそこそしていたのではない。
テニス部がさせてしまっていたのだ。

副部長直々に頼むからあっちのことを探るのは止めて、と頭を下げられたのは、柳生には結構衝撃的なことだった。
だから、柳生は今回は突っ込まない。同じ轍は踏まない。

(ただ、今回の様子を見るに・・・)

「片倉君。」
「ん?」
「もしも誰かから何かされそうになったら、すぐに私か、もしくは真田君を呼んでください。」
「「え?」」
「良いですか、すぐにですよ。私は関係ないから、などという遠慮は無しです。」
「え?え?何何?」
「え!もしかして片倉君、いじめられてんの!?」
「そうなるかもしれない、という話です。」
「え、なんで!?」
「本当だよ!なんで!?俺何かした!?誰に何した!?」

合宿の時と違うのは。
引率の大人の代わりに、ビードロズの側に居るのが片倉だということであった。

大人は良くても、同級生の男子はちょっと嫌。
そう思う人間が居てもおかしくはない。

「まあ、覚えてさえおいてくれれば良いので。」
「何その含み!やめろよ!怖いよ!」