次の日。
可憐は、日直にあたったため、いつもの時間には出られなかった。
いつもだったらこういう時、忍足は待つ。
だが、可憐と2人で勉強ではなく、今回は安音が教えてくれとそもそも言ってきたので、その安音を待たせるのはちょっとどうかと思った。
だもんで忍足は、可憐を残して先に帰宅した。
のだが。
「・・・・・・・」
「はあい♪」
呼び鈴が鳴ったので出たら、微笑む網代が、軽く片手を挙げていた。
「どうぞ。」
「あら、良いの?」
「来といてから、何言うてんねんな。」
「うふふ、冗談よ冗談♪お邪魔しまーす・・・あら?私だけ?」
「そのうち来る思うけど。」
「可憐ちゃんは?」
「今日日直やて。」
「ふうん・・・・」
網代は大人しく案内されたリビングに座る。
はっきり言って、忍足の家はでかい方だ。なので、
来客を通すと大概の人は、まあまあしげしげ、いろんなところを見る。
だが、網代はそういう素振りをしない。
これは忍足家だからどうのというより、完全に育ちの話。
「どうなの、お勉強は?捗ってる?」
「思うてたより。」
「あら!順調フラグ、ってこと?」
「せやな。予定より大分進んでるわ。」
「へー!じゃあ今日はちょっとくらいサボっても、ばちは当たらないわよ、ね?」
忍足はちょっとだけーーー本当に本人にしかわからない程度に目を見開いて、お茶に向けていた目線を網代に移した。
そうか。
そういう方向に、話を持っていくのか。
「ねえ?どう?」
そうやな。
と返事しようとした時だった。
ピンポーン
「あ。」
「あら、」
ピンポーン、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン
「あははははは!誰が来たのか、一瞬でわかるわね?」
「まあ、インターホン確かめんでええけど。」
可憐はーーーいや、可憐でなくても、こういうことをする人はいない。
彼女を除いては。
「いらっしゃい、神崎さん。」
「おす!今日もよろしくす!」
「こんにちは、安音ちゃん♪今日は私もお邪魔するわ、よろしく!」
安音は、忍足の後ろから顔を覗かした網代を見た。
「あー!あの、ほら!文化祭の時のー、えーと・・・」
「・・・・」
「・・・・・えー・・・・」
安音と網代は、初めましてではない。
幼稚舎でオーロラフェスタが行われた時に会った。
ただ、その後のレインボーフェスタでは入れ違いになった。なので、安音の中では「結構前に会った人」にカテゴライズされるのだ。
「うふふふっ!網代茉奈花です、よろしくね!」
「あー!そうそう、網代先輩!まあポニテ先輩で良いっすよね。あれ?ドジ先輩は?」
「日直やねん。」
「ふーん。っていうか眼鏡先輩、鍵開けといてくださいよ!無駄にインターホン鳴らしたすよ。」
「なんで開けとかなあかんねんな。」
「えー!おばさんは顔パスしてくれんのにー!」
「それがおかしいねんて。」
「あははははっ!」
おかしくてたまらなさそうに笑う網代を、安音はじっと見た。
「・・・・・・・」
「はー・・・あら?何?私、顔に何かついてる?」
「・・・いーえ?さ!べんきょー!勉強しましょー!」
「・・・・?」
珍しく含みがありそうな素振りをする安音を、忍足は訝しく思いつつ、通した。
少なくとも、忍足の見てる間で、こんな安音は初めて見る。
「せんせー、宿題見てくんね、宿題!塾のやつなんすけどー。」
「ああ、ええで。」
「あ、お茶!お茶もください!」
「催促されると、嫌やて言いたなるなあ。」
「なんですかー!」
(・・・気のせいかしら?)
なんかおかしい反応されたな。
というのは、網代自身も気がついていた。
まあ、人がおかしい反応をするというのは、無数の理由や可能性があるもので。
中には気のせいだったり、一時的なものだったりというケースも多数ある。
だから、網代はこの時流すことにした。
というか、誰でもそうしただろう。
気になったとて、他にできることもないし。
だが。
「眼鏡先輩、ここってなんでアが正解なんすか?」
「眼鏡先輩、この計算飛ばすとまずいです?」
「ねー、眼鏡先輩!」
「眼鏡先輩!」
「眼鏡先輩ってば!」
流石に気づく。
安音は網代を避けている。
それはもう露骨に。
話しかけないだけではない。
目すら意識してやってないのを感じるレベル。
しかし。
「あ、ポニテ先輩、お茶ないすよ。要ります?」
「え・・・ああ、そうね。うん、欲しいわ、ありがとう。」
(嫌い言うわけではなさそうやねんな・・・)
まあ、じゃあ何と言われても困るのだが。
「んー?・・・なあ眼鏡先輩。ここさあ、」
「その前にな安音ちゃん、」
ピンポーン
話を切るように鳴ったインターホンに、網代がリビングの通話ボタンを押した。
「はーい!」
『あ、桐生で・・・茉奈花ちゃんっ!?』
「うふふ、今日は私も居るの♪待っててね、今出るわ。」
「茉奈花ちゃん、悪いねんけど出てくれへん。」
「はあい。」
良いタイミングと言って良いかどうか。
とにかく、網代は一時的にいなくなった。
今がチャンスである。
「んで?その前にって何すか?」
「安音ちゃん、茉奈花ちゃん嫌いなん?」
普段忍足は、人に向かって好きとか嫌いみたいな、明け透けな言い方はしない。
ただ、安音に対しては別である。
安音は、明け透けな物言いじゃないと、響かない。
「なんであんな態度なん?」と聞いたところで、「あんな?あんなってどんなんすか?」と言われて終わりだろう。
それに、今は時間が惜しい。
ぐずぐずしていると、茉奈花どころか可憐まで来てしまう。
こんな話、大勢に聞かれて良いものじゃない。
安音は忍足を、こともなげにいつもの表情のまま見返すと。
「まあまあ。」
と、言った。
このお菓子好き?みたいなことを聞かれたかのような気軽さだった。
「・・・そうなん。」
言いつつ、忍足は訝しんでいた。
安音と網代は、マジでまだ知り合って数時間くらいしか一緒にいたことが無い。
好きも嫌いもない、くらいのはずだ。
なのに、まあまあ嫌いまで行ってる理由が、忍足には解せなかった。
「・・・でも、それにしても、もう少し態度に出さへんようにできへん?」
「えー、無理す。耐えられねえもん。」
忍足は内心結構驚いた。
「まあまあ嫌い」と言ったのに、今度は「態度に出さないのが耐えられない」って。
それは「結構大嫌い」に入る振る舞いであろう。
まあまあ程度か、と思ったからこの提案したのに、この返し。
まずい。
「わかった、ほんならーーー」
「眼鏡先輩、逆に良くポニテ先輩と一緒にいれるすね。イラつきません?」
安音がそう言った瞬間。
網代が丁度、可憐を連れて戻ってきた所で。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・え?え?え・・・・?」
「あ、ドジ先輩!ちーっす!」
忍足は特大の溜息を吐きたくなった。