「前言ったと思うんすけどー、俺の親父医者なんすよね。」
勉強どころじゃなくなった空気の中で、皆の注目を浴びながら、安音は話し始めた。
「俺、何科とかって言ってないすよね?」
「うん・・・」
「すよね。俺の親父、精神科なんすよ。あのー、えー・・・りん、りん・・・なんとか、税理士みたいな・・・」
「臨床心理士ちゃう?」
「あー、そうそう。それそれ。そんでまあ、俺も弟も、親父からいろいろ聞いて育ってるんで。
含みのある事言ってる人って、見たらぼんやりわかるんすよね。」
「そ・・・そんなことあるのっ!?」
「まあ、わからない人にはわからない、って親父も言ってましたし、そんな細かい事わかるわけじゃないんすけどー。なんとなーく、『あーこの人今、いろいろめちゃくちゃ考えながら喋ってやがんなー』くらいのことはわかるんすよ。」
「・・・で、私がそうだってこと?」
「そ。だから、俺の目の前で喋られると、こういろいろ、いちいち気になって、しょうがないんすよねー。無視したいんすけど、半分癖なもんで。」
「癖なあ。」
これは結構困る事態だった。
網代が悪いわけではないが、さりとて安音が悪いわけでもない。
「で、でも・・・何か方法は、」
「ポニテ先輩が普通に、正直に喋ったら良いんすよ。」
さらりと安音は言った。
「・・・・なるほど、ね。」
「無理っしょ?親父の患者さんとかでも、そういうタイプ居ますからわかるすよ。ポニテ先輩みたいなタイプって、基本無理なんすよね。正直に喋んの嫌いだから。だから別に良いっすよ。俺は好きになれないすけど。」
「まあそう、ね。悪いけど、私も合わせられないかなあ。」
(えええええ・・・・・・!?)
可憐は、内心おたおたしっぱなしだった。
人と人が、こんなはっきり仲違いしてる所を見ることになろうとは。
いや、厳密には仲違いではないのかもしれないけど。
「皆、悪いけど私、帰るわ。安音ちゃんに悪いし。」
「えええええっ!?」
「いや別に、居ても良いすよ?俺はあんま相手できないすけど。」
「ううん。今の勉強会は安音ちゃんがメインなんだし。」
「堪忍な。結果的に、追い出すみたいになってもうて。」
「良いのよ。そもそも私、勝手に来ちゃった側だから、ね。やっぱり、アポ取れば良かったわ。」
とは言いつつ、アポとかそういう話でもないことも、皆わかっている。
これは完全に、人間としての相性の話なのだ。
しかし。片づけ始めた網代を見ながら、安音は言った。
「俺が出て行くのは、なんでなしなんすか?」
「「「え?」」」
「別に、眼鏡先輩が俺に出て行けっていえば良いじゃないすか?家主でしょ?」
「・・・確かにやろう思うたらできるけど。」
「けど?」
「安音ちゃんが先約やろ。この場合。」
「でも眼鏡先輩とポニテ先輩って、付き合ってるんじゃないすか?じゃあ、俺に出てけって言うのが筋でしょ?」
ああでも、したらドジ先輩があれすね!とか続ける安音に、一同はもう頭を抱えるしかなかった。
どうしよう、この場。