可憐の問いに対し、榎本は「全然まずくない」と返した。
おそらく、可憐が言い出さなければ、向こうからそう言っただろうとも。
交野という少年は、そういう性格なのだそうだ。
可憐に気はあるけど、だからといって「じゃあ付き合おうか」と言われると、「いやいきなりそれはちょっと困る!まずはお友達から!」と言うに決まってると。
伊丹もそれに同意した。
これは可憐にとって、大分ホッとすることだった。
だから、連絡先の交換がてら一度会ってみるかという流れになった時も、可憐は比較的緊張しないでいられた。
緊張しない理由は、結局の所好きな人ではないから。
というのも大きいことはわかっていたが、無視した。
これから好きになるかもしれないし。
そうなりたいのかどうかさえも、今はまだわからないけど。
「・・・・・・・」
可憐は今、部活後、下足室にほど近い廊下で交野を待っていた。
会う、と言ってもいつ?という問題が生じたのだ。
2人とも、部活で忙しい。
結果として、待ち合わせして一緒に帰りがてら話をしたら、ということで話がまとまったのだった。
(特に最近、秋めいてきて日が落ちるのも早いもんねっ。夏なら、放課後時間をとってもまだ明るいから、そんなに気にしないけどっ。)
なんて思って、窓の方に視線を向けると、誰かの影が自分の方に伸びてくるのを感じた。
今の時間、大抵の生徒は下駄箱方向に進むのだ。
しかし、逆から影が来たということは。
「かた・・・」
「可憐ちゃん?」
可憐は心臓が止まるかと思った。
「お・・・忍足君っ?・・・どうしたのっ?」
「いや、ちょっと忘れ物思い出して。」
「あ、そ、そう・・・」
「可憐ちゃんは?まだ帰らへんのん?」
「ああ、うん・・・ええと、ええ・・・」
なんて言おう。
そう迷う時点で、可憐の心はもう見えているようなものなのだ。
男子と待ち合わせなの。
私のこと気になってるんだって。
そう言えないのは、目の前に居るのが好きな人だからだ。
誰だって、好きな人に、別の異性といちゃついてるなんて思われたくない。
あえてそう言って、気を引くみたいな真似もできない。
そういう駆け引き、向いてないのだ。
「?」
「あのう・・・ええー・・・あの、」
「あ。」
聞き慣れない声がしてそちらを向くと、知らないーーー写真で今日知ったばかりの顔があった。
「あの・・・やっほー・・・?」
「交野やん。お疲れさん。」
「あ、あれっ?知り合いっ?」
「俺の知り合いていうか、跡部の知り合いていうか。」
「えっ?」
「あ、あははっ!まあ、ちょっとね?」
交野は、忍足と可憐を交互に見た。
忍足はその視線を受けて、すっと踵を返した。
「ほんなら俺、行くわ。二人とも、またな。」
「あ、うんっ・・・」
「ばいばーい・・・・」
何も悪いことをしてないのに、何か悪いことした気がしてしまうのは、何故だろうか。
可憐がちらりと見やると、交野も同じような顔をしていた。
「・・・とりあえず、帰ろっか?」
「あ、はいっ!」