ところで、今年の夏。
氷帝学園は、イギリスにある跡部家で合宿を行おうとし、天候の不具合から断念された。
そして今。
ビードロズ達は可憐達がイギリスに行きそびれたのをまったく知らないまま、イギリス行きの飛行機に乗っている。
「・・・・・・・・・」
「それでですな。ここからここまで行こうとした場合、もし地下鉄でストが起こっているとすると、」
「そうですわね、確かにこのルートの方がーーー五十嵐さん。」
まったくこちらを振り返ることなく、打ち合わせしてたはずの前方の担任が自分を名指ししたことに、紀伊梨は無言で飛び上がった。
「いや、あのー・・・」
「お手洗いは前方ですわよ?」
「・・・・・ちょっとだけ。」
「駄目です。」
「どーーーしてよーーー!もーーーー!」
大声出すなよ、関係ない客に迷惑だろ。
とは誰も言わない。関係ない客など、この飛行機には乗っていないからだ。
今日は海外研修ツアーである。
毎年、全校生徒連れていかれる。
つまり、立海の生徒だけで飛行機がいくつも埋まっているわけだ。
紀伊梨の乗っているこの飛行機は、かなり大きく座席も多い上、2階建て。おそらくここのどこかに、友達が皆居る。
ただし。
座席配置の関係上、およそ2クラスずつごとに丁度壁で区切られており、生徒の行き来が原則禁止されているのである。
紀伊梨はB組なので、クラス間を超えて交流できるのはA組だけ。
仁王と一緒。
その仁王は相も変わらず姿をくらましている(来てはいるだろうが)ので、紀伊梨は実質クラスの友達としか遊べないのである。
別に良いけど。
それでも良いけどさ。
「ずるいずるいー!紀伊梨ちゃんも隣行きたいーーー!」
「現地着いたら混ざったら良いじゃん?」
「飛行機でも探検したいのー!良いなあ~・・・」
「・・・まあ確かに、隣は皆揃ってるって思ったら、五十嵐ちゃんの気持ちはわかるよ。」
「それはそうだけどさ。」
そう。
2クラスずつということは、C組はD組と一緒になるので、紫希、千百合、真田、幸村、柳はあっちに揃ってるのだ。
紀伊梨がうるさいのは、単に分断されてるからというだけではない。
自分だけ幼馴染組から分断されてる感が気になるのだ。(まあ棗も居ないのだが)
「うるせえな、静かにしろい。」
「次、丸井だぜー?」
「あ、悪い!」
丸井は丸井で、機内トランプに勤しんでいた。
現地のグルメ?もう覚えたよ。ご心配なく。
「丸井は行くの?」
「へ?どこへ?」
「お隣のクラス。」
B組の者は皆、一条郁のクラスへ行くのかとは聞かない。
噂は噂であり、本人にそんな気が無いのはもう皆知っているからである。
ただ一方で、1クラス大体40人に満たない程度の人数とし、およそ17を数える他の同学年のクラスに言って回る気も起こらないのだが。
「明日から全部じゃないけど、自由時間挟まるだろ?クラスで固まれとも言われてないし、まあ自由行動じゃん?」
「まあ、そのつもり。つもりとしては。」
「お前らって、また夜抜けたりすんの?」
「いや?今回は何かどーしても許可取れなかったとかで、そういうのはなしだってよ。」
「はー。」
この告知は、先週の段階ですでに回されていた。
反応はいろいろだったが、柳生が無理と言ってる辺り、本当に無理なのであろうことが窺い知れた。
「つうかやっぱり、できるんだったらやろうとはしてたん・・・あー!くそ!」
「はははは!」
「くうっそー・・・油断したあ・・・」
「丸井って、結構ポーカーフェイス得意だよなー。」
「そお?まあ真面目な顔をずっとは難しいけど、ずっと笑ってろって言うのは簡単だし。」
「くうう・・・!おらこっちだ!引け!」
「やだ。」
「あー!」
「あははははは!」
前回の林間合宿では、楽しんだと同時にまあまあ濃い夜を過ごす羽目になった。
悪くなかったけど、流石に異国の地でああいうことになると、マジで本当に二進も三進もいかなくなる可能性もある。
出歩けないのは、まあしょうのないこと。
と、丸井は思っていたし、他にもそういう考えのメンバーは居た。
大きな間違いだった。それを一同は、間もなく知ることになった。