ホテルの探索に行きませんか。
と言い出したのは、海外文学の世界が好きな柳生。
それに対し、乗っかったのは3人。
紫希と丸井と、後棗だった。
「俺紀伊梨に来ない方がって言ったけど、正解ねw」
「結構薄暗いですよね・・・」
「見通し悪いよな。」
「皆さん、足下に気をつけてください。」
雰囲気あるな。
とは元々多くの生徒が思っていたのだ。
流石に700人近くを収納できるだけあって、広い。
そして、その700人へのもてなしを賄うため、バックヤードが広くなりさらに全体が広がる。
庭はちょっと怖いから止めて欲しいと、紫希は最初に申し出たのだが、申し出なくても庭はちょっとやばいと全員わかっていた。
怖い以前に、普通に暗くて危ない。
「地図ねえかなー。」
「今時は探せば、大抵・・・ああ、ありました。」
「ええと、もうすぐエレベーターホールで・・・奥にラウンジが・・・」
「こっち何かなw普通にホール?」
「細かい所は書いていませんね。まあ、幸いほとんど一本道だったので。」
どうしても困ったら、引き返したら良いのだ。
という心理的な安心は、一同の歩みを進めるのに、おおいに役立っていた。
(何か・・・何も怖いことなんて無いはずなのに、どうも不安なのはどうしてなんでしょう・・・)
外が霧で暗いからか。
肌寒いからか。
壁に何気なくかけてある絵の一枚ですら、じっと見ていたら余計なものが見えそうな気がする。
「甲冑とかなくて良かったねw」
「ああ、あってもおかしくはないでしょうね。」
「でも、どこかにはあるかも・・・くしゅん!」
「寒い?」
「まあ、今日は涼しくなるでしょう。この霧ですから。」
「もう10月だしな。はい。」
「え?」
「どうぞ?」
丸井は事も無げに着ていたパーカーを差し出した。
「ブンブン君は寒くないのかねw俺も結構寒めなんだけどw」
「別に?」
「い、いえ大丈夫ですよ!悪いですから、」
「良いから、ほら。」
「いえでも、あう、う・・・」
言ってる間に背中からかけられて、ボタンを止められた。
こうなると、袖を通すしかなくなる。
「あ、ありがとうございます・・・あったかいです・・・」
「おう。」
「ブンブン君、俺のは?」
「棗君、女性はともかく男性はこういう場合、自衛すべきですよ。」
「わかってるよ、言ってみただけwっていうかお前も平気そうね、ロンTだけなのに・・・」
「こう見えて、体温は高いんですよ?よく低そう、と言われますが。」
(本当にあったかい・・・)
丸井の貸してくれたパーカーは結構厚手で、移っているぬくもりや匂いは紫希を大層ほっとさせた。
まあまあダブついていることも紫希は当然というか、何も思ってなかったが、棗は内心で「ブンブン君って紫希と似たような体格じゃなかったんだな」と、やや失礼なことも考えたりした。
「にしても、マジで他に誰も居ねえよな。」
「だって俺らの貸し切りでしょw」
「そーじゃなくて、もっと俺らみたいにうろうろしてるやつ居ても良いだろい、ってこと。」
「初日で、皆疲れてるんじゃないでしょうか・・・?」
「その可能性は高いと思いますよ。かくいう私も、言い出しておいてなんですが、本当に同行していただけるとは思っ、てーーー」
先頭の柳生が止まり、連鎖的に全員立ち止まった。
たまたま丸井の真後ろに居た紫希は、軽くぶつかってしまった。
「す、すみませーーーあれ・・・?」
「・・・あんまり、前出んなよ。」
「・・・何と思います、棗君。」
「・・・・烏とか、鳥的な。風じゃないでしょ。」
前方の廊下。
ずらりと並ぶ窓の中で、1枚だけタンタン、タンタン、と何かが叩くように揺れている。
明らかに風じゃない。風なら、隣が同じように揺れないのはおかしい。
しばらく4人が見ていると、窓は緩やかに開いてしまった。
戸締りが緩かったのだろうか。
いやそんなことより。
「・・・・・とにかくまず、顔などを出すのは止めにしましょう。」
「見に行く気なの!?お前マジで!?」
「んなこと言ったって、気になるだろい?」
「なるけどさあ・・・ええ、紫希どう?」
「き、気持ちとしては見たいですけど、」
「決まりですね、行きましょう。」
「マジか・・・マジか・・・」
「手離すなよ?絶対だぞ、絶対。」
「は、はい・・・」
もし万一があったら、一同は紫希を引っ張ってでも全速力で逃げないといけない。
常に引き返してダッシュできる姿勢をキープして、じりじりと近づく。
さっきから何も聞こえない。
ただ、開いた窓がキイキイ言いながら揺れてるだけ。
なんだかんだ、幽霊の正体見たり枯れ尾花的な落ちである確率が高い。
とは皆思っている。
でも言い換えると、2割くらいは何か居る可能性がある。
鳥か風かーーー他の何かかは知らないけど。
「・・・・・何も居なくねえ?」
「どうやら・・・そのようですね。」
窓の正面まで来ても、何も見えなかった。
ただ、霧があるだけ。
「じゃあ、窓が開いたのは・・・」
「単に鍵が緩かった的なものかねw」
しかし、開けっ放しはどうかと思う。
でも、近寄る気が起こらないのも事実だった。
じゃんけんでもするか、と柳生と棗辺りが考えた時だった。
窓の外に、女の顔が出たのだ。