「Hahahahaha・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
驚きすぎて声も出ず、壁を背にして最大限窓から遠ざかる4人。
しかし窓の向こうでは、見知らぬ女性がおかしそうに笑っている。
「(ごめんなさいね、おどかすつもりはなかったのよ。)」
嘘吐けよ。
と紫希以外の全員が思った。
女性は、真っ黒な服を着ていた。そのせいで首から下が良く見えず、霧の中では本気で生首が浮かんでるように見えたのだ。
イギリス人としては珍しいのかもしれない、黒い長い髪と瞳。
ここまで黒を推されているというだけでも、この状況じゃ不気味。それともイギリスでは、こんなの不気味とは言わないのだろうか。
「(・・・失礼ですが、どちら様ですか?)」
「(私は、近所に住んでいる者よ。でもこのホテルのお庭、居心地が良くて偶に遊びに来てしまうの。ホテルを使っているわけではないから、褒められたことではないけどね。でも、駄目だという規則も無いから。)」
つまり、宿泊客じゃないが庭にはよく来ていると。
なるほど、居る理由はわかった。
次だ。
「(先ほど窓を叩いていたのは、あなたですか?)」
「(そうよ。)」
「(それは何故です?)」
「(貴方たちを見かけたの。お願いがあって。)」
「見かけた?」
丸井は思わず日本語で声を出した。
この深い霧で、見かけるなどということがあろうか。
ただ女性の方は日本語がわからないのか、丸井の発言に反応しないで続けた。
「(ここのボーイが話してたのを聞いたの、貴方達イギリスに勉強目的で来た、日本人なんでしょう?)」
「(ええ、いかにも。)」
「(同行させてくれないかしら?)」
全員が顔を見合わせた。
「(・・・どういうことですか?)」
「(ああごめんなさい、言い方が悪かったわ。友達よ、私の友達を同行させてくれないかしら?私、彼女にロンドンを見せて回りたいのよ。でも、事情があって私自身は出られないの。かといって、一人はちょっとね。)」
「(退屈ですかw)」
「(そうね、それもあるし・・・一人でうろついていると、間違われそうなのよ。野良に。)」
(野良・・・?)
(へえー。友達ってもしかして、ペット方向ってこと?)
まあ、世の中にはペットを家族とか友達とか、人扱いしていう人も居るしね。
ということで、一同は納得した。
「(どうかしら?)」
「(いくつかお聞きしたいのですが、構いませんか?)」
「(ええ、どうぞ。)」
「(まず、ご同行のご友人と言うのは、逃げませんか?)」
「(逃げる?)」
「(つまり、その方が私達との同行を嫌がり、別行動を要求するという線もあり得ますが。)」
「(ああ、それは大丈夫よ。誓って邪魔はしないわ、心配しないで。不都合な時は、外で待たせても良いしね。)」
「(そうですか。ではもうひとつ。何かあったとしても、私達は全責任は負いかねますが、それでもよろしいですか?)」
柳生が言うと、女性は苦笑した。
「(日本人はもっと、無条件に人を信じる質かと思っていたわ。)」
「(それは偏見ですよ。失礼ですが、こちらにも都合がありますので。個人旅行でもありませんし。)」
「(わかってるわ、何があっても貴方たちを責めたり、お金を取ったりしません。万一道中で死んだりしても、貴方達に非は無いとここに誓うわ・・・それで?ここまで言ったからには、引き受けてくれるのかしら?)」
一同はもう一度顔を見合わせた。
ぶっちゃけ、いろいろ唐突過ぎて、判断がまだ詰められてない所もあるのだが。
悪い人ではなさそうだし。
責任は一切負わなくても良いと言ってるし。
「・・・良いんじゃねえ?」
「私も構いません・・・」
「じゃあそれでw」
「では・・・(お引き受けします。)」
「Thank you so much.」
「あれ、皆?」
一同は聞こえてきた幸村の声にはたっとして、声のした方を振り返った。
後ろには千百合が居て、なんだかやたらに明るい。
「どうしたんだい、こんな所で。」
「そのう・・・」
「少し、ありまして。」
「つうか、幸村君達は?なんでこんな所居るわけ?」
「私ら、自販機行ってみよっかって言ってただけ。」
「自販機・・・?」
棗がばっと振り向くと、少し離れた所にロビーと自販機があった。
煌々と電気がついている。
というか。
「・・・ここの廊下、こんな明るかったですか・・・?」
「・・・私も気になっていた所です。」
「なあ。もっと暗くて寒かったよな。」
「えー、良いって言っちゃったけど早まったかなあ・・・」
「ねえ。何の話してんのよ、さっきから。」
「ご、ごめんなさい、私もちょっと整理しきれてなくて、」
「とりあえずロビー行かねえ?」
「ですね。情報を整理しましょう。」
なんだかさっきと比べてすごく明るい廊下を歩き、一同はロビーへ向かった。
霧はいつの間にか晴れかけていた。