ロンドンでもっとも有名で大きい橋とは、タワー・ブリッジと呼ばれる橋である。
このタワー・ブリッジは、とかく良く「ロンドン橋」とごっちゃにされるのだが、両者はまったく別物である。ロンドン橋はロンドン橋でちゃんとある。小さいし地味だから、それと分からずスッと通り過ぎてしまう人も多いが。
まあいずれにしろ、タワー・ブリッジはロンドンを代表する観光地のひとつで、べらぼうに大きな橋なのだ。
「わー!すごいすごーい!おっきーい!ね、カーラちん!」
カア。
「何か、急に突かなくなったな・・・いや、良いことなんだけどさ。」
「かーちゃん、って呼ばなくなったからじゃねえ?」
「よっぽど嫌だったんじゃろうな。」
カーラは今、紀伊梨のリュックに乗っている。
道行く人は結構カーラを見るが、そりゃそうだろうと思う。これが普通だ。
それだけに、大英博物館での話はまあまあ解せないのだが。
「川もおっきいねー!気持ち良いですなあ!」
「テムズ川、だったな。確か。」
「もっと近く行こ、近く!」
「あ、おい気をつけろーーうわ!え?あれ?」
カーラは、紀伊梨のリュックから桑原のリュックに移った。
「あれ?カーラちんそっちが良いの?」
「・・・みたいだな。まあ良いけど。」
「えー!おいでよカーラちん!」
カア。
「走られるのが嫌なんじゃないんか。」
「烏なのにそんなのってあり?」
「烏としては相当変わりものじゃろ。」
「まあな。」
「いや・・・というより・・・」
「およ?」
桑原は少し考えて、そろり、と紀伊梨に近づいた。
するとカーラは、丸井の方に移る。
「お?こっち来る?」
「・・・やっぱり。」
「どうした、何か思いついたんか?」
「そいつ、高い所怖いんじゃないか?」
今紀伊梨は川を見ようと、柵に身を乗り出している。
桑原も今、近い位置に移動した。
だからカーラは、柵から遠い丸井の方に移ったのではないだろうか。
「へー!カーラちん高いとこ嫌なの?」
「と、思うんだけど・・・」
カア。
「飛んだらええんじゃないんか。」
「んー、でも嫌いなのは嫌いでしょーがないよねー!あ、そーだカーラちん、抱っこしてあげよっか?それなら安心っしょ?」
カア。
「・・・嫌みたいだな。」
「えー!じゃあ戻ってきたらまたこっち来てよ!」
「それは本人が決める事じゃろ。」
3人の会話を聞きながら、丸井はリュックの上のカーラを見ていた。
高い所が怖いなんて。
「・・・ははっ!お前、春日に似てんな。」
カア。
「あいつも怖いんだって、高い所。」
なんだか急にカーラが可愛く見えてきて、話しかけてしまう丸井。
の、耳に聞き慣れた憮然とした声が入ってきた。
「何やってるんだ・・・・」
「え?」
「あ、いっちーだ!鈴ちんも居るー!」
そこに居たのは、林と郁だった。
林は相変わらずきらきらした目をしていて、郁は相変わらずやや憮然とした目をしている。
「よ!」
「よ、じゃないだろ、リュックに烏なんか乗せて・・・下ろしたらどうだい。」
「ああ、話すと長いけど、こいつただの烏じゃねえんだよ。」
「そーそー!カーラちんは、友達なんだよ!」
「「友達?」」
烏がか?と訝し気な目になる2人に、桑原はまあいろいろ、としか返せない。
(・・・あれ?そう言えば、仁王・・・・!?)
「あいつ・・・・!」
「え?何、桑ちゃん?」
「いや・・・・」
逃げた。
さっきまでいたのに、今の一瞬で仁王は姿を消していた。
多分、完全に離脱したわけじゃなく、どこかには居るのだろう。あっちはこっちを認識しているはずだ。
ただ、仁王は郁と林が居る間、おそらくこっちには来ないに違いない。
そもそも仁王は、林が言うほど得意じゃないのだ。
自分を好きな女子とか面倒くさい。傷つかれたり泣かれたりしても困る。
加えて郁も面倒くさい。というか、ソロならともかく、丸井が居るととにかく変なわがままを発揮するので、付き合う気にならないのである。
結局、逃げる。
桑原は、もう1人でこの状況でやっていくしかないのを悟った。