Queen’s country:Haunted castel 1 - 2/9


部屋に戻って少し経つと、すぐに棗からグループに概要が送信された。

カーラ主催の、幽霊城見学ツアー。
時間は夜、0時00分にホテル前に迎えを寄越す。
帰りは2時近い予定。

どこでどうやったのか知らないが、ホテルスタッフや教師陣にはカーラが話を通したらしい。
だから消灯を過ぎてホテル内を通ってるのが見つかっても、おそらく何も言われないだろうとのことだった。
ただ、級友にバレて自分もと言われると収集が着かなくなるため、同級生には他言無用。

22時に消灯し、クラスメイト達が疲労でストンと寝静まった頃、仮眠を取った紫希と千百合は起きて、紀伊梨を部屋まで迎えに行き、玄関ロビーを目指す。

「さっむ。」
「外は霧も深いですもんね・・・紀伊梨ちゃん、大丈夫ですか?」
「帰るううう~・・・やだあああ~・・・」

なんと、紀伊梨はちゃんと起きた。
普段だったら寝たら起きない紀伊梨は、この時間起きていようと頑張ったとしても無理なのだが、幽霊城という恐怖が皮肉にも紀伊梨を起こしていた。

「残ったら良いじゃん、部屋にはクラスメイト居るんでしょ。」
「それもやだ!寂しい!明日皆その話するのに、紀伊梨ちゃんだけ知らないとかやだなの!」
「幼児かよ。」
「まあまあ・・・でも紀伊梨ちゃん、気を付けてくださいね?お城って言ってますし、広そうですから、幽霊が居ないとしても迷子になったら大変です・・・」
「うん!紀伊梨ちゃん、絶対誰かにひっついてます!」
「ま、あんたはそれが良いかもね。」

紀伊梨は怖がりとかそうでないとか以前に、林間の際精霊に惑わされて孤立した前科がある。
同じことをそう二度も三度もされても困るのだ。
千百合は、本物の幼児の背に付けておくハーネスが、今必要なのではとさえ思う。

「もーやだよー、なんでイギリスで幽霊とか・・・あー!皆居るー!皆ー!」
「こんばんは。」
「よ。」
「こんばんは。ふふっ、どうしたんだい五十嵐。珍しく元気じゃないか、こんな時間なのに。」
「怖くて眠れません!」
「寝といた方が良かったんじゃないw」
「それも嫌!」
「おい、声を落とさんか!」

と言ってるお前の声もでかいぞ、とはもう誰も真田に突っ込まない。
いつものこと。

「・・・・・・」
「よ。さっきぶり。」
「あ、丸井君。」
「どしたの?」
「いえ・・・結構大きい声で話してるのに、本当に誰にも何も言われないな、と思って・・・」
「まあな。俺も出る時先生とすれ違ったけど、マジで何も言われなかったし。」

「へえ。本当に話通ってるんだ。」
「まあ、とはいえずっとぐずぐずしてるわけにも行かないし。揃ったから、もう行こうか。」

しれっと手を繋ぐ幸村にも、もはや誰も突っ込まない。
というか、今日はその方が良いと思われた。

なんせ今日は。

「わーーー!」
「これはまあまあ、まずいんじゃないんかの。」
「まあまあどころじゃない。相当まずいぞ。」
「おや、柳君がまずいと判断するのであれば、由々しき事態ですね。」

とても深い霧。
まさに、一寸先も見えない。

辛うじて街灯は分かるが。

「これ行けるの?事故しない?」
「どうかな。車の音はするから、結構外出してる人も居そうだけどね。」
「え、ほんと?」
「うん。ほら、遠くにーーーちょっと見えにくいけど、すーっと動いてる光があるだろう?あれは多分、車のヘッドライトじゃないかな。」
「マジか。このコンディションで運転すんの。」
「案外、運転してると平気なのかもしれないね。サイレンとかブレーキ音も聞こえないし、事故も起こってなさそうだ。」
「ふむ。地元民にとっては恐るるに足らん程度、ということやもしれんな。」
「イギリス人やばいな。」

「そういえば柳生。」
「はい?」
「言おうか迷っていたが、お前は来て良かったのか?」
「というと?」
「お前はお化け屋敷が嫌いだと聞いたことがあるが。」
「え、ほんと!?仲間だー!仲間ー!」
「ううん・・・そうですね、まあそうなのですが、今回は平気です。」
「あり?」
「私が苦手なのは、いわゆる和風ホラーのお化け屋敷でして。古城に住むゴーストがどうの、というタイプは、別段怖くないんです。むしろ好きな方ですね。」
「あーん!仲間が居なくなったー!」
「ほう。面白そうな話をしとるの。」
「残念ですが、今回は平気なんです。聞いていたでしょう?」
「プリッ。」

「どうやって行くんだろうな・・・」
「あれ?その辺はジャッカル達が聞いてきたんじゃねえの?」
「いや、迎えに来るって言われただけで。具体的にどうやって行くのかは・・・この辺に城なんて無いだろうから、歩きはないと思うけど。」
「電車やバスも考えにくいですよね。駅や停留所から近いお城なんて、あんまりないと思いますから・・・車・・・タクシー・・・馬車・・・」
「「馬車?」」
「な、ないと思いますけど!でも、イギリスではまだ合法は合法だったような・・・」
「マジ?乗ってみてえ。」
「乗ってみたいか・・・?」
「俺、乗れるもんなら乗ってみたいけど?春日は?」
「私も、可能ならぜひ・・・あ。」

一同がはぐれないように固まって正門まで近づいていくと、だんだん明るい光が近づいてきた。
やはり車。

いや、あれは。

「わあああああ・・・・!」
「何?」
「ナイトバスです!」
「ナイトバスだ、柳生。春日。」
「ええ、ナイトバスですね。」

「え、何?ナイトバス?夜バスってこと?」
「そうだよ。イギリスでは夜行バスがあって、0時から深夜まで走ってくれるらしいんだ。」
「へー。」

「まあ、そうは言うても、ここは停留所じゃないき。」
「まあねw深夜に走ってるだけで、本当に公式のナイトバスじゃないんだろうねw」
「私用のバスということか。贅沢だな。」
「使用のバス?バス使ってるってこと?」
「たわけが・・・!」
「プライベートのバスってことよwあれ多分、カーラさんが個人で持ってる奴でしょ、ってことw」
「へー!おっかね持ちー!」

紀伊梨の発言には、誰も反論しなかった。
少なくとも彼女から、裕福なんだろうなとうかがえる要素はあっても、貧乏してる要素は見受けられなかったから。
身なりもきれいで、整っていたし。

バスに近づくと、扉は勝手に開いた。
中に他に乗っている人は、運転手以外誰も居なかった。

「(ようこそおいでくださいました。どうぞ、お好きな席へ。)」

中は煌々と電気が点いていて明るく、それだけで一同はなんだか体温が上がる感じがした。こう霧が深いと、とにかく外は暗くて仕方ないのだ。

めいめいが適当に座ると、バスは静かに発車した。

「(それでは、20分程走ります。道中何かありましたら、お申し付けください。)」

20分。
というと、ルートにもよるが、最悪歩いて帰れない距離ではない。
何かあった時用にいくらかお金もあるし、タクシーを乗り合わせれば、ホテルまではおそらく帰れる。

「(あの。)」
「(はい。)」
「(・・・僕らを呼んでくれた女性はどちらへ?)」

カーラさん、とは言わなかった。
この運転手がカーラと言う名前を知ってるかどうかは疑わしい。
むしろこの人は、本名しか知らない可能性もある。

だから幸村は女性、とだけ言ったのだが、運転手は「カーラさんですか。」と言った。

「(城でお待ちですよ。)」
「(あなたも彼女をカーラと呼ぶんですね。)」
「(ええ。そう呼ぶようにと言われましたので。)」
「(本名は聞きましたか?)」
「(いえ。でも多分知っていますね。)」
「(知ってる?)」
「(確認を取ったわけじゃありません。ただ、彼女の見た目。仕事から逃げた話や体の不自由など見ていると、まあ想像はつきます。イギリス人ですからね。)」

ということは、日本人ではよくわからなくて然るべき、とも言える。

結局、この人もあまり多くを語ってくれそうにはないのを、比較的優秀なメンバーは察したので、この話はもう食い下がらないことにした。

「(ああ、そうです。)」

運転手は信号で止まった際、自分から一番近い席に居た真田に、可愛らしい袋を渡した。

「(何です?)」
「(その中には箱が入っています。どれも同じ見た目です。1つ取って、回してください。)」
「(?)」

「ねえねえなーにー?」
「ええと、あの袋の中に、箱があるから取っていくらしいです。」

「(これは何ですか?)」
「(中にはチョコレートが入っています。包み紙は同じものが2か、もしくは3あります。)」
「(それが?)」
「(それがくじです。同じ包み紙の物を引いた人と回るように、というご指示が出ております。)」

全員が一斉に、自分の持っている箱を見た。
一部、まだ箱を引けてない者も居るが。

「ほう。なかなか面白いことを考えるの。」
「楽しそうですね仁王君。」
「おう。こういうのは好きじゃ。」

「何何?何?」
「中にチョコレートが入っている。その包み紙でペアができるから、城を回る時に組むものが決まるわけだ。」
「チョコ!?やったー!・・・って、あれ?」
「なんだ?」
「ってことは、もしかして中見る時は皆全員で行くんじゃなくて・・・」
「2人か、多くても3人だそうだ。」
「嘘ー!?」

「まあまあ・・・何なら、組み合わせが決まった後に入れ替えして、五十嵐を3人のグループにしてやっても、」
「冗談はよしこさんw後から調整できるくじなんて、面白くないでしょw」
「うむ。黒崎棗の言うとおりだぞ、桑原。それではくじの意味がないではないか。」
「そ、そう・・・ううんまあ、それもそうだけど・・・」

「これ危なくない。」
「危ない?」
「例えばだけど、紀伊梨と仁王で2人とかになったら惨事じゃん。」
「あはは!まあそうだね、そういうことが起こり得るのがくじだけど・・・でもこのくじも、何か細工されてるかもしれないな。」
「細工?」
「具体的なことはわからないけどね。でも、良い感じの組分けになるように、カーラさんが何かしてる可能性はあると思うんだ。」
「まあしそうにないかって言われたらしそうではあるけど。」
「だろう?・・・ああ、紫だ。」
「紫?」
「ほら。」

幸村の手の中には、紫の包み紙のチョコレートが収まっている。

「色分け?」
「そうだと思うよ。柄は入ってないしね。」
「ふうん・・・そうかも。」
「そうかも?」
「あ、いや、柄の話じゃなくて。」
「?」
「・・・細工してるかも。」

幸村の持っているそれと、そっくり同じのが自分の箱から現れた時、千百合は本当に細工を疑った。まあ、細工があろうとなかろうと、結果に文句はない。

「・・・・・・・」

一方、紫希は比較的前方に座っていたので、箱が回ってくるのも早かった。
ただ、開けるのに緊張して、手が止まるのだ。

別に、友達の中での組分けなんだから。
当たりや外れがあるわけじゃないのに。

どんな結果でも、別に良いはずなのに。

「紫希ぴょーん!」
「!は、はい!」
「何だったー!?」
「紀伊梨ちゃんは!黄色!でした!千百合っちは紫だったけどー!またゆっきーに取られましたけどー!」
「取られるも何も、恋人同士なのだから元々幸村のものだろう・・・何をする、黒崎千百合!人にゴミを投げるな!」
「ま、まあまあ・・・」
「で?」
「え?」

通路を挟んで隣に居る丸井が、身を乗り出してきた。

「何色?」
「あ、ええと、まだ見てなくて・・・今開けますね、」

正直、まだ言い知れぬ緊張みたいなものがあるのだが。
でも、ずっと開けないわけにもいかないので。

「赤だったら私、マジで細工疑うわ。」
「この場合は、細工があったとしても構わないと個人的には思うが。」
「柳もそう思うんだ、俺もwというか、無効でやり直しとかになったら、お前だって困る・・・いったあ!止めて妹!はげる!はげるって!」

(赤・・・?)

赤だと、何かあるんだろうか。
黄色なら紀伊梨と一緒なのは分かっているが。

話す中で緊張が和らいできて、箱をゆっくり開けると、照明に照らされてつやっと光るチョコレートが出てきた。

きれいな赤い紙だ。

「よっしゃ、やった!」
「え?」
「じゃーん♪」

丸井は大層ご機嫌な顔で、赤いチョコレートを見せた。

「あーーー!取られたーーー!もーーー!」
「お前さんのでもないじゃろ。」
「ブンブン取り替えてー!」
「絶対やだ。」
「諦めんしゃい、くじっちゅうのは引いたら終いなんじゃ。」
「まあ、先ほどもお話が出ましたが、後から取り換えるなど無粋ですからね・・・おや。私も黄色ですよ五十嵐さん。」
「やったー!それは嬉しい!やーぎゅはまあまあ優しいし!後は!?他に黄色の人は?」
「俺だ。」
「やったー!」
「真田君ですか、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく頼む。」
「何か・・・珍しいな、五十嵐が真田と一緒を喜ぶなんて。」
「真田っちはゆーれーより強いもんね!」
「ああ、そういう話か・・・」

後ろを向いて、会話を聞きながら笑う丸井の手には、何度見ても赤いチョコレートが乗っている。

自分は丸井と回るのだ。
幽霊城を。

「あ、あの、丸井君・・・・」
「うん?」
「私あの、お城ではできるだけ静かにしてますから・・・私だけが楽しくならないように・・・」
「え?なんでーーーー」

何の話かと思ったが、丸井もピンときた。
そうだ、そもそもその話。

「いや、あの・・・昼の話は気にしなくて良いって。あれは俺が悪いんだし。羨ましかっただけだから。」
「・・・羨ましい?」
「・・・楽しそうだったから。」
「え?あ・・・・もしかして丸井君、お昼のご自分のルートが、そんなに好きになれなかったんですか、」
「じゃ、なくて。春日が楽しそうだから、楽しそうにしてんのを見てられる柳と柳生は良いな、って思ったって話。」

あんまり細かく説明させないで欲しい。
人を羨ましがって不機嫌な顔になるとか、そんなにかっこいいことじゃないんだから。
そもそも自分が悪いんだから、しょうがないけど。

「だから春日は、俺が昼見そびれた分も楽しそうにしてろい。OK?」
「・・・じゃあ、」
「うん?」
「じゃあ・・・丸井君も楽しそうにしててください。」
「俺?」
「はい。私も、楽しそうな丸井君が見たいです。」
「俺は春日と居たら楽しいけど?まあ、今日の昼は例外って感じで。」
「それはでも、私だって丸井君と一緒なら楽しいですから」

「あの、ちょっと良いですかw」

丸井の真後ろに居た棗が、顔を出した。

「どうしたんですか?」
「あのね、もう0時回ってるからさ、カロリー高い会話控えてくれないw胸やけしそうw」
「?会話にカロリーも何もなくねえ?」

丸井のコメントに、さっきから笑いっぱなしな幸村の笑いがまた深くなった頃、バスは停まった。

めいめい立ち上がってバスを降りると、少し離れた所でカーラが手を振っていた。

「(無事に着いたわね。ようこそ・・・紹介するわ。ヴィンセント城よ。)」

深い霧に覆われたイギリスの古城は、怪しげに一同を待ち構えていた。