Queen’s country:Haunted castel 1 - 4/9


暗がりの中、足音が響く。
一応明かりはついては居る。
ところどころ。
ろうそくに火を灯したものばかりなので、はっきり言ってあまり役には立ってないのだが。

「火をつけていて危なくないのか?」
「まあ、石でできているので。木造で燃えやすい日本家屋とは、また少し違いますよ・・・五十嵐さん、ここには何も居ませんから。」
「出てくるかもしれないじゃん!」
「もし襲われたらその時は、五十嵐さんより私が先ですよ。必ず。」

捉えようによってはときめく台詞なのかもしれないが、単純に紀伊梨が一切前に出たがらないので、物理的な話である。
真田は何も言わなくても殿から動かないし。

「さて・・・おや、ここは。」
「何だ?」
「おそらく客間ですね。」

客間はぼんやりと明かりの中に浮かび上がっていて、そしていろんな物が荒んでいた。
びりびりのカーテン。
枯れた花。
ご丁寧に花瓶には、足下に地獄の門があることに気づかずピクニックに向かう一家の絵など描いてある。

「・・・趣味が悪いな。」
「まあ、持ち主は悪趣味を楽しむ人だったようですから。彼女の言うことを信じるなら、ですが。」
「ねえもう早く出ようよー!」
「ならん!これも文化史の学習だ!本来なら、お前も見なければならないのだぞ!」
「そんなこと言ったってー!」

まあ、文化史の学習とか、半分以上こじつけなのだろうが。
それでも、それをまともに受け取る真田に、柳生はやや苦笑する。

「まあ・・・とはいっても、この部屋は単に古めかしいだけでしょうかね。」
「そうだな。怪しげな物も特に見当たらん。」
「ほんとー・・・?」
「ええ。」

ただ、かけてある絵画とかは、やっぱり趣味が悪いのだが。
まあ暗いし、じろじろ見ない限り、紀伊梨は良く意味がわからないだろう。

「む?」
「真田君?」
「何!?何!?何か居たの!?」
「居たというほどではない。ただ・・・」
「ただ?」
「あそこの花瓶の所に、人の手のようなものが見えた気がしてな。」
「ぎゃあああああ!」
「うるさい!」

ライトで照らしてみても、もう花瓶しかない。
少なくとも、見た目はさっきと一緒。

「2人とも、ここに居ろ。」
「真田っちどこ行くの・・・?」
「花瓶を見てくる。」
「駄目だよ!何言ってんの、駄目だよ!そーいうのって、触ったら呪われちゃうよ!毒とかついてるよ!」
「ええい、やかましい!呪いや毒が怖くて、幽霊屋敷に来れるか!怖いと思うのなら、そもそも来とらんわ!」
(正論のような暴論のような・・・いや、微妙な所ですね。)

確かに、危なそうとわかってて行くのは馬鹿では、というのは正しい。
ただ一方で、避けたいのなら最初からこんな話に乗るなよ、というのも正しい。

「ただまあ、気を付けるに越したことはありませんので。」
「ああ、すぐに戻る。」

そう言って、真田は実に迷いのない足取りで花瓶に近づき、枯れた花を持ち上げた。

「どうでしたか?」
「・・・何もないな。」
「そうですか。もしかしたら、手ではなく、大型の蜘蛛などが居たかも、とも思ったのですが。」
「なるほど、確かに虫を見間違えたという線もあるな。」
「もーいーよ!なんでも良いよ!いこーよー!」
「そうですね。何はともあれ、何もなかったという結論は出ましたし。」
「ああ。おそらく見間違いだろう。行くとしようーーー」

テン、

という、およそ場違いな音が聞こえたと思った。
そう例えば、まるでゴムボールが跳ねるかのような。

「あ!ボールだ、ボール!」

薄暗い廊下を、コロコロ・・・と転がって、部屋の前を通過したのは、まさしくゴムボールだった。
こんな幼児に似つかわしくない場所で、まさに幼児が好んで持っていそうなボール。

廊下に3人が出て、ボールを拾おうとした時だった。
軽い足音がした。

「・・・今の誰?」
「わからん。しかし、足音の響きと軽さからして、俺達の誰かではないだろう。」
「カーラちんってこと?」
「逆だ。俺達よりも、もっと小さい誰か・・・柳生?どうした?」
「・・・いえ。少し。ふむ・・・・」

柳生の脳裏には、微かな違和感があった。
花瓶の時からすでに違和感はあったのだが、このボール。

「・・・これは、今風のものですね。」
「うむ。しかし、この城はもう何年も前に、住んでいる人間の記録が途絶えて久しい、と説明をされていた。つまり・・・」
「つまり?」

「他所の子供が紛れ込んでいる可能性が高い、ということだ。」

えっ。

と、柳生は声が出た。

薄暗い洋城。
子供の足音。
ボール。

これだけ見ると、典型的なホラーの演出そのものなのだが。

だが生憎、紀伊梨も真田も、ホラーとはあまり縁が無かった。
ホラーのテンプレを知らない。
だから、素で本当の子供が迷い込んでいる・・・と、思っている。

まさか、そう来るとは。

「え、どーしよどーしよ!こんな暗くて、お化けもたくさん出そーなとこで迷子とか、大変だよ!」
「ああ。物の怪の類の有無はともかく、暗く足場が悪いのは事実だ。火の気もあることだし、早急に保護せねばなるまい。」
「タグ・・・うむ・・・?サッキューって何?ハイ/キ/ュー!の仲間?」
「違う!ええい、説明は後だ!行くぞ、五十嵐。ついてこい。こうなると、怖いなどと言ってられん。怪我人が出るやもしれんのだからな。」
「お、おー!ラジャー!!」
「柳生、ここからは殿を任せても・・・柳生?」
「ああ、いえ。はい。」

絶対こんなノリは想定されてないけど。
まあ良いか。

説明を放棄した柳生は、言われた通り最後尾に着いた。