Queen’s country:Haunted castel 2 - 1/6


「んー。」
「どうしましょう・・・」

丸井と紫希は、頭を悩ませていた。

端的に言うと。
2人は迷っていた。

逃げる時に結構無我夢中で走ったせいで、元居た書斎がわからなくなったのだ。

「まあ、迷っちまったもんはしょうがねえし。別に良いんじゃねえ?」
「え?」
「絶対行かないといけない、ってわけでもねえしさ。そもそも、今も動いてる保証は・・・お?」
「わあ・・・」

2人は、迷った挙句ダンスホールまで来てしまった。

流石にガラス張りで開放的な空間になってはいるが、それでも至る所が黒い暗幕のようなもので覆われていて、夜空なんてちょっとしか見えない。

そして。
中央の壁には、大きな絵画が飾ってあった。

一人の女性が、座ってこちらを見ている。
結構典型的な肖像画だ。

ただ。

「・・・・・・」
「春日?」
「・・・丸井くん、この人ご存じないですか・・・?」
「え?」
「私、どこかで見た気がするんです・・・この絵の人・・・・」
「そお?あ、あれか!美術の教科書的な話?」
「教科書・・・」

教科書。
いや、違う。
もっと違う場所で。
もっと前に。

「・・・ごめんなさい、行きましょう?考えても、出てきそうにないですから。」
「そう?まあ、他に見るもんもねえしな。行くか。」
「はい。」

と言いつつ。
気になって、紫希は後ろを振り返ってしまった。

そこではっきり見たのが。
絵の目が動いて、こちらを見たのを。

「・・・きゃあああああ!」
「!?おい、どうしたんだよ!」
「今、今、目が、」
「目?」
「目が動いて・・・!」
「マジかよ・・・おい、とりあえず出るぜい!どうせ出るところだったんだし、早くーーーえ?」

丸井はドアノブを捻った。
だが、固い手ごたえがあるだけだった。

「・・・嘘だろい、おい!開けろい!」

さっきまであんなに自然に開いたのに。
急に不自然なほど固くなった扉を、丸井はバンバンと遠慮なく叩いた。

こうなると、テニス部で一番非力な丸井は不利である。
一番非力と言っても、それでも強い方ではあるんだけど。

「あ・・・ああああ・・・」
「今度は何ーーーひっ!」

肖像画は、二人が扉から目を離している隙に、様相を変えていた。
見た時は美しい女性だった絵が、今や見るもおぞましい老婆に変化していた。

目が動いただけなら、気のせいかもしれない。
でもこうなると、もはや絶対気のせいではない。

どうする。
どうしよう。
どうしたら良い。

見たくないけど目を離すのも怖くて、青い顔でずっと肖像画を見つめ続ける紫希を、丸井は反射的に抱き寄せた。

(落ち着けーーー落ち着けーーー)

「ーーー逃げねえと。」
「え?」
「こんな所、ずっと居る理由ないだろい?」
「で、でもどうやってーーー」
「どうやってかはわかんねえけど、手段を選ばなかったらどうにか、」

(手段を選ばない・・・?)

紫希はその言葉に、思考を促された。

本当に、本気で手段を選ばないのなら。
それならーーー

「窓・・・」
「え?」
「窓が開くかもしれません!」

ここがダンスホールなのが幸いした。
窓ならたくさんある。

丸井は窓の方を見た。
はめ殺しとばかり思っていたが、確かに探せば開く窓は見つかるかもしれない。
いや。もう、開かなくても良い。
窓なら破れる。

「おし!それで行くか!」
「はい!」

2人は壁沿いに一番手近な窓を目指した。
できるだけ肖像画と距離を取りたいがためだ。

いまや、肖像画の目ははっきり2人を追っている。
笑い声まで聞こえる気もするが、もはや本当に聞こえてるのか、幻聴かどうかもよくわからない。

「これだな、窓!鍵、鍵ーーーーー」
「ありました!」
「開けられそう?」
「はいーーー開いた!できました!」
「おし!出ろい出ろい、」

紫希を先に行かせた丸井は、バルコニーから外を見た。結局最終的には、完全に屋外に出た方が良いわけだが。

(あれ?ここって1階?いや、にしちゃあ高いしーーーでも2階にしては低くねえ?)

丸井の感覚は、当たっている。
ここは、1.5階であった。
建てられた当時、地面と1階が近いと汚いという理由から、半階上がった所を便宜上1階として建てられたのである。

なので、一番地面に近い階としては1階だけど、高さ的には1.5階なのだった。

何にせよ、紫希が居る以上、ちょっとでも低い方が有難いに決まってる。
普通に一階なら良かったのに、と思う丸井は、紫希に続いて窓から外に出た。

しかし。

「・・・・・?」
「丸井君?」
「なあ、何か聞こえねえ?」
「聞こえる・・・?風の音ですか?」
「じゃなくてこう、カランカラン、みたいな?」
「カランカラン・・・固い音ってことですか?」

紫希は、木が風でぶつかる音かなと思った。
そして、上方を見上げた。

それが、良くなかった。

「ひ・・・・!」
「え?うわ!」

上空に、何かぶら下がっている。
それが音を立てているのだ。

いや。
何かとか言ったが、あのシルエットはーーーどう見ても人体である。

作り物かもしれない。
でも、絶対作り物だと言えるだけの保証があるのか。

本物だったらどうする。

2人の心にその思考が過った瞬間、人影はがく、と上空で揺れた。

落下だ。
落ちてくる。

「ーーーー春日!」
「え、」

丸井に名前を呼ばれた瞬間。
何故か紫希は、他にも春日、と呼ぶ声を聞いた気がした。