「何やて。」
「嘘だろ・・・!」
「おい、止めておけ!絶対、今日みたくなるって!」
「ならないもんっ!私、明日絶対紫希ちゃん達と遊ぶんだからっ!」
氷帝学園にヘリにて帰還。
その後残りのメニューをこなし、後片付けを皆でやっている最中、可憐が落とした爆弾は3人を焦らせるのには十分過ぎた。
「そんな事言ったってお前、湘南だぞ湘南!」
「でも行きたいもんっ!折角明日休みだし、予定も無いし、それにもう約束したんだもんっ!」
宍戸の進言も暖簾に腕押しである。
氷帝学園に向かっている途中、ビードロズの4人と可憐は、休みなら今度は神奈川で会わないかという話を纏めていたのであった。
明日休みなのは本当だし、折角休みなのに予定はないなあと思っていたのも本当。
今日の出会いに伴う遊びの誘いは、可憐にとっては渡りに船としか言いようの無いものだった。
「明日はちゃんと調べて、落ち着いて行くもんっ!」
「そ・・・はあ。」
「しょーがねーなー。」
「・・・可憐ちゃん。」
「はいっ!何、忍足君?」
「気を付けるんやで?何かあったら、連絡は向こうの子等でも俺達でも、すぐ取れるようにしときや。」
「うんっ!」
心配だが仕方あるまい。
迷子になるからと言ってずっと家に居ろというわけにも行かないし、そんな風に口出しする権利なんて誰にも無いし。
るんるん気分で片づけに戻る可憐を、忍足達はなんとも言えない眼差しで見つめてしまう。
「本当に大丈夫なのかよ・・・」
「まあ、ほら。今回は、桐生だけの所為でもねーから。ジローが駅から出て引っ張りまわしちまったんだろ?」
「野良猫追っかけて、なあ。岳人の言う通りやったわ。」
今度から、外出のコンビとして可憐と芥川を組ませるのは絶対に止そう。
テニス部全員がそう思ったのだった。
「侑士くーん!ちょっと手伝って下さーい!」
「おん。ごめん、ちょっと行くわ。」
「おう。」
「・・・・・・」
網代が手を振る作業場に、いそいそと向かう忍足の背中。それを向日はつい無言で見つめてしまう。
ああそうだっけ、あの2人も明日は映画だったっけ。
「岳人?どうした?」
「ん?あ、いや!そのー・・・桐生になんか、お土産ねだろーかなー、とかって。ほら、俺も明日家族で出かけるし!」
「ああ、そっか。」
「亮は?」
「俺は別に。店の手伝いだな。」
そっか、頑張れ、と返事しながら、向日は内心でちょっと祈っていた。
明日が、可憐にとって楽しい日でありますように。
映画の事とか、忘れる位楽しい日でありますようにと。
「こんな事やろうな、思たわ。」
忍足は、網代と2人しか居ない作業場で、椅子の上に立って只管小物を棚上に移動していた。
「うふふっ!忍足君、背が高くて頼みやすいんだもん。ごめんね?」
そう言って悪戯っぽく舌を出す網代。
大凡大半の女子がこんな表情をしても鬱陶しいだけなのに、網代はしっかり可愛いから困る。
「茉奈花ちゃん、そういう顔しとったら俺が言う事聞くて思ってるやろ?」
「んー?どうかな。」
「はあ・・・」
「ふふっ。因みに、思ってるとしたらどうなの?」
「俺の事よう分かってるな、って思うわ。」
「・・・ふ~ん。」
そうなの。
そう、なんだ。
そう呟く網代の声量が急に小さくなったのが可愛くて、下を向いたらつい、と目逸らしされた。
耳の端がほんのり染まっているのが可愛らしくて、口の端が緩む。
「なあ、明日の事やねんけど・・・」
「あ!明日で思い出した!」
網代はパッと忍足の方を向いた。
「可憐ちゃん、明日湘南に行くでしょう?」
「なんや、知ってたんや。」
「ヘリで聞いたの。侑士君、お土産話を聞いても機嫌悪くしちゃあ駄目よ?」
「・・・・・・」
「どうして目逸らしするんでしょうか~?忍足侑士君?」
痛い所を突かれた。
「・・・でも心配やん。」
「それはどういう意味かしら?」
「やって、彼奴絶対人の事掌で転がすん得意なタイプやで。」
「あ、それは私も思うわ。」
可憐の様なタイプと棗の様なタイプが出会った場合、棗のタイプの側が良心的な性格でなければ、あっと言う間に手玉に取られてしまう。
忍足はそれが怖いのだ。この、良く知りもしない棗の事を、信じるしかないという状況が。
「うーん、でもほら。棗君にだけ会うわけじゃないから。ね?」
「まあ、せやねんけど。」
「それにほら、類友って言うから。皆良い子なんだから、棗君だけ変な人だとか、そういうのは考えづらいわよ。」
「せやな・・・」
そう言われると、確かに安心材料は色々ある。
(・・・いや。ちゃうねん)
違う。そうじゃない、そうじゃない。
そうじゃ、ない。
「・・・・・」
「・・・侑士君?」
「ん・・・いや、何でもあらへん。」
「そう?」
「それより、話戻してもええ?」
「ん?」
「俺らの、明日の話やねんけど。」
俺らの、の部分をちょっとだけ強めに言うと、網代はキョトン、とした顔になった後、クスクスと笑った。
「そこ笑うとこやろか?」
「だって、なんだか必死なんだもの。」
「あかん?」
ひた、と見据えた眼差しを送られると、網代は笑うのを止めざるを得なかった。
「・・・・・・」
「まあ、あかんて言われても止める気はないねんけど。」
「・・・あの、」
「それ。」
「え?」
「次の箱。」
「あ、うん。」
いつになくおずおずとした手つきになる網代。
その様子がおかしくて、忍足はフッと笑った。
「自分で突いといて、なんやねんな。」
「・・・だって。」
「だって?」
取り様によったら、口説いてるように思えるわよ。
その切り返しは、網代の喉の、上の方まで来て詰まった。
畳みかけられるような、気がして。
「・・・秘密!」
「教えてくれへんの?」
「うーん、その内気が向いたら、ね?」
「何時になるんやろ。」
「・・・案外、近いかもしれないわよ?」
貴方になら。
もし口説かれても良いと思うようになる日は。