自然史博物館で午後を過ごすと、もうその日のスケジュールはほぼ終わったようなものとなっていた。
食事まで終わって、今日は郁の影を見なかったことに、千百合は内心でちょっとほっとしていた。まあそもそも、これだけ人数が居て、ピンポイントでばったり会った昨日の方が変だった、とも言えるのだが。
ともあれ、今日はもう寝るだけ。
明日は午前だけ施設見学したら、昼からはもう帰国の段取りに入る。
ああやれやれ、今日も終わったな、なんてベッドに寝そべろうとした時だった。
紀伊梨から、ホールに集まれの呼び出しがかかったのは。
呼び出されたのは、いつものメンバーだった。
そして、さらにいうと、呼んだのは厳密には紀伊梨ではないらしかった。
リラだ。
リラが紀伊梨を通じて、全員をホテル前に呼び出したのだった。
「来たは良いが、用事は何だ?」
「わかんなーい!説明しにくいから、後で直接するってー!」
「というか、2日連続夜間外出は良いのこれw」
「まあ、先生方も何も言ってきませんからね。不思議と。」
「ここまで何回も夜に出歩くんだったら、もっとちゃんとしたアウター持ってきたら良かった。」
「そうだね、10月とはいえ結構冷えるから。」
「まあ、今日は霧も出ていない分、いくらかはマシだ。」
「ああ・・・そういえばそっか。」
千百合がちらりと窓の外を見ると、確かに視界が晴れていた。
「私達全員を呼ぶって、どういうご用事なんでしょうか・・・?」
「歌ってくれたりとか?あー、でもプロの歌手がそういうのは、やっぱまずいか。」
「そうですね。それに、わざわざ夜に呼び出してって言うのも・・・」
(流石に、恋愛関係のことではないだろうけどな・・・)
「ジャッカル?」
「あ、いや!何でもない!」
会話しながらホテルの建物を出ると、前庭のベンチにリラが一人で座っていた。
「紀伊梨!」
「リラちーん!来たよー!」
「(ありがとう。皆もごめんなさいね、急に。)」
「(まあ、どうせ自由時間じゃき。)」
「(して、用件はなんですか?)」
「(・・・実はね、皆と別れた後、ホテルに女の人が来て。)」
「なんて?」
「ホテルに、女性の人が来たらしいです。」
「(でね、その人、カーラって名乗ったの。紀伊梨たちに烏を預けてる人ですか、って聞いたら、そうだって言ったわ。)」
「(カーラさんが?)」
「え?何?何?」
「カーラーーーー人間の女性の方のカーラが、彼女を尋ねてきたそうだ。」
「え、何で!?」
「ええい、それを今から聞くのだ!静かにせんか!」
「(それでね、彼女、貴方達と私に、お礼をしたいっていって・・・」
「お礼は昨日、お城を見せて貰ったのでは・・・」
「今日の分のお礼的なことかねw」
「なんだか悪いね。本当に、連れて歩いただけなのに。」
一同がやったことというと、リュックに乗せて連れ歩いて、食事の時にはミネラルウオーターとかパンとかをちょっと分けただけ。
烏のカーラは非常に大人しく、賢く、トラブルを起こさないので、旅のお供として邪魔になったことなどほぼなかった。
そんな感想を他所に、リラは話を続けた。
「(それでね、彼女これをくれたの。皆でどうぞ、って。)」
「これ・・・チケットか?」
「見せて見せてー!えーと?ロン・・・ロンドン・・・いえ?」
「ロンドン・アイだ。」
「ロンドン・アイというと・・・・」
一同は、一斉にそれを見た。
遠くの方。
いわゆる観覧車に属する、ロンドン・アイと名付けられたそれは、夜でも輝きながら人を楽しませて動いている。