「(そう・・・恋をしたことがないから・・・)」
「うん。」
リラは、紀伊梨がプロダクションの社長から「アイドルにはなれない」と言われたことは知っていた。
だが、理由までは知らなかった。まさか、「恋の経験がないから」だなんて。
「皆そのうちって言うけど―・・・紀伊梨ちゃん、本当にそのうち好きな人とかできるのかなー?なんか、いまいち信じらんなくなってきたっていうかー。」
「・・・・・・」
「リラちん、どう思うー?」
リラはなんと言ったものかわからないでいた。
浮かんでくる言葉はいろいろある。
でも、どれが今の紀伊梨のためになるのか、その判断がなかなかつかなかった。
「(・・・紀伊梨、マーフィーの法則って知ってる?)」
「??ミッフィーの仲間?」
「(あはは!違うよ、マーフィーの法則。探すのを辞めるとそれは見つかる、っていうの。)」
「え、探すの止めちゃうの?なんで?」
「(解釈はいろいろなんだけどね。私は、人が何かを探している時、沢山の物を見落とすからじゃないかな、って思う。)」
「・・・?」
「(人って、何かを探している時焦ってるものなんだよね。それに、疑り深くなる。本当に自分が探してるものなのかどうかって、粗探しばっかりして・・・心で感じることを忘れてしまう、っていう風に思ってるんだ。)」
「・・・・・・」
「(だから、紀伊梨も恋って何かな、どこにあるかな、って考えるのは、止めた方が良いんじゃないかな。きっとそうやってる間は、かえってよくわからなくなると思うよ。)」
「えー、でも・・・」
「(うん、わかってる。難しいよね、実際。探すなって言われても、欲しいんだもん・・・私もそうだったよ。)」
「え?何が?」
「(私、歌えなくなった時、ずっと探してたの。自信の取り戻し方をね。どうすればまた歌えるのかって必死になって・・・セーシェルに行く前の話だけど、オーデイション受けまくってみたり、逆に一切露出しないでレッスンばっかりやってみたり。本当にいろいろやったけど、見つからなくて・・・どうにもならなくて。
ママに、旅行に行きましょうって言われた時も、実は私そうとう抵抗したんだ。そんな暇ない、って。旅行に行って解決する事なんて、何もないと思ってたから。でも、ほら。
私、旅行に行ったら紀伊梨と貞治に会えたのよ。)」
イギリスへの帰路の途中、リラはセーシェルでのことを、夢でも見ていたんじゃないかと本気で思っていた。
今まで、ずっと自分の努力でやってきた。
初めてのオーディションも、レコーディングも、デビューも何もかも。
だから今度も同じだと思った。解決するのは自分の努力でーーー逆に言うと、努力以外何も自分を救えないと思っていた。
でも紀伊梨と乾は、まるでシンデレラを助ける魔法使いのように、いとも簡単にリラに歌う感覚を取り戻したのだ。
もちろん努力だって必要だろうと思う。
でも、やるだけやったなら、後は運が向いてくるのを待つのも一つの方法なのだと、リラはあの時初めて思った。
「(私、紀伊梨はすごく頑張ってると思う。そりゃあ普段は日本に居ないし、私が紀伊梨について知ってることなんて少ないけど、でも私は歌手だから、アーティストとしての紀伊梨のことは、そこらの人よりわかる。)」
「・・・・・・・」
「(紀伊梨の歌声で、紀伊梨は今まで、本当にたくさんの時間を音楽に割いてきたのを感じるの。紀伊梨自身は頑張ってる、なんて意識ないかもしれないけど、紀伊梨は頑張ってるよ。今まで頑張ったんだから・・・自分を信じて、気にしないようにしてみるのもありじゃないかな。
きっといつか、紀伊梨の王子様が来て、紀伊梨のこと助けてくれるよ。)」
そんなわけない、と人は言うかもしれないが、今のリラはそんなわけない、という意見こそ信じられない。
だって、自分は魔法使いに出会えたんだから。