Queen’s country: London Eye - 6/6


ロンドン・アイを降りると、一同は来た道を戻ってホテルに帰った。
行きはリラがホテルまで迎えに来てくれたが、帰りは途中で別れて、一同はリラを伴わずホテルまで帰ってきた。

もう夜も遅いし、なんだかんだ、疲れたし、おやすみ。また明日。
そうして別れた所だった。

幸村の部屋の扉を、誰かが叩いたのは。

「・・・・?」

幸村は起きた。
同室のクラスメイトは他に3人居たが、誰も起きていない。

(先生なら名乗るだろうから・・・生徒の誰かかな?)

時間的にも、おそらくそうだろうと思われた。
もう2時である。

まあ、不審者の線はあまり警戒していない。
ここは今関係者しか居ない。他の人間は、入口で跳ね除けられる。

「はい、どちら様・・・あれ?」

扉の向こうには誰も居なかった。

しかし、視線をゆるゆる下へ向けていくと。

「・・・やあ。どうしたんだい、こんな時間に。」

カア。

足下には、カーラが居た。

カーラは廊下の奥へと歩く。
幸村は扉を閉めて、後について行った。

「皆を起こそうか?」

・・・・・

「要らない?」

カア。

「ふふふっ。そう。」

歩いていると、外はまた霧が出ていた。
帰った時は晴れていたのに。

イギリスは霧が酷い。
そう聞いていたけど、こんなに酷いもんだろうか、とも幸村は考えていた。

特に、このホテル周辺だ。

実際、このホテルの霧なしの姿を、幸村はほとんど見られていない。
特に夜はなおさら。
ここにきて3日目になるが、例外なく3日とも霧が出ている。
どんなに日中晴れていても。
どんなに外出先が晴れていてもだ。

リラが尋ねに来た時は晴れていたが、今日も最終的にはやっぱり霧になっている。

イギリスじゃどうか知らないが、少なくとも日本人で霧を吉兆と取る人はほとんど居ないだろう。晴れていれば、その方が良いと皆思うはずだ。

どうも気分的にスッキリしない・・・・と幸村が考え始めたところで、ふと気づいた。

カーラが居ない。
そして、側の窓が開いている。

(ということは・・・・)

窓を覗くと、人間のカーラが立っていた。

「(こんばんは。)」

カーラはにっこり笑っていた。
心なしか疲れてるように見える・・・というか、顔色が悪いと感じたが、多分気のせいだろうと思い直した。
ここは暗い。霧のせいで猶更。

「(こんばんは。チケットの方、ありがとうございました。あんな大人数の分を。)」
「(良いのよ、気にしないで。)」
「(でも安いものではないですから、)」
「(ずっと働いてきたんだもの、このくらい良いわよ。)」

(・・・・・)

ずっと働いてきたんだもの。
このくらい良いわよ。

これはつまり、ずっと働いてきたんだから”奢るだけのたくわえがあるので”このくらい良いわよ。ということである。
普通に考えたらそうだ。

でも、カーラ自身は決して奢るとか支払うとか、そういう言葉を出さない。
まるで、自分は特別だから、支払いなんてしなくて良い身分なのだーーーと言ってるかのよう。
そんなわけないのだが。

(どうもこの人は、引っかかる物言いが多いというか・・・)

「(それで、何かご用でしょうか。)」

幸村の質問に、カーラは、少し悲し気に微笑んだ。

「(お別れを、言いに来たの。)」

「(・・・え?)」

今か。と反射的に思った。

「(ですが、明日はーーー)」
「(明日はもう良いの。元々、明日は連れて行ってもらうつもりもなかったわ。今日で終わりよ、面倒見てくれてありがとう。)」

長々と話されたわけではないが。

その態度に。
その声音に、幸村は悟った。

多分、もう会えないのだ。
事情は知らないけど。

「(本当にありがとう。本当に・・・なんて言って良いか、わからないくらい感謝してるわ。)」
「(・・・皆を起こして来なくて良いんですか。)」
「(良いのよ、良いの。でも、精市。)」
「(はい?)」
「(皆を代表して、ってことで・・・貴方には、私の本当の名前、教えておくわね。)」

幸村が小さく息を飲んだのと同時に、カーラ・・・いや、彼女は言った。

「I’m merlina.」